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伊能 晴翔(イノウ ハルト)

 痛い


 痛い


 痛い


 首に刻まれた刻印が、胸と頭を割るように割くような痛みを嫌でも感じさせる。


 ハルトは去っていくユーロを止めることができなかった。


 アルカディアは直にやつのもとに立ち戻ると言っていた。


 つまり、水死もしない上に出し入れ可能の怪物と言うこと。


 龍槍も呪刻印もそもそもの狼の呪いも、合わせることで凶悪無比な殺人術に他ならない。


 ハルトは激痛の中で歯噛みした。


 これではユーロに勝てない。


 それに、フレイルの安否が心配だ。


 痛む身体を引きずりながらなん度も呼びかける。


 風が吹き付ける音と波の音しか聞こえない。


 ハルトは舌打ちし、覚悟を決めて海の中へ飛び込んだ。


 そしてーーー。


 暗い海の中に、消えかかる、燃える大百足の食らいつかれながらも防御壁で対抗しているフレイルの姿があった。


 まばゆい魔力の光が星のようだ。


 ハルトはそれに導かれるように潜っていった。


 大百足が完全に消え失せる。


 フレイルの魔法防壁が、フレイルが安堵感を察知したようで淡く光るだけになりかけている。


 ハルトは激痛を訴える身体に鞭を打って、フレイルを魔法防壁ごと抱き抱えた。

 上昇する。


 魔法防壁が消えた。


 間一髪、海の上に出た。

 2人して胸いっぱいに息を吸い込み、吐く。


 ハルトはフレイルの頭に触れて、


「よく頑張ったな」


 そう言って撫でた。


 フレイルは照れくさそうにしながらも、ハルトが痛みを我慢していることを心配していた。


「ごめん……私がもっと相手を消し去るくらいの力を持っていたら」


「気にするな、突然だったんだ。それに目的地で待ってると言うだろ?

 こちらから出向いてやろうぜ」


 ハルトの無理な笑いにフレイルは心痛めたものの、こくりと頷いた。


 星空が輝く。


 その下で2人は支え合いながら、海を泳いで沖縄へと向かった。


 ーーー運命の時が迫ろうとしていた。


沖縄にたどり着いた。

 海を泳ぎきった。2人は濡れていた。髪の毛も服もカバンもびしょびしょ。

 戦闘後の疲れもひどい。

 ハルトがしんどそうなのでホテルを取りたいが、先にお金を下ろそうかと言って換金所へ向かった。

 お金を下ろしてーーー「待たせた。」そう言ってハルトが駆け寄ってきた。

「おかえり。全身痛むのにごめんね、ホテルの取り方とかも私はあんまり知らないから……」

「気にするな。とにかく、宿を取ろう」

「うん」

 フレイルが心配そうに見つめる中、ハルトが歩き出したその時、


「あ、おーい! ハルトくんのお兄さんかい?」 


 自転車に乗った警察がそう声をかけてきた。


「知り合い?」


 フレイルが訝しむ。

 ハルトは首を横に振った。

 知らないと口にする。


「いや……初対面のはずだが」


「じゃあ、なんで名前を知って……」


 フレイルが聞こうとした。だが、言葉が続かない。

 警察の人が自転車から降りてつかつか近づいてくる。

 人の良さそうな顔で、矢継ぎ早に話し出す。


「君、イノウ ハルト君のお兄さんだろ? 顔立ちが似てるし。髪の毛は染めちゃってるみたいだけど」


「いや……お兄さんもなにも人違い……」


「いやいやいや、あの事故から学生証が見つかってねえ。

 お気の毒になぁ。

 両親なくなちまって早うん10年は経ったんじゃないか? こんな待たせちまって悪かった」


「いや、だから人違い……あ、ちょっと!

 こんなもの渡されても困る……」


 半ば強引に渡される。

 ホテルのカードキーのような見た目をしていた。


「んじゃ、渡したので〜! 墓参りとかも忘れずに行きなよ〜。挨拶は肝心だからね」


 そう嵐のように伝えるだけ伝えると、警察の人は去っていった。


 フレイルは「ハルトって同名な人いるんだね……」と言いかけて気づく。

 ハルトが学生証を見てから


 ひどい汗をかいていることに。


 ハルトが頭を抑える


「痛むの? 大丈夫!? ねえ、しっかりしてよ!」


 ハルトがうずくまる。

 フレイルが心配そうにする。


 ハルトがうわごとのように言った。


「な、んだ。この記憶は……俺はいったい……俺は沖縄で生まれた? でも俺は……光輝星で生まれて……生活してきて戦争も経験して……ぐ、ああっ……」


 頭痛がひどいのか眉間に皺が寄る。


 学生証には、


 枢桜学園高等学校 2年 伊能 春翔


 と明記されていた。


「イノウなんて知らない。俺は違う……」


 ハルトが過呼吸になったようで荒い呼吸を繰り返す。

 汗が滝のように流れる


「俺は! 俺は、こんな記憶知らない!」


 ーーー事故なんて 巻き込まれてないのに

 両親は、光輝星で生きて……。

 車の事故で俺も死んだなんて知るわけ……。


 うわごとのように繰り返す。


 フレイルはハルトの両肩を掴んで言った。



「ハルト、落ち着いて! 私の顔を見て!」


 ハルトが肩で息をする。

 発汗がひどく、顔も青ざめている。


「ハルト、少し休もう? 時間はまだあるでしょ」


「ーーーしかし、24時間しか」


「今は休まなきゃだめ。こんなのではあいつに負けるし、三つ目の証を取りに青の洞窟にも行かなきゃいけないんだから、ここはしっかり休もう」


「だが……もしあいつが沖縄を襲い出したらどうする? 精神的崩壊をユーロはしてるかもしれない。善悪の基準が曖昧で民間人を殺すことをなんとも思って……」


 パンッと頬に軽い衝撃がした。

 頭痛が和らいだ気がする。

 フレイルの目を見る。


 少し潤んでいた。


「……すまなかった。俺のことを第一に考えてくれたのに」


「いいよ……、食べ歩きもしたいけどまずは宿探し! さ、手を取って」


 フレイルの手を握ってハルトは立ち上がった。


 まずは宿だ。


 ゆっくり寝て休めば少しは気が休まるだろう。


 そう思ってフレイルはハルトの手を引いた。

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