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魔女の旅

 フレイルは箒に乗って飛び、沖縄に戻っていた。

 波打ち際に誤って落ちて、右腕を折りかけた。

 飛行操作を誤った。

 少し恥ずかしいな、そう思って歩き出した。

 ふらふらと歩く。足取りが重く感じる。


 ハルト、どこ行ったんだっけ。


 あれ? ハルトーーー。


 けれど、ハルトを探そうとして気づく。


 そうだった。仲間だったハルトが死んだ。


 私が、ハルトを殺したんだ。


 そして、次はツキヨを殺せと学院長がいっていた。

 時期は冬の人間界でいうクリスマス前日

 その日に殺せと


 神が復活する時が近いからとも言っていた。

 意味がわからない

 ただひたすらに怖い


 視界が暗い


 ーーーバカね、こうなることは分かりきっていたことなのに。ああ……聞こえないか。そんな呆然自失ならどうせ選ぶことは一つね


 もう1人の私という黒い光がそう呟く。


 けれど、フレイルは歩き出して、聞こえないようにしていた。


 そうだ。自分探しの旅をしよう

 日本一周だ。ハルトは日本横断の天才だった。

 切符も自分で買ってホテルの手配も自分で……。

 それなら1人でやるべきだ。箒を使わずに、自分の足と交通機関を使って。

 ハルトが死ぬ前に渡してくれた、お金。

 それを使って。自分の気持ちと向き合うんだ


 飛行機に乗って沖縄から東京へと戻ってきた。

 空の旅がつまらない


 東京に戻ってきても感情が麻痺している。


 けれど、ぐうう、とお腹が鳴った。


 お腹ーーー減ったな


 そう思ってハンバーガーを買った。

 けれど、味がしない

 子どもたちの笑い声が聞こえる。

 たしなめる親の声が聞こえる。

 どこか遠くにいる感覚。

 心に響かない。


 涙が溢れた。拭いて歩き出す。


 東京から始まり、北海道へ

 五稜郭を眺め、また別の県へ


 心が、動かない。悲しみだけだ。

 寂しいと感じるだけだ。

 すごいとか、綺麗だとかも1ミリも感じる隙間がない。


 そこまで追い詰められたんだなぁ、と他人事のようにフレイルは思っていた。


 愛知県に訪れた。

 セントレアの中を歩いた。復興したんだなとぼおっとしながらも見る。

 飛行機が飛ぶのを眺めた。

 名古屋港水族館にも行った。

 心が動かない。


 岐阜県に行った。

 金華山を登って岐阜城の中を散策し、ロープウェイを使って降りると楽市楽座の肉寿司を頬張る。

 味がしない。


 滋賀県に行った。

 琵琶湖を眺めた。心が動かない。

 ハルトと2人で勝利を収めた場所、ハルトを助けた場所。

 お母さんに感動したと伝えたかった場所。

 ツキヨと、訪れたかった場所。

 心が、動かない。


 四国を周り、鳥取県で砂丘を降って海を眺めたりもした。


 鹿児島も周った。


 色々な県を周った。


 そして沖縄へまた戻る。

 結局、心が戻らなかった。悲しさだけの感情に囚われたような感覚。


 なんか疲れたな、とフレイルは思った。ツキヨと戦うくらいなら神の天啓なんて受ける意味がない。

 拒否したのに、拒絶したのに。それでも、戦うように仕立て上げられるのなら、意味がない。


 自分がすでに死んでいるような気もする。

 そもそも神の天啓が、才のある学生を排斥するためにあるなんて言われたんだ。

 全価値観を否定されたようなものだ。

 フレイルは、もう耐えきれなかった。


 涙も枯れ果て、海に飛び込もうかとも思った。


 その時だった。

 背後から声がした。


「どうしたんだい、お嬢さん。そんな生気がない顔して」


 振り返ると外国人なのか少し金髪みたいな髪色をしたおばあさんが後ろに立っていた。

 一瞬敵かと思い、睨む。


「だれ?」


「私はしがない漁師の妻だよ。どれ、あんたくらいの年頃ならサータアンダギー好きやろ?

 作ってあげるから来なさい」


 サータアンダギー、ハルトと一緒に食べたものだった。

 ちんすこうも、ソーキ焼きそばも

 合わせて飲んだソーダも


 フレイルはやっと感情を取り戻した。

 子どものように大泣きする。

 声をあげて。


 けれど、そのおばあさんに頭を撫でられたとき、ほっとした気がした。


 そしておばあさん宅でご馳走になり、次の日


「おばあさん、ありがとう。元気出ました」


「そうかい? それなら良かった。あんたはまだ若い。これから先、どれだけの苦難があろうとも立ち止まっては歩き出すことを繰り返したらいい。それでも迷ったら、またここを訪ねておいで」


「はい」


 フレイルは笑顔で、おばあさんの言葉に答えた。


 冬がもうすぐそこだ。


 フレイルはおばあさんに背を向けると、歩き出した。


 もういいのね?


 ええ


 ツキヨと対決することになったとしても?


 ええ、大丈夫


 そう。なら、頑張りなさい


 そうやって、もう1人の私が言った気がした。


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