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勝利の血とともに

 ユーロは夢を見ていた。


 自らの妹エルフィアがハルトのミスによって、死んでいく瞬間を。

 魔法の矢が突き刺さる。

 何度も何度も何度も何度も何度も血飛沫をあげて、彼女の身体を破壊するのが分かった。

 致死量の血液を撒き散らして死んでいく。

 何も最後の言葉を聞けなかった。

 ただ、冷たくなった妹だったものを抱きしめることしかできなかった。


 ハルトを殺そうとした。

 ハルトを咎めようとした。


 けれど、殺し合いは拮抗して三日三晩続いて2人が倒れるまで決着がつかなかった。


 それほどまでの力の差


 だが、許せるわけがない。


 故意じゃなくても、奴はリーダーだった。

 責任を負うべきだ。


 それなのに、なぜ奴が1番苦しそうな顔をする?


 ふざけるな……ふざけるな!


 お前は被害者じゃない。

 加害者だ。お前は私の手で死ぬべきだ。


 捕縛される直前で抜け出し、ユーロは「ユニオンコックピット」ーーー改造飛行装置で、魔術王星へと降った。


 そして、龍戦士レイクと出会う。


 彼との出会いはユーロの世界を変えた。

 復讐しか見出せなかった彼に、酒や飯のうまさを伝えて、仕事では死が付きまとう戦争や紛争に参加するから厳しく接した。

 それが、ユーロにとっては居心地が良かった。



 ーーー現在 深夜


 ユーロとレイクが睨む合う。

 三重県のあるヘリポートで互いに武器を抜いて構える。

「覚悟はできたか?」


 レイクが問う。

 彼の白い顎髭が風に揺れる。

 長い銀髪はゴムで固く結ってあった。

 人間界でいうところのポニーテールという髪型だ。

 レイクが龍槍を構える。

 静かに、ユーロの目を見た。


「はい」


 ユーロが頷く。

 レイクは「よし。」と言うとこう続けた。


「勝った方が、相手の武器、そして不死の毒蟲(アルカディア)の封印札を手に入れることができる」


「分かっています」


「本当にか? さっきからひどく苦しそうじゃないか」


「気にしないでください、あなたはいつものように敵を翻弄して潰しにかかってこればいい。

 私はそれに順応し、叩き潰しますから」


「言ってくれるじゃないか、ユーロ」


「それに、あなたの右腕に刻まれている呪刻印……それもいただきたく思ってます。それがあれば、ハルトの内部にあるものを引き摺り出せる」


「ハルトにあると、思ったのか?

 神の器官の一部が」


「はい。ハルトが帝王を殺したことで、確信いたしました」


「そうかーーーじゃあ、元々本気でやるつもりだったが、君を殺すつもりで望まなければならないな。呪刻印まで君に渡すわけにはいかない」


「残念ですが渡してもらいますよ。あなたの、全てをね!」


 レイクとユーロは同時に駆け出した。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 レイクの攻撃はその全てが相手の急所を過たずに狙うものだった。

 避けようにも避けきれない。

 傷ついていく。

 確実に少しずつ、不利になっていく。


 レイクがユーロの腹を蹴る。


 血は吐かない。


 けれど、腹と肺に溜まっていた空気が全て漏れたがした。げえ、という声がする。


 それでも、倒れないように踏ん張る。

 レイクを睨む。


 しかし。レイクが龍槍を横薙ぎに振い、


「我は龍槍イグザス・アルメイバを継ぎし者。

 破戒龍の心臓を捧げ、世界に安寧をもたらさんことを!」


 そう叫んだ。

 瞬間、龍槍が輝く。


 少しずつ形を変えていく。


 黄金の輝き。


 星が瞬くように明滅を繰り返す。


 現れたのは、黄金の炎を讃えた龍の鱗を纏いし巨大な槍。


 3メートルはあるだろうか。


 重いはずなのに質量が変わってないかのように、軽々と持ち上げる。


 レイクが腰をかがめ、片手を地につけた。


 そして、一瞬だけユーロを睨むと踏み込む。


 ガンッという音が聞こえた刹那


 ユーロとの距離を瞬時に肉薄する。

 凄まじい速さ。


(まるで閃光……)


