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妄執の果て

 氷狼が吠える。氷の息吹を纏う。

 ひんやりと冷たい風がフレイルに吹き付ける。


 フレイルは氷狼の背に乗って「走って!」と言った。

 氷狼シルバーウルフが駆ける。


 ハルトがそれに続いた。

 前から後ろからくる鬼雷法師の雷による連撃を弾き飛ばす。


 雷の余波である紫電が、濡れた砂浜を駆けた。

 恐ろしくも綺麗な色合いで火花を散らす。


 それに物怖じせず、脇目も振らずにフレイルたちはただ走った。


 煽るように、嘲るように、鬼雷法師ハマオークが引き起こす多種多様な災害を間一髪で避けながら、立ち向かう。


 ハマオークが舌打ちした。


 ーーーなんなんだ


 鬼雷法師ハマオークがマグマと竜巻、雷獣を掛け合わせた禍々しい力の塊をぶつけようとしてくる。


「右へ!」


 フレイルの掛け声で、氷狼がダンっと勢いよく地面を踏み締めて右へ3メートルほど跳躍する。


 禍々しい力が襲いくる。

 けれどわずかに掠めただけで被害は少ない。


 ーーーなんなのだ、貴様らは


 ハマオークが右手を振るう。無数の海龍が次々と襲いかかってきた。

 それも無理のないわずかな動作で避けていく。


『ぐーーーふざけるな!!』


 ハマオークが歯を食いしばり、二振りの剣を構えた。

 憎悪と怒りだけの表情。雷とマグマ、そして海水を織り交ぜた殺意の塊を作り出しいく。

 それを携えて向かってくるつもりだろう。


(来たーーー!)


 フレイルは後ろにいるハルトに、指を鳴らして合図する。


『させるとでも思うか!?』


 風が吹き荒び、巻き上げようとしてくる。

 フレイルは「そっちこそ! 私がそんなことさせるとでも思ってんの?」そう言って、防御+反射魔法プラズマフォースを発動した。

 風の暴力を弾き飛ばす。


 ハマオークが『貴様ら……!』と怒りの形相をより強くする。

 少し動きに鈍りが出た気がした。


「あとは任せろ、フレイル」


 ハルトが頷いた。

 光の大剣を作り出す。


 ーーーブラックアウトバーン


 ハルトの魔力により生じた黒き光と白き光の合わさった究極の光魔法。

 その余波の熱が熱く伝わってくる。


 ハルトは、地を踏み締めて大きく跳んだ。


「鬼雷法師!」


『たかが宇宙人風情が……! 図に乗るな!』


 2人の剣が交錯する。


 そしてーーー爆発的な光を引き起こして世界が瞬いた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「燦々と太陽が〜輝く〜」


「なんだそれ」


「なによーいいじゃない」


「小さき者が歌っていたからか?」


「小さきものって言うな〜! あれは子どもっていうのよ。あなただって子どもみたいな風体してるじゃない」


「分かった! 分かったから、そんな膨れっ面をするな」


「もう……。いいよ。その代わり!」


「なんだ?」


「私たちで絶対生き残ろうね」


「当たり前だ」


 ーーーーーーーーーーーーーーーー


 身体が消え失せる最中、鬼雷法師ハマオークは過去のそんな記憶を思い出していた。


 そうだったなユウディア


 どこか遠い目をする鬼雷法師にフレイルは呼びかける。


「ハマオーク……」


『貴様が名を呼ぶな。ーーーけれどもう、いい。貴様の勝ちだ。そこな、男を大事にしろよ』


「な……余計なお世話よ!」


 フレイルが握り拳をあげて怒ったような顔をする。

 ハマオークは笑った。穏やかに、まるで恋人に笑いかけるように。


『ーーーふ、けれどな。失った時に後悔するよりもその一瞬その一瞬を大事に過ごせよ。それがあの男との思い出を形作るのだから』


 そう言って、ハマオークは消えていった。


 光の粒子となって青空に溶けるように。


 安らかに眠るように。



「その一瞬を、大事にね……。鬼がよく言うわ」


 ハルト、生きてる?


 血だらけで倒れているハルトに呼びかける。


「な……なんとかな」


 ちちちっという音が不意に聞こえた。

 青空を見上げると、2羽の鳥が楽しそうに飛んでいた。


 ーーー待ち人には会えた?


 フレイルはどこか穏やかな表情をしながら、その鳥たちを眺めていた。


 海にふと視線を向けると、地平線まで続くかの如く雄大で綺麗な光を放ちながらゆらゆらと揺れていた。


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