春は巡る
フレイルはハルトの過去を観る。
彼は、最初は地球に住む日本の「人間」だった。
伊能 春翔 16歳
枢桜学園高等学校に通う高校一年生 男子
スポーツも成績もそこそこできる方だった。
女の子にあまりモテない。
普通の生徒。
日本列島の旅行先を調べるのが好きだった。
自分1人だけでも遊びに行くほどに。
けれど、ある日ーーー旅行先で家族とのレンタカーでドライブ中の反対車線から飛び出してきたトラックと正面衝突した。
雨風がひどい中、視線が悪かったのが災いしたのだろう。
崖から車ごと転落する。
爆発に巻き込まれて家族3人ともが死亡。
そして春翔はハルトととして生まれ変わる。
異星で、神から力を授かって。
それが神の脊髄だった。
けれど、ハルトは覚えていない。
ただ、導かれているような気がしていた。
声も時々聞こえていた。
任務中に死ぬ
2度目の生き返り。
今度は、神の肉体が与えられた。
永遠を司る者
それからは魔力量が大幅に増加した。
けれど魔法を使えば食事量は増える。
燃費が悪いが、それでも敵を排除できる。
その思いでハルトは最期の時まで駆け抜けた。
それが仲間に殺される末路だとしても。
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ハルトの苦しみはいかほどだっただろう。
神に誘われ、力を与えられ、2度も運命に殺されーーーそして最後はフレイルに殺された。
仕方がなかった
なんて言えない。
あまりにもむごい。
「ごめん、ハルト……ごめんなさい、殺してしまって本当にごめん」
フレイルは何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も呟くように、謝罪の言葉を繰り返した。
生きていれば、日本にいたことの記憶が戻るかもしれない。
戦いを勝ち抜けば、神の御座に座ることが叶えば自分の記憶を戻せて、ユーロの妹エルフィアを生き返せることも叶ったかもしれない。
それなのに、全てをフレイルが粉々に打ち砕いた。
私がーーー殺した。
四つん這いになりながら、フレイルは泣き喚いた。
もう届くわけもないのに。
懺悔するように、何度も何度も頭を地面に擦り付けて。
追憶に苦しむ
想い出が走馬灯のようにまるでビデオ再生のように現れた。
ハルトの笑顔が痛い。
胸が苦しい。
「ハルトーーー春が名前に入ってるし、来年の春には桜見に行こうよ」
「なんだよ、その適当なの」
「え〜でも……」
「分かったよ、落ち込むな。約束な」
「うん!約束ーーーありがと、ハルト」
ーーーーサータアンダギーを食べてた時に話していた記憶が消えてくれない。
一緒に見に行きたかった。
桜のイラストが、写真が、あまりにも綺麗だったから。
桜吹雪もあるって聞いていた。けれど……ハルトは死んだ。
私が、約束を叩き壊したんだ。
病死したお父さんがもし生きていたら、こんな優しい感じだったんだろうなとか、私より先に生まれたお兄ちゃんが存在していたらこんなにぶっきらぼうだけど明るく接してくれるんだろうなとか思いながら過ごしてたんだけどな。
私が、関係を壊した。
私が、ハルトを死に追いやった。
地に這いつくばり、泣き喚く。
フレイルは何度も吐いた。
胃液も、食べたものすらも。
私がハルトを殺した
私がハルトを殺した
私が!!
何度もえずくように吐く
涙が止まらない
私が……ハルトを殺したんだ
立たなきゃ。
あるかなきゃ。
魔法界に報告しに行かないと……。
あ、ハルトが買ってくれた服のままだった。
着替えなきゃ
でも、着替えるのがめんどくさい
学院で着替えればいいか
フレイルは震える足取りで洞窟を抜けた。
そして、箒にまたがって魔法界を目指した。
箒がうまく操れない。
感情の制御が不安定だからだ。死にかけながら、やっとの思いで魔法界に辿り着く。
お母さんの元に帰ろうかと一瞬思う。
けれど、それはダメだ。
学院に向かわないと。
歩き、しばらくして。学院の門前でツキヨが立っていた。
二回呼びかけても返事がない。
だからフレイルは本題に入った。
「愛知に来てたよね?」
振り返らない。
けれど、「いなかったわ」とだけ呟くようにツキヨが言った。
「嘘だよ。てか、なんでそんなにぼろぼろなの?」
「あなたに関係ないでしょ
ーーーさっさと私の目の前から消えて」
あの目だ。黒く澱んだ、嫉妬と羨望と怒りが混ざったようなそんな視線。
ひどく怖くて逃げてしまったあの視線、フレイルはそれでも睨み返した。
「待ってよ! 私のなにが気に入らないの?
私、ツキヨに何かした? 答えてよ!」
「黙れ」
「おかしいよ
ネファエラのあと、私だけ学院長に呼ばれたのがそんなに気に入らない? 答えてくれなきゃ分からないよ、ツキヨの得意な魔法、読心魔法……私は使えないんだから」
「うるさいって言ってんのよ!」
怒りの形相そのままに壁に叩きつけられる。肺から息が漏れる。
ツキヨの右目ーーー瞳の奥に、何かの刻印が見えた気がした。
その刻印が、虫のように蠢いたような気がした。
「そもそもフレイル……あなた、なんなのよ。
服を勝手に人間界のものにして恥ずかしくないの?
魔法学院の天才としてのプライドはどうした!」
ギリギリと首を絞められる。
本気で殺すつもりなのかと思った。
フレイルは叫ぶようにして言う。
「とんがり帽子はかぶってるし、後でトイレで着替えるつもりだよ! プライドはちゃんとあるよ。ってか、痛い! 離してよ!」
「離すわけないでしょ! そもそもあなたが、私を少しでも対等に見てくれたことなんてこれまでもなかったくせに!」
「このーーー離してって、言ってんじゃん!」
ツキヨの太ももを蹴り飛ばす。
フレイルの足がじんわりと痛くなった。
けれど、ツキヨが手を離したことを知るとすぐにツキヨの腹を蹴って距離を取る。
咳き込んで床に手を着くツキヨにフレイルは言う。
「そこで待ってて。私は学院長と話があるから」
そう言って、フレイルは学院の門を後にした。
向かうは学院長室だ。
問い詰めなければ。全ての元凶はあんただろと言うために。全ての真実を知るために。




