君と一緒に 刹那の光
ホテルをなんとか取れた。
ハルトが苦しそうにするのを、濡れた清潔なタオルで額を拭う。
そして、夜が明けた。
チェックアウトを済まして、サータアンダギーを食べられる店に行く。
パンフレットが横の棚にあったのでもらう。
ハルトからお金を受け取ると、ハルトに5個サータアンダギーを買って渡した。
こんな食えないよとハルトが言うが、「だめだめ、しっかり食べないと光の究極魔法の『ブラックアウトバーン』を万全に放てないでしょ。ちゃんと食べなきゃ。」とフレイルは強引に握らせた。
苦笑するハルトにフレイルはサータアンダギーを頬張りながら言う。
「ハルトーーー春が名前に入ってるし、来年の春には桜見に行こうよ」
「なんだよ、その適当なの」
「え〜でも……」
「分かったよ、落ち込むな。約束な」
「うん!約束ーーーありがと、ハルト」
桜のイラストが、写真が、あまりにも綺麗だったから。桜吹雪もあるっていうのも魅力的だった。
「絶対見に行こうね!」
そう言ってフレイルは笑った。
それからは名所を回りながら食べ歩きをした。
ちんすこう
沖縄そば
ゴーヤナンプル
お母さんへのお土産に岩塩なんてものも買った。
ピンク色の塩の塊が綺麗だったからだ。
フレイルは学生証を眺め見ているハルトに、
「墓、行ってみる?」
しばらくの沈黙のあと、
「ああ、行こう」
墓参りに行くことにした。
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夕刻 墓の前に立つ。
汗ばむ陽気はなりをひそめ、少しひんやりとした空気が包み込む。
2人して手を合わせた。
目を瞑る。
「伊能 春翔か。お前は、誰だったんだ?」
その時、ハルトが急に苦しみ出した。
汗がひどい。
首に刻まれた刻印が緑と赤を混ぜた光を放つ。
明滅し、ぐるぐるとかき混ぜるように回転する。
「ハルト!? 大丈夫? ねえ……! 」
ハルトが苦しそうに滝のように汗をかく。
フレイルがハルトの肩に手をやろうとした時、ハルトから輝く鎧が発生した。
頭には似合わない冠が浮かぶ。
ーーー嫌だ
フレイルは涙目になりながら叫んだ。
「ーーー嫌だよ、ハルト。私は、ハルトと戦いたくないのに……!」
ハルトがうめき声を上げる。
激痛がするのだろう。
全身かそれとも頭痛か。
どちらにしても、ハルトにとっては地獄だろう。
けれど、フレイルには何もできなかった。
無力感に苛まれ、涙を流すしかできない。
その刹那、後ろから声が聞こえた。
「welcome to the world ようこそ、世界へ。
神の器官をその身に宿し者よ、証の元へと誘うがいい」
ユーロの声だった。
ようこそ、世界へ
ようこそーーー神の座を決める決着の場へ。
存分に殺し合おう、ハルト
そう言って、ユーロは壊れた笑みをした。
「ハルトを! ハルトを……返せ!」
フレイルはユーロの胸ぐらを掴んで叫んだ。
けれどユーロは笑う。
ただただ笑う。
「残念だが無理だ。もう呪いは発動され、内部の神の器官の一種が現出した。もうやつにはハルトという人格は残されていない」
「このーーー!」
ユーロを硬い地面に叩きつける。
痛みなどないかのように笑い続けるユーロがうざったらしい。
ぶちん、とフレイルの中で何かが切れる音がした。
馬乗りになって殴りつける。血を吐き出そうとも、それでもユーロは笑っていた。
もう一度殴りかかろうとした時、
「ハルト?」
輝く鎧を身に纏ったハルトがフレイルの右肩に触れていた。
滋賀の時の。顔も、よだれと白濁した目が痛々しい。
ハルトーーーダメだよ
戻ってきてよ
そう言おうとした時、
「神の、声が聞こえるんだ」
ぼそりとそう言った。
うわごとのように何度も繰り返す。
けれど、フレイルは
「人格が残ってーーー?」
声が聞こえたから大丈夫だと、思った。
