第5話 十二星大戦と裁定者
「……12体のうちの?」
フレイルの顔に影がさした。
訝しむように聞く少女に、ハルトは妙に落ち着き払った態度で一言だけ伝える。
「そうなるね」
「じゃあ、敵じゃない」
フレイルはハルトの手を振り払った。
パンッと乾いた音が響く。
立ち上がり、フレイムソードを右手に掴みなおして睨む。
「いいのか?」
ハルトが痛みで赤くなった手をさすりながらフレイルの目を見る。
「俺と敵対して」
空気が変わった。
敵と断じた者を容赦なく切り払う、その冷たく鋭利な刃物のような視線。
それが、フレイルを射抜く。
強烈な、それでいて強固な殺意の塊。
やはり、十二星の1人
尋常じゃないほどの殺意の圧を感じて、フレイルは額に汗が伝った。
人にも同類殺しや犯罪を犯す輩がいる。
それに、異端審問の処刑と称して魔女と断じた人間や本物の魔女を殺したこともあったとフレイルは授業で聞いた。
けれど、人の姿をしている者による本物の殺意は初めてだった。
フレイルは「私を殺すの?」と震える声で聞いた。
「いや?」
途端に、ハルトから感じる殺意が揺らいで軟化した。
「君が僕を裏切ることなく協力関係を経て、僕を神の座まで連れていってくれるなら、ね」
「脅してるのと同じじゃん」とフレイルは思い、言おうとしたが、ハルトがもう一度手を差し伸べる。
「君とは良好な関係を結べそうなんだ、僕は君を裁定者として生かす。だからーーーよろしく頼むよ」
ハルトの目には偽りがなさそうだった。
けれど、その奥に並々ならぬ覚悟が見て取れる。
異界にも生活があり、それぞれの境遇があるのだろうか。
そう思ったらフレイルは自然とハルトの手を握っていた。
「よろしくね、宇宙人さん」
「ハ・ル・トだ! 宇宙人言うな! 」
「ごめんごめん」
そうして、2人で笑った。
フレイルは心なしか気持ちが楽になっていた。
そんな気がした。
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髪でできた繭から人々を解放したあと、フレイルとハルトは東京都内を歩いていた。
人々が闊歩して活気がある。
フレイルは服屋のショーケースを横目で見ながら口を開いた。
「よろしく、とは言ったもののこれからどこ行こうか? あんたを潰せば、12体のうち1体を倒せ……冗談! 冗談だから、そんな怖い顔しないでよ、やだな〜」
ふん、と腕組みをしてハルトはそっぽを向いた。
だが、ため息をついて「もういいよ、当面の計画と君の役割について話がしたい。落ち着いて話せるところに行こう」
そうハルトは提案した。
「とりあえず、カフェにでも行こうか」
カフェ内
漆塗りされた木の肌触りが気持ちいい。
平日の昼間だからか入店してる客数も少なかった。
喧騒もなく話に集中できそうだ。
緑色のエプロンを着た店員にフレイルはカプチーノを頼み、ハルトはフルーツパフェとコーヒーと苺タルトを頼んでいた。
向かい合う形で座るものの、後から持って来られる量を想像すると少し憂鬱な気分になる。
フレイルはため息を吐いた。
「あんた……人と話すってのに、なんでそんな食うのよ」
「や〜、薔薇の女王の攻撃を吹き飛ばした魔法あるだろ? あれが割と燃費悪くてね、カロリーをすごい消費するんだ。 だから、こんな感じで大量に食う必要があるわけ」
「エンゲル係数えぐそうね、あんたと過ごすと」
「まあまあーーー今回は俺が奢るんだし、気にせず!」
「次は私が奢るみたいじゃない、それ」
ちなみに「てか、あなた呼びからあんた呼びになったけどなんで? 降格? 」とハルトが聞いたが、フレイルは無視した。
ハルトは「あ〜腹減った」と腹をさすってから話題を変える。
「さて、本題だ。十二星大戦と裁定者である君の役割についてまずは話すよ。当面の計画についてはそれからだ」
フレイルが頷いたのを皮切りに、ハルトは話し出した。
簡潔に要約するとこういう内容だった。
十二星大戦とは12の星、もしくは別時空の世界から来た異なる世界、異なる文化を持つ生体もしくは人が地球の所有権、そして神の座を奪い合うためのものだ。
神が死んだからこそ次期候補が必要だと言うのである。
だが、神が死んでいるとは信じられないところではあるが、そこは置いておく。
ハルトは輝光星なるところから来た兵士らしい。
そして、フレイルがその12体の異星、異界人の裁定者ということだ。
裁定というのは生き残りが神に相応しいかどうかを見極めるということ。
それで認められなければその裁定者たる魔女と殺し合いになるかもということだった。
と言うより、事実殺さなければならない。
神の天啓を受けた以上、2つ目の十二体の異界の者の排除はこれに該当するのだろう。
とはいえ排除というのは殺すこと以外にも故郷に帰ってもらうことも含まれるなら、それも対策として頭に入れておきたい。
フレイルはそれを勘付かれないように努めて話した。
「私は、神の天啓を受けてる。
第一に日本中に散らばった、三つの証を手に入れること。
第二にあんた方の殺し合いを見定めること。
第三はまだ分からないけど、神の天啓自体は三つ目まであるみたい。なので当面の計画としては、日本中を渡りつつ異界人を排除しつつ三つの証を手に入れて、あんたの手伝いをするってのだが妥当かなと思うんだけど、どうかな?」
「いいと思うーーー次は、君がなんで神の天啓を受けることになったのか話してくれないか?
俺の参加経緯については、その後話したいと思ってる」
「それは先にあんたから話すことじゃないの〜?
仮にも兵士なんでしょ、騎士みたいなもんじゃん。男から話しなさいよ」
「思ったんだけど君ってかなり生意気だね、仮にもとか付けちゃってるし。でも、異文化だってのはわかるでしょ?
異性がどうのってのは今は関係なく話してほしいかな」
「ぐう……」
冷静にド正論で返されてしまい、フレイルはぬぐぐと拳を握るしかできなかった。
それから、ため息を吐いて話し出した。
「私が魔法学院にいたころの話だけどーーー」




