ツキヨ 神の眼
過去、事故で両親を失ったツキヨは、しつこい施設の事務員からの勧誘に困惑していた。
「可哀想な子、大丈夫よ」
「ちゃんと私たちが守ってあげるから」
口ではそう言うくせに心の中では、魔法界トップからの援助金目当てであることが分かっていた。
生来から備わっていた読心魔法の力で。
けれど、毎日毎日訪問されて話しかけられるうちに、そのしつこさに耐えかねて入りますと言ったら救われるのかと思った時、フレイルが言った。
「この子は私が面倒みるわ、お母さんもいるし。この子の家は売り払わずにそのままにしてちょうだい。さっさと去れ、バカ」
一発殴られていたものの、「私もお父さんが病死してるの。だからツキヨの気持ちが痛いほど分かるわ。私たち、友達になりましょ?」
そう言って笑うフレイルが、ツキヨにとってヒーローに見えていたし、親友に見えていたし、家族にも見えていた。
だからこそ、フレイルの才能に自分を比較して
ツキヨは絶望していた。
フレイルに置いていかれる感覚。
ツキヨは親友だなどと言っていたが、常にいじめっ子を意に介さず返り討ちにしていくフレイル。
そしてトラブルがあればすぐに駆けつけてなんでも解決してしまう。
今度は、神の天啓に選ばれたことを知った。
フレイルだけ
フレイルだけが先に進んでいく感覚。
私にはフレイルしかーーー友達がいないのに。
フレイルだけが私の心の拠り所だったのに。
どう思っているのか私を本心では貶しているかもしれないと思うと怖いから、読心魔法を使わなかった。
何年も何年も。知り合った当初からずっと。
置いていかれたくない気持ちと、怒りと、嫉妬と羨望が同居する。
心が捻じ曲がりそうだった。
お手洗いで鏡を見た時、思った。
暗い瞳だなと。
だから、右腕すら禁忌魔法の代償でぐずぐずに溶け出しても、フレイルに触られるのがどうしても嫌だった。
自分のこの気持ちすら否定されたみたいで。
だから、叫んだ。触るなと。
そして、愛知でフレイルを見た時ーーーこともあろうに人間界の人を救おうとしていた。
学院の制服じゃなくて、動きやすそうな人間界の服を着て。
耐えられなかった。
そして、ツキヨはどうせ最後の天啓は私と殺し合えと言うのだろうと薄々思っていた。
だから、動いた。
火山の神龍ネファエラの残滓を取り込んで自分の身体との適合に成功すると、魔力が増加したことを感じた。
けれどまだ足りない。
世界中を周り、天才魔女と渡り合えるだけの力が欲しいと。そしてーーー北極点でついに逢う。
神の眼を自称する、巨大な目玉と。
戦って勝利し瀕死にさせると、飲み込めるほど小さくなった。
飲み込み、気づく。
置いていかれたくないのと殺したい感情が同居する感覚。
そして神の天啓の最後を盗み聞いた時、ツキヨは認識する。
「やっぱりフレイルは私を置いていくんだ」と。
だからこそ、学院の禁書の部屋で見つける。
魔法大戦時代の最大の禁忌魔法「メテオストライク」を。
何度も失敗しては死にかけ何度も失敗しては死にかけ、そしてついに成功した時には人間界の季節は冬になっていた。
ツキヨは東京 渋谷に降り立つ。
軽快なBGMが流れている。
空からはちらちらと降りしきる雪。
綺麗だな、とツキヨは思った。
けれど思う。
人間がいるから、異界の者がいるからフレイルは私を遠ざけるんじゃないかと。
神の天啓なんてくだらない。
私は、フレイルさえいてくれたらそれでよかった。
それなのにそれすら奪うのか?
そう考えたら負の感情が溢れて止まらない。
神の眼と融合した右目が疼く。
刻印が禍々しく光るのを感じた。
ツキヨは手始めに、その場に談笑している親子に目をつけた。
血に染まれ、と。




