親友の影
鬼雷法師による災害が終わったと思ったが、現状は最悪だった。
セントレアに向かおうにも、復興の目処が経っておらずフライトができないとのことだった。
フレイルたちの目的は今すぐには達成できない。別の方法で沖縄に向かう必要がある。
それよりもだ。死傷者が多い。
商業施設の駐車場を貸し切って、医師や看護師たちが救護に当たっていた。
けれど数が足りない。
フレイルは「ハルト、怪我人を見るからあんたも手伝って」そう言ってYシャツの裾をめくった。
「いやーーーお前、魔法界で……」
「そんなこと言ってる場合じゃない。これだけの人が重症で、あれだけの数が被害を受けてる。
黙ってられない」
「……分かった」
実際は怖い。
異端審問が現代にあるかと言われたらないだろう。
けれど好奇な目で見るだけでなく、邪魔をする奴らに目をつけられたら旅どころではなくなるかもしれない。
それでもやる。
それでもやるしかない。
(だって、これは私の意地だから。困ってる人を捨ておけるわけないじゃない)
ハルトが抱えて運んできた怪我人を横たわらせる。
腕や首からの出血がひどい。
この女の人の命は、もってあと1時間と少しだろうか。
死なせるわけにはいかない。
回復魔法をかけた。
ーーーと、「あの子、魔女?」
と遠くから声が聞こえた。
ざわざわと少しずつ声が多くなって、大きくなっていく。
集中を乱すな。回復魔法の生命力を司る翡翠色の光がたわむ。
明滅する。
だめだ、これでは十分な回復は期待できない。
フレイルは額からたれる汗を拭って、立ち上がる。
外から写真を撮る人がいた。
それも1人だけじゃない。
20人はいるかもしれない。
フレイルはそれが許せなかった。
「ふざけんな! 写真撮ってる暇があったら少しでも協力しろ、助ける気がないならさっさと帰れバカ!」
「うっせえよ! 俺たちが写真撮ってんのは楽しむためじゃなくて、SNSで拡散することで現状を知ってもらうことにあんだよ、お前は黙ってろ!」
「ーーーこの!」
「フレイル、まともに取り合うな。あのバカは、ああやって吠えることしか脳がない。君がやろうとしてることの方がはるかに人助けに近い。気にせず、続けろ。俺も手伝うから」
そのハルトの言葉で憑き物が取れた気がした。
フレイルの表情に柔らかさが戻る。
「ありがとう、ハルト」
そう言ってフレイルは治療に専念した。
1人で30名以上の治療にあたる。
少しずつ、医師も看護師も協力してくれるようになってきた。
それでも、やはり魔力が足りない。
このままでは人を全員助ける前に死んでしまう人も出るだろう。
フレイルは内心焦っていた。
その時だった。
「ーーーあれ、魔女じゃない?」
(またか、ふざけんな)
そう、振り返って怒ろうとした時
「ーーー上見て。あの子、箒で空を飛んでる」
声に促され、空を見上げる。
「……ツキヨ?」
ツキヨが箒に乗って空に浮いていた。
怒りを込めた目で眺めている気がする。
けれど、そんなことよりも今の現状をどうにかするのが先だ。
「ツキヨだよね? ツキヨもいたら百人力だよ!
助けて! 人員が足りないんだ!」
けれど叫びは通じない。
ツキヨは無視して通り過ぎていく。
ーーーなんで
疑問が、少しのがっかり感が胸を支配する。
いや、だめだ
頭を振ってフレイルは心配そうに見つめるハルトに、「ごめん、心配かけた。続けよう」そう言って治療に専念した。
ーーー助けられた命はあった。
けれど、亡くなった命もあった。
フレイルとハルトは、その重荷を背負った。
背負わざるを得ないと、強く思った。
そして、歩き出す。




