ダブルのデビュタント
チェリーは八歳だったが、子爵の命令で二つ上の異母姉のマンゴーと一緒にデビュタントを行うことになった。
とはいえ中級貴族のことだから派手には行わず、領主宅で同じ派閥の男爵や騎士爵の子弟や子女を招いての簡素なパーティだったのだが。
そこに寄親に当たるフォルテシモ伯爵が参入して来て大騒ぎになった。
もちろん一応義理で招待状は送っていたのだが、参加の意思表明がなかったので、不参加だと思っていたのだが、伯爵はやって来たというのだ。
「三女のマンゴー嬢だけのデビュタントだと思い、参加を見送っていたが、四女のチェリーエッタ嬢のも兼ねていると聞き、急遽駆け付けて来た次第だ。」
伯爵は五十歳過ぎた腹の出た男で、幼い少女ばかりを愛人にして残酷なプレイを楽しむという噂があるらしい。
近くにいた令嬢たちが声を潜めて震えながら噂話をしているのを聞いてしまったのだ。
どうやらその生贄?にマンゴー嬢が名指しをされていたらしいが、どうやらマンゴーにはさらに可憐な妹がいると聞いて確かめに来たらしい。
ということは、今回のダブルデビュタントは子爵が仕組んだことか。
嫡子のマンゴーを伯爵の側妃に差し出すのが嫌で、庶子のチェリーを代わりに押し付ける為の工作だったのだ。
その伯爵が爛々とした眼差しでチェリーの姿を捜していた。
「チェリーエッタ嬢はどこかな?」
会場全体に響き渡る声での伯爵の問いかけに、全員の視線が壁の隅にいたチェリーの方に集中した。
うわぁぁ、見るなぁ。
こっちを見るなぁぁ。
って、見つかってしまったじゃないか!
伯爵はドスッドスッと会場を縦断して真っ直ぐこっちに向かって来る。
まるでサファリパークでカバの突進を受けている感覚だ。
「チェリーエッタ嬢、捜したぞ。
お前をわが伯爵家に側妃として迎えたいので、明日から来るように」
「えっ、もう決まったことなんですか?初めて聞くのですが」
「つべこべ言うな。儂が決めたことはもう決定したと同じ事よ」
「……」
誰がカバの愛人になるものか?
「それじゃあダンスを踊るぞ。
姉のマンゴーよりもスタイルが良いじゃないか」
「あのう、私はダンスは不慣れで足を踏んでしまうかも」
「つべこべ言うな。
お前は黙って言う通りにすれば良いんだ」
このデブガエルめ、俺の意志は無視かよ。
チェリーは頭に来た。
ようし、見てろ。
ダンスのステップは体重移動を必ずするからそのとき柔道の足払いをすれば無様に倒れるに決まってる。
って、ステップを間違えた振りをして足を払おうとしたけど、体重差があり過ぎて倒れてくれない。
それにグローブのような手で両手をがっちり握られてるから逃げられない。
なんとかこのロリコンモンスターから逃げることができないか?
結局チェリーは足がもつれた振りをして伯爵の小指を靴の上から思い切り踏んだ。
「ぎゃああ」
そんな痛い思いをしても伯爵が手を放さないので指一本を掴んでガクンと体重をかけた。
「あぎゃあああ」
「ご……ごめんなさーーーいぃぃぃぃ!」
チェリーは両手で顔を覆って走り出した。
そしてあっという間に子爵邸から姿を消した。
その後いくら領内を捜してもチェリーは二度と姿を見せなかったという。




