鬼雷法師 鬼神へと至る路
絶対に勝ってやるだと?
この絶望的状況の中で?
ハマオークは激怒していた。
額に青筋が浮きでるほどに。
その時、胸の痛みを感じた。
心なしか苦しい気がする。
眼を閉じると、その先に一瞬の閃光が見えた。
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我は恋人と2人で十二星大戦に参加していた。
2人で協力して敵を潰して回っていた。
2人なら負けなしだった。
東京で頬張ったパンも、愛知の海の眺めも全てが美しく感じていたのに。
ある日、全てが終わりを告げた。
『狗って狛犬から来てるのか? 君は弱いねえ』
心臓を握られた。
裁定者を名乗るその女は、我の恋人を亡き者にしただけではなく、我の心臓を抜き取ったのだ。
『死んで行け。あなたが死ねば、私はーーー仲間を蘇らせることができる』
ーーー黙れ! 我が名を愚弄し、あまつさえ!私の恋人をも殺した貴様に、生命を蘇らせる権利などあるものか!!
叫んだ。
けれど、その女は我の心臓を潰すと一瞥だけして去っていった。
我は、その女の顔が醜く笑うのを見た。
許せない。
許せるものか。
殺す
殺してやる!
人間も、裁定者も全て!!
意識が途絶える。
そこで、我は一度死んだ。
しばらくの時が経つ。
けれど、憎悪は一向に消えなかった。
殺すを繰り返し何度も呟く。
その先に、光を見た。
いやーーーあれは神だ。
輝く羽衣を纏い、天女のように優雅で、暖かく全てを見渡すようなそんな存在。
その存在がいう。
『あなたに、私の心臓を授けよう。神の器官3種を集めて、神の肉体である「永遠を司るもの」とともに霊峰富士山近隣の森奥に収めなさい。
さすれば、あなたの願いが叶う』
「やらせろ」
我は即答した。
『いいでしょうーーーあなたが参加するのは、この時期の十二星大戦だ。それまでゆっくり休みなさい』
神が示したのは何十年もあとの戦争。
遅すぎる。恋人の命の輪郭を覚えている今じゃないと意味を持たない。
我は神の胸ぐらを掴んで憎悪を撒き散らすように叫んだ。
「ふざけるな!!! 我は今すぐにでも参加できる。敵を全て殺し尽くし、我は! 愛する人を取り戻しーーー」
なんだ、その目は。
まるで、目がないような
抉られたようではないか
やめろ、その目で見るな
やめーーー
破魔王狗の意識はそこで途絶えた。
思い出す。
思い出した。そうだった。そうだったではないか。
苦い記憶、必ず成し遂げねばならぬと覚悟したこと。
ハマオークの顔が笑みの形に大きく歪んだ。
顔を片手で抑え、含み笑いするように。
それはやがて高笑いになった。
『ふ、ふふふふ……はははははははははははっ!』
何度も何度も身を震わせて笑う。
フレイルがふざけるなという表情で叫んだ。
「何がおかしいのよ!」
ハマオークは『いやいや、なにもないさ』とくっくっく、と笑いながら言う。
『過去を思い出しただけだ。
それよりもいいのか? 2人して立ち上がったと言うことは、我と殺し合う選択をしたと思っても?』
フレイルとハルトは秒で答えた。
「構わない」
「構うものか、さっさと来い!」
怒りと共に。
笑う意味が分からない。
人を殺し、日本を破滅させようとするこいつになにがあろうとも許してなるものか。
その怒りを感じたハマオークは、いや。鬼神はゆらりと二振りの剣を構えて宣告する。
『そうか……。この絶望的状況で良くぞ吠えた。宇宙人とか地球人とか、そう言うのを考えるのはよそう。ただ、死合う者同士の命の張り合いだ。存分に殺し合おう』
ーーー裁定者だと言われるこの魔女には、相応の地獄を見せてやらねばな
鬼神が動いた。
神の鉄槌を下すかの如く。
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ハマオークの攻撃は苛烈を極めた。
火山の神龍ネファエラかと見紛うほどの圧倒的災害のような暴力。
熱、炎、風、雷、そしてーーーマグマ。
竜巻すらも発生させて、そもそもの雷獣操作をしているだけでも凄まじいのに、他の異界の者のどれもを遥かに凌駕しているとまで感じてしまう。
そして、これらの攻撃に加えて、台風と津波を制御しているのだから驚きだ。
少しずつ少しずつ近づけて、フレイル達を牽制して恐怖に陥れようとする。
まさに災害の化身。
ーーーだから、なんだ!!!
