異界より来たりし鬼 火龍吼えし時
搭乗口前に並んでいると焦った様子でCAが走ってきた。
そして拡声器を手にする。
周波を合わせるような音とともに彼女は話し出した。
『お集まりの皆さま申し訳ございません!
フライトは中止です!
昨日の深夜未明、超大型台風が発生し、また津波により巻き込まれた航空機が6台大破しました。
残った航空機も窓ガラスなどが割れており、修繕が……』
列をかき分けるようにしてスーツを着た男がCAの制服の襟首を掴んで叫ぶ。
「ふざけんな! こっちは大事な会合があるんだよ!」
赤ん坊を抱きかかえている女も前に出て指を突きつけて睨む。
「そうよ、この子の誕生日をハワイで過ごしたかったのにどうしてくれるわけ」
「し、しかしーーー決まったことで」
「決まったことってなによ! 大体あんたらはお客様をなんだと思ってんのよ、ええ!?」
「申し訳ございません……」
涙目になって謝るCA。
フレイルはその様子を見て心を痛めていた。
ーーーここで言い合ったってなにもならないのに
「ハルト……事前に切符買ってくれたのに、ごめん。
天気悪くなっちゃったね」
「お前のせいじゃないよ」
だが、『いや、裁定者ーーー貴様のせいだ』
子どものような、それでも重低音の声が響いた。
どこから現れたのか上から少年が降りてくる。
右手には龍を模った剣を持ち、左手には錫杖を持っている。
ざわめく人々
「あの子、ランキング番組に出てた……SNSで有名な怪異少年じゃない?」
「写真撮れ写真撮れ!」
スマホをかざし、パシャパシャとシャッター音をたてる
『小蝿どもがーーーいちいち煩んだよ。とくと去ね』
瞬間ーーー爆風が吹き荒び、窓ガラスが全て割れた
破片が飛び散った。
混乱に陥る
フレイルとハルトは魔法防御壁で己を守っていた。
振り返って惨状を見て絶句した。
子どもも親も大人も老人も大怪我を負っている。血飛沫をあげて絶命している人もいた。
首に腹に顔に眼球に口に肺にガラス片が突き刺さっている。
腹が裂かれてはらわたが溢れてしまっている人もいた。
それでもスマホで、助けを呼ぼうとしてあと一歩のところで絶命する。
フレイルは息を飲んだ。
あまりにも惨い。
ハルトは叫んだ。
「お前、なにも民間人をーーー! 大戦参加者であっても、この人たちは関係ないだろうが!
なんで殺した!」
無言を返す。
ハルトが殴りかかるが如き形相で睨んだ。
「答えろよ!!」
『黙れ、狼如きが』
鬼雷法師が心底不快と言った顔をした。
「ああ!?」
頭の血管が切れるのではないかと不安になる程の怒りをハルトから感じて、フレイルは「ハルト、落ち着いて? ここで怒っても奴の思う壺だよ。」と言った。
ハルトは「すまない、フレイル。」と返した。
鬼雷法師が言う。
『我は鬼雷法師。神に近しい存在。そしてこれは災害に巻き込まれたと思えばいい。
現に我は、この愛知県に大型台風を生成し勢力そのままで固定した。今はただの雨風に変じているが我が合図を送れば、この土地は瞬く間に吹き飛ぶ。
ーーーああ、なんでそこまでしたいのか?
そこな裁定者の前任者に恨みがあるからだよ』
憎悪にも似た視線をフレイルに向けて。
「っ……」
フレイルはツキヨに向けられた視線を思い出して、息を呑んだ。
けれど頭を左右に振って睨み返す。
すると、鬼雷法師は名乗り上げた。
『さてーーー改めて名乗ろうか
我が名は鬼雷法師 破魔王狗
裁定者を殺害し、人間を殺戮し、ひいては魔法界を消し飛ばさんとするものだ』
朗々とした声で、世界の破滅を願うように。
大量虐殺を目論む殺戮の鬼との激闘が今始まった。




