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災禍雷撃 大潮、龍の如く 『神の心臓』

『雷(いかずち)は我が剣(つるぎ)となる』


 その言葉と共に、破魔王狗(ハマオーク)の左手に持つ錫杖に膨大な光を伴った電流が流れ、形を変えていく。


 ばちばちばち、と心臓に悪い音を立てながら。


 言葉通り、剣へと変わった。


 火龍の剣と雷の剣。

 これで、二振りの剣を持つことになった。


 殺意の圧が凄まじい。

 一歩間違えれば心が折れそうになる。

 それでもフレイルは踏み込んだ。


「負けるものか!」


 火炎剣を生成し、破魔王狗へと斬りかかる。


『魔法防壁を解いたのは失策だったな、消え失せろ』


「やばいーーー避けろ、フレイル!」


 一閃された雷の剣から閃光が迸った。


 雷を纏った龍と獅子が、同時に迫りくる。


「そんなもので、私を止められるか!」


 反射魔法 空間跳弾ベクトルリコチェット


 透明な板が8枚生成される。

 弾は自分だ。空気、いや、風を纏う。

 自分が踏み込み続けることで、上昇する。


 それも加速を続けながら。


『やるな、貴様。だが、我の雷獣は追撃を可能とする。宙に浮いたくらいでいい気になるなよ』


 ーーー掻き消えよ


 雷獣が唸る。

 異形が合わさり、殺意の塊と化しながらフレイルを喰らわんとのぼってくる。


「フレイル! ……あれでは、避けることができない……!」


 宙に浮いた状態。

 それは無防備を晒すのと一緒。

 2人は思っていた。

 それがただの人間なら、だ。


 けれど、フレイルは魔女だ。


 当たる直前、誰もが焼け死ぬと思っていた。

 けれど、加速魔法と防御を同時に発動することでフレイルは危機を脱していた。


「加速+防御魔法 加速防壁アクセルパレット……なんてね」


 雷獣が喰らい付いているが、フレイルが上昇するごとに防御壁の硬さが比例して強度を増していた。


 鬼雷法師が舌打ちした。

 絶対に殺せたと思ったのだろう。


『このままではドロー(引き分け)だな。ーーーまあいい。趣向を変えよう』


 そう言って、雷獣を引かせる。

 手元に戻ってきた雷獣の首を掴んでくびき殺した。

 うめき声か、悲鳴をあげて雷獣が消え失せる。


「良かったのか? せっかくの攻撃手段を潰してしまって」


 ハルトの問いに『構わない』鬱陶しそうに答えた後。


 鬼雷法師が凶悪なる笑みを浮かべた。


『これから貴様らが目にするのはこの世の地獄、そのものだからだ』


 見るがいいーーー。


 そう言って火龍の剣を掲げる。


 ーーーやばい


「フレイル! 早く降りてこい! 死ぬぞ!」


「え? 」


 ハルトの声が遠い。


 防御壁の殻の役割をしていて、うまく聞き取れない。防音性能があるのが良くなかった。


「もう一回言ってよ! よく聞こえなかった」


 そう伝えようとした刹那、文字通りの「破滅の力」が炸裂した。



 強烈な熱


 強烈な風


 強烈な光


 それら全てがセントレアの壁を、窓ガラスの残骸を吹き飛ばした。


『我はーーー神の心臓を受け継ぎし者なり』


 暴風、光に激しく包まれる中、ハルトとフレイルはそんな声を聞いた気がした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


目を覚ました時に見たのはまずは砂浜だった。

 りんくうビーチまで流されたのだろう。


 酷い耳鳴りがする。


 胃液を吐く。


 フレイルは砂浜に手をつきながら上体を起こした。


 ハルトが、「浅い海」に浸かっている。


 良かったーーー生きて


 そこで強烈な違和感に襲われた。


 待て


 待て待て


 あんなに浅かったか?


 魚たちがびちびちと音を立てて体をくねらせている。鮫やクジラもいたかもしれない。

 水性生物が苦しそうにしている。

 酸素を求めているのか、海が急に引いたからか。

 異様な光景だった。


 あんなに水たまりのようなのが海だったか?


 ハルトと月明かりの下で遊んだ時はもっと水かさがあったはず。


 なのに、今は潮が引いている。


 なぜ?


 その理由がわかった。



 少しずつ近づいてくる黒い影。



 あれは、大津波だ。


 地平線全てに至るまでを覆い尽くすかのように広い、怪物級の水の壁だ。


「………………は?」


 それだけじゃない。


 上空には雷、火の渦、黒い雲の渦を伴った台風が超速回転していた。

 風が凄まじい。


 まるで龍を従えたかのように、その下に浮くように立つ鬼雷法師が火龍の剣を掲げていた。


 この世の地獄とはよく言ったものだ。


 これは、本当の地獄だ。


 愛知どころじゃない。


 日本の7割が海に沈むかもしれない。


 フレイルは自分の体ががたがた震えてくるのを感じた。

 何度も右腕を殴りつける。


 ーーー止まれ止まれ!


 震えが止まらない。

 ハルトが傷つけられて、1ミリも動こうとしない。

 気絶しているのだろう。


 ーーーハルトを助けなきゃだろ!?

 止まれ!! 立てよ!


 殴りつけ、立とうとするも膝が笑う。

 座り込む自分が許せない。


『起きたか……遅かったな。見るがいい、我は今、愛知だけではなく日本そのものが終わる規模の大津波を発動させた。

 そしてだーーーこの気象だ。

 火龍の剣により発動させた超大型台風。

 それをさらに強烈に回転させた』


「ーーーそ、んな」


『ーーーさて。もって1時間。この間だけ待つ。最後の言葉を聞いてやろう。それとも、我と殺し合うか?』


 その言葉を聞いた時、微かに鬼雷法師ハマオークの右胸が光った気がした。


 ハルトが「気づいたか?」と微かな声で聞いてくる。


「ハルト……?」


「こっちを向くな」


「ごめん」


「いい。それよりも大津波と超大型台風を同時発動させてそれを操作なんてしてみろ、その発生源が火龍の剣だけじゃないのは明白だ。

 多量の魔力や生命力が必要となる。

 そして、やつはセントレアで爆風を発生させた時に言っていた」


「神の、心臓?」


「そうだ。奴の右胸に微かに光る、あれのはずだ。ーーー神ってのがきな臭いが、あれに賭けてみるきはあるか、フレイル」


 その言葉を聞いてドクンと動悸がしたのが分かった。


 ーーー賭けて見る気はあるかだって?


 震えが止まった。

 笑えてくる。

 それしかないなら道は一つだけだ。


「ええ。賭けてみようよ、ハルト。あんたのその賭けに私の命を全てベットするわ。その代わり外れたら道連れだから」


 ハルトが光の剣を杖代わりに起き上がり、不敵な笑みを浮かべて言った。


「状況は最悪ーーーけれど、悪くねえ言い方だ。さあ、逆転劇を始めようぜフレイル」


 2人は、宙に浮かぶ圧倒的な鬼神を見上げて笑った。


 絶対に勝ってやる、その気概を胸に秘めて。

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