しかし、それが勘違いだと思うのに時間はかからなかった。
声を上げるまもなかった。
一瞬でフレイルだけを残して、ユーロを宙へと連れ去る。
向かうのは海がある方角だ。
青の洞窟に向かう気だ。
嫌な予感がする。
「ーーーハルト! だめだよ、待って!」
だが、ユーロが身を捩ってハルトの首目掛けて渾身の蹴りを放とうとした。
それをハルトはわずかな動きで避ける。
そして、右手でユーロの足を掴むとフレイルを見ずに光と化して飛んでいった。
「ーーー嫌だ」
ハルトがハルトでいられなくなる。
そんな予感がする。
「ーーー嫌だよ」
フレイルは流れてくる涙を拭い、前を向いた。
覚悟を決めろ。
走れ。
「ーーーハルトが壊れるところなんて見たくない! ハルトは、仲間なんだ。 絶対! 絶対連れ戻すんだ」
フレイルは箒を召喚し、光に追いつくべく飛ばした。
高速で景色が流れる。
目が風に晒され、乾く気もした。
痛むがそんなものどうでもいい。
気になんてなるものか。
ハルトの方がもっと苦しいはずだから。
フレイルは加速魔法を発動し、流星の如く空を駆けた。
その先で、雄大で透明感のある海が広がるそんな海浜で、ハルトが、ユーロと不死の毒蟲相手に殺し合っていたのをフレイルは見た。
もうすでに始まっていた。
血が飛ぼうが、はらわたが裂かれようが、住民が住んでいる街が家ごと破壊されようが、己がために殺し合うのを良しとして。
少しでも早く辿り着いたはずなのに。
「だめ……」
フレイルは琵琶湖の時のハルトを思い出していた。
あれよりも状況は酷いかもしれない。
琵琶湖の時は民間人がいなかったし、湖の上だった。
住宅街の破壊もせずに住んでいた。
けれど今はどうだ。
ハルトを殺せればなんでもいいと殺戮を目論むユーロが、不死の毒蟲を従えて相手しているのだ。
人の命なんてゴミに等しく消え失せるだろう。
フレイルが近づこうとした刹那
ハルトの右手が大きくたわんだ。
いや、空間だ。
空間が捻じ曲がる。凝縮された魔力が、高出力の光と化して世に現出し、強く明滅を繰り返す。
そしてーーー強烈にして巨大な光の大剣が現れた。
不死の毒蟲が火の糸を放つ。
それを、ハルトが一撃の元に火の糸ごと不死の毒蟲を切り裂いた。
悲鳴のような金属音のような呻き声が、不死の毒蟲から発せられる。
そして、地面に叩きつけられると沈黙した。
ーーー次は貴様だ
そういうように、ハルトはユーロを睨みつけた。
「残念だがハルト、そのアルカディアはその名の通り不死だ。そう簡単には死なんぞ
見ろーーー生き返る」
ユーロが指を刺す。
アルカディアの内臓が、皮が、甲殻が元の状態へと戻っていく。
その時、アルカディアの眼の時計を模ったような光彩が、2つ消えたような気がした。
ーーーいや、実際に消えてる。私が一度殺してるから3回死んでて、あと9?
フレイルは光の大剣と不死の毒蟲の熱によって発生した気流から身を守るために、魔法防壁を発動させてその中で思案していた。
その時、ハルトが動く。
もう一度その光の大剣を薙ぎ払う。
沈む。
そしてもう一度
4つ消えた。
これであと5だ。
(あれは、残機? 命が消えるまでの……)
「おい、聞いてるのか、ハルト! いい加減にしろよ! 」
叫んでユーロは舌打ちした。
違う、やつは神の一部に取り込まれたはずだ。
やつはーーー神の肉体を内包した存在のはず。
だからこそ、こんな風にハルトだと認識することはあってはならない。
フレイルはユーロのその言葉を聞いて、少し安堵した。
まだハルトが戻ってくる可能性があるかもしれない。
それなら、私がすることは一つだけ。
「あのユーロをぶっ飛ばすことだ……!」
ハルトがアルカディアの相手をしている今が好機。
フレイルは、箒に足だけで立つ。
そして急降下してユーロに迫った。
「喰らえ、妖狼剣士!」