フレイルとハルトは気力で跳ね返していた。
それだけではなく魔法や武術の知識、応用で間一髪で大怪我を回避する。
奇跡とも言える紙一重。
それを連続して繰り返していた。
『いいのか?』
マグマを竜巻にして雷獣に纏わせ、雷の連撃とともに放つ。
威力、のちの感電、余波
全てがリスクあるものだ。
それを神の心臓を用いている「はず」とはいえ、限界があるはずなのに無制限かのように使ってくる。
フレイルは舌打ちしつつも、ベクトルリコチェットで自分を弾にして回避し続けていた。
「なにが!? 今集中してんだから話しかけんな!」
ため息を吐いて呆れた様子でハマオークが言う。
『このままやり合えばジリ貧だし、すぐに気力尽きて死ぬぞ。貴様ら』
熱波をもさらに加えながら。
ハルトが光の大剣でそれを切り裂いてくれるが、両腕を火傷する。
フレイルは鬼気迫る表情で叫んだ。
「だったらあんたが止まれ、バカ!!」
『それはできん。我にも神の座を目指す理由があるからだ』
「それはそうだろうね!! こんな、暴力の数々ができておいてなにもないって言ったら私が宇宙の果てまでぶん殴ってたわ! 」
『ふ……言うじゃないか』
ーーー笑った? それも柔らかく
鬼神の表情が軟化した。
なぜ?
こんな一方的で、それでも気を抜けば自分の命すら魔力に変えかねない異常気象を引き起こしているのに。
その考えがまずかった。
魔法防壁が歪む。
そこから熱波からの砂利がフレイルの右腕に突き刺さる。
まるで散弾銃のように。
あまりの激痛に顔が歪んだ。
血が流れる。
「いった……! いてて……油断した、この……!」
それでも、痛みで思考が戻る。
魔法防壁のゆがみを正す。
そして。
その時が訪れた。
「は………?」
『それだけじゃないと思わなかったか?』
鬼神の力は底知れない。
津波から無数の蛇ーーーいや、龍というべき海水が数えるのも面倒なほどの数を伴いながらこちらへと伸びてきていた。
全てが生物のように蠢き、喰らわんとしているのが分かる。
天候だけじゃなく操作もできる。
そんなことは分かっていた。
けれどこれは、海水そのものを龍に変事させるところまでしてしまうのはもう、神そのものではないか。
危機は脱しない。
それどころか増す一方だ。
ーーーそんなことは知ってる
フレイルはそれでも笑った。
傍らで竜巻を切り裂き続けるハルトに言う。
「ハルトに紹介したい友達がいるんだ。でもこの子は一回死んでるの。けれど、応じてくれれば必ず戦力になる」
「応じてくれれば……ってのはどのくらいの確率だ? この数、この威力全てが鬼神の如きものだぞ。それに見てみろーーーここら一体はほぼ吹き飛んでいる。この状態で本当に勝てる算段があるとでも?」
ハルトは諦めているわけじゃない。
けれど周囲を見渡してみれば公園の木々は焼け、付近のアスファルトはぐちゃぐちゃになり、テントや店も吹き飛んでいる。
ここからでは見えないが、おそらく商業施設もことごとく破壊されているかもしれない。
それでも
それでもだ。
「私は、この5%にも満たない勝利への道を捨てたくない。だって、複合魔法だけでは多分勝利が見えないから。けれど、このたった一度で出なければ潔く別の手段で突破する。
だから賭けてよ、このピースにさ」
少しの沈黙
そして、ハルトは頷いた。
「ありがと。ーーーじゃあ、集中するからハルトは私の防御お願い!」
「人使い荒いね、君は!!」
ハルトが自分だけじゃなく、魔力を体内で込めて練り始めたフレイルも守る。
脂汗がひどい。
スピード、威力全てが桁違いの鬼神相手にどれだけの手数の防御が必要なのか分からない。
けれど、フレイルがやると言ったことを了承したんだ。
ーーーやるしかないだろ!
雷獣が吠えて突撃してくる。
紫電を迸らせながら。
それに海水をそのまま攻撃手段に転じた海龍も襲いかかってくる。
それも対応する。
少しずつ少しずつ気力も体力も消し飛ばされていく。
「きたーーー! ハルト、こっちへ!」
フレイルの声が響く。
フレイルの方に振り返りつつ、翔ぶと見えた。
フレイルの足元に氷結魔法による魔法陣が描かれていることに。
フレイルが言葉を紡ぐ。
ーーー召喚・氷狼シルバーウルフ
銀の体毛を備えて氷の息吹を放つ魔獣。
それが魔法陣から現れた。
少し涙が滲む。足先も少しずつ冷えてきている。
氷結魔法による召喚、それは身体を少しずつ凍らせていき壊死させていく代償つきの力。
けれどそれに構わず、フレイルは前方を見据えた。
『それが貴様らの切り札か?』
「いいえーーー仲間だよ」
ジュリアスの時はごめんね、そう言いながら頭を撫でる。
氷狼は喉を鳴らして気持ちよさそうにしていた。
そして
「あんたは暴力、私は繋がりでーーーこの決闘に終止符を打つ!!」
フレイルは腹の底から吐き出すようにそう、宣言した。