 そう思った束の間、黄金の炎を纏った龍槍が縦に振るわれていた。


 ユーロは死を覚悟した。


 けれど、諦めるわけにはいかない。


「来い、黒き狼の群れ!!」


 叫ぶ。


 ユーロの剣が空間に溶けるように揺らぐ。


 薄い膜のような影がまるで盾のように現れた。

 そして5匹の黒い狼が立ち現れる。

 レイクが舌打ちする。龍槍の軌道を変える。

 ビキッと腕の筋が痛んだ気がしたが無視する。

 黒い狼の群れの1匹を貫き殺すと、距離をとった。


 残りの4体が唸り、吠えながら向かってくる。


「私は! レイク……あんたを降す。そのためならここで両腕を差し出しても構わない!」


 ユーロが血を吐くように叫んだ。

 その形相はきっと鬼気迫るものだっただろう。


 2人の戦いは熾烈を極めていく。

 そして、決着が訪れようとしていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


お前の生き方は間違っている


 なぜそう、復讐心に囚われたままでないと生きられない?

 もっと、酒やうまいものを食うとかでも良かったのではないのか?


 レイクは殺し合いの中でそんなことを思っていた。


 黒い狼の群れが襲いかかってくる。


 噛みつかれれば、その痕から呪いが混入することは知っていた。

 その呪いとは端的に表すと、24時間以内に対象を殺すと言うもの。

 そのほかに相手を増強させたり、逆に弱らせることも可能だった。


 呪刻印と合わせれば、究極の殺人兵器となるだろう。

 心を破壊したり無理やり精神を引き出したりする呪術が組み合わさってしまうのだから。


 それだけは避けねばならない。


 レイクは龍槍を操る。

 しかし、軽々と操っているわけではない。

 魔力を喰う。

 神経を食い荒らす。


 内臓を蝕んでいく。


 眼球にも神経や毛細血管に次々と裂傷がでていた。


 ーーー直に死ぬ


 このまま戦えば、レイクは死ぬ。

 そんなことは分かっていた。

 けれど、それでもだ。


(死ぬのなら刺し違えてでも……!)


「レイクさん」


「なんだ!? 今話しかけるな!」


 狼の群れの攻撃を全ていなし、なんとか間を縫うように切り抜けようとする。

 しかし、唸り声をあげて飛びかかる狼には急な動作にも瞬時に対応するようで追いつかれてしまった。

 噛みつかれる直前で身を翻し、殺し尽くす。


「あなたはやはり強い。でもねーーー」


 不意にユーロの姿が揺らいだ。


 上体を影に食われたかのように。


 少しずつ少しずつその姿が掻き消える。


 ……陽炎? 


 ふとそんなことをレイクは思った。


 だが、龍槍の黄金の炎で削り潰さんと迫って気づいた。


 自分の右足がない。


 気づいたら激痛が襲った。


「ぐう……あああああっ……」


 叫ぶのだけはダメだ。

 レイクは左腕を噛む。千切る寸前にまで強く。

 歯型どころではなく、肉が裂けた。

 自分の血で口が汚れる。


「耐えましたか」


 ユーロの声が影を通して聞こえる。


 けれどその影は霧状に分散して、どこにいるかが分からない。


 それともーーー


「気づきました? そうです。あなた方、魔術王星の軍勢が得意とする『天幕』術式。隠れ身ではなくその存在を曖昧にする魔術。その応用を影の魔術を加えてしたまでです。まあ、代償に右手の指を3本失いましたが」


 はははっ、とユーロが笑う声がする。


「ここで死んでください」


 狼の群れが8方向から現れる。


 囲むように。


 上も下も左右も前方後方全てに至るまで。


 死が、鮮明に脳裏によぎった。


 だがーーー


「舐めるなよ、童(わらべ)が」


 ニヤリと不敵に笑う。


 こんな絶対絶命の状況で、危機など感じさせないかのように。


「なぜ、笑うのですか」


「それはなーーーユーロ、お前に幸せに生きてほしいからだよ」


 そう言って、龍槍を解放した。


「龍槍イグザス・アルメイバ! 我の天命をここで果たす! 我が身を喰らうがいい!」


 瞬間、超新星爆発を想起させるような激しい光があたりを照らし出した。


 ーーーそして


 レイクは死んだ。


 呪刻印を刻まれた右腕を奪われ、龍槍を奪われ、不死の毒蟲の使用権も奪われーーー。


 ここに、復讐者ユーロが完成した。


 右腕を切り落とす。

 そしてレイクの右腕をつける。


 ぐじゅりという感覚。


 しかし、痛みと裏腹にしっかりと手を握ることができた。


 刻印が禍々しい赤の光を発する。


「時は来た」


 そう、ユーロは笑った。

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