復讐鬼の炎
フレイルの作り出した防御魔法を足場に、フレイルとハルトは立っていた。
しかし、全身が海水でびしょ濡れだ。
カバンもぐしょぐしょになっている。
けれど、高温を発し続けてる化け物が目の前にいた。
そのおかげで少しずつ乾いていくのがわかる。
その傍で、龍槍を構えるのはユーロ。
左右で腕の大きさが違う上に、禍々しく赤の光を放つ右腕の刻印と目が、痛々しい。
ユーロは言った。
「ハルト、お前の中にあるものを引き摺り出してやるよ」
それから、少しの時が流れた。
ユーロとハルトが互いに睨み合う。
そして、両者が動いた。
ユーロは龍槍を、ハルトは光の大剣を横薙ぎに振るって魔力を飛ぶ剣戟に変えて放つ。
金属質な破裂音とともにぶつかり合い、消えた。
膨大な煙が立ち上る。
ユーロとハルトは互いに駆け、互いの武器をぶつけ合った。
燃ゆる大百足は、フレイルに視点を合わせた。
「……げ」
海に浸かっているのに、凄まじい蒸気を伴いながら燃え続けるそれが少しずつにじり寄ってくる。
フレイルが右手を前に出して構えた。
(あと3メートル近づいたら氷像魔法を放つ)
「止まれ、デカムカデ!」
大百足は止まらない。
少しずつ少しずつ距離を詰めてくる。
内心焦ってくる気持ちを殴り飛ばすように、フレイルは叫んだ。
「我が身を守る盾となれ、氷像魔法『サーヴァント・アイス』」
2体の氷でできた騎士が現れる。
巨大な盾をそれぞれ持ち、フレイルを守護した。
ーーーが、たちまち溶けていく
「そ、そんな……!」
氷とは言え、氷像魔法だ。
真夏の時にも機能するほどの強度を誇っているはずなのに。
それが意味がないとは。
どれだけ熱いんだよ、意味が分からない。
歯噛みし、「加速魔法! スターフラッシュ!」
唱えて後方へ5メートルほど一息に飛ぶ。
海面に新しく、足場を作って立った。
氷の騎士2体は消えるまえの最後の輝きで、盾を落として剣を握り、閃かせて切りつけるが、大した傷にならずに消えていった。
舌打ちする。
考えろ。
やつに致命傷を与える方法を!
火炎魔法は意味をなさない。
氷結魔法は論外だ。
氷狼を呼んだとしても、氷像が無理だったなら氷の息吹を纏った特攻は意味をなさない。
ベクトルリコチェットの空気弾による攻撃
それに加速魔法をつければ、さらに威力を増すか?
考えながら、発動のタイミングを読む。
近づいてくる燃える巨体。
蠢く蟲の足が気色悪い。
常に動いていて背筋が凍る。
けれど、頭を垂れるように襲いかかってきたそれを、フレイルは防御壁でガードした。
ただガードしたわけじゃない。わずかに逸れた形だ。斜め後ろになるように形成した壁を、配置する。
衝撃は凄まじい。
けれど防御壁はヒビすら入らず、燃ゆる巨体を海へと叩き落とした。
海水が噴き上がる。
水蒸気の煙もすごいものだ。
よし! とフレイルはガッツポーズする。
水飛沫を浴びながら、フレイルは勝ち誇った顔をした。
だがーーーやつはまだ死んでいない。
フレイルはベクトルリコチェットをして、数度海の中にいる巨大百足に叩き込んだ。
直撃する感触がなんどもあった。
沈んだあとに攻撃を数回叩き込んだのだ。
もう息はしていないだろう。
海も静かなものだ。
上がってくる気配がない。
ユーロの剣と槍の絶え間ない攻撃をいなしては斬りつけ続けているハルトに向かって、フレイルは叫んだ。
「私はもう大丈夫!! あんたはユーロとの決着をつけて!」
「任せろ!!」
ハルトの表情の笑みが戻った。
光の大剣を発動させて、横に薙ぐように斬り払う。
それをユーロはただ飛び上がるだけで回避した。
半歩下がる。
ハルトは睨みつけながら叫んだ。
「ーーーそう上手くはいかないか。だがな、俺はお前を倒さなきゃいけねえんだよ!」
光の大剣を握る手に力を込める。
そして、再度斬りかかろうとした時、
『時は繰り返す』という言葉を知っているかな?
そのユーロの囁きにも似た言葉が響いた瞬間、不死の毒蟲が起き上がった。
海面からゆらりと音を立てずに。
海水だけが、ざああーーーーっとしなだれ落ちる。
不死の毒蟲は生きていた。
確実に絶命していたはずだったのに。
なぜか生きている。
意味がわからない。
理解が及ばない。
「ーーーなん、で」
フレイルは絶望した表情で、そのかすかな声を震わせた。
ハルトがフレイルの危機を察して駆け寄ろうとした。
その時だった。
「ーーー復讐のときは近い。ハルト、君に呪いをかけよう」
そう、ユーロの右手がハルトの首に触れる。
瞬間、緑と赤が融合したような稲妻が走った。
ハルトが激痛に苛まれ、呻き声を上げながらその場で倒れ込む。
海水を飲んだ。
「不死の毒蟲、その裁定者を潰し殺せ」
倒れ込むように押しつぶすように不死の毒蟲が燃え盛る火炎の糸を吐きながらフレイルに襲いかかった。
フレイルが魔法防壁で身を守るが、暗い海水の中へと沈んだ。
「ーーーユーロ……!!」
ハルトがユーロの足を掴む。
「貴様の猶予はもって1日……24時間だ。もっともアルカディアが裁定者を殺して戻ってくるだろうが……」
私は、沖縄のとある場所で待っているよ
そう言って、ユーロは闇に溶けるようにして消えていった。




