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大蛇の影

 ハルトとフレイルが愛知県に入って翌日の夜。

 雨風が吹き荒ぶ中、高速道路を走る車があった。

 フロントガラスに雨が音を立てて当たる。

 ワイパーの動きが遅く感じて男二人が舌打ちをしつつも、どこか楽しげな様子だった。

 後部座席には大量の金品、札束が入った白い袋が5つほどあった。


 揺れる車内で後部座席に座る男が軽い調子で言う。


「あにい、上手くいきやしたね」


 運転席に座り、ハンドルを握る髭を生やした男は左手で鼻の下を擦った。


「おうよ、あれくらい朝飯前だ」


「ジジババが1人2人増えようが、俺らなら余裕すっよね!」


「そうだそうだ! これからもガンガン奪っていって、億万長者をーーーなんだあれ?」


 言いかけて気づく。高速道路の途中、自分らから大体10km離れたところ。

 そこに下から突き上げたように破壊した様な穴から巨大な生物の影が見えた。


 それがゆっくりと迫り上がってくる。


「あにい、あれってーーー蛇ですかい?」


「いやいや! 蛇にしたってあんな大きいわけが……」


 兄貴分は気づいた。あれは蛇じゃない。もっと別の生物。

 それに、燃えている。体皮から何かしらの分泌物が出ていてそれがきかして燃えているわけでもない。

 より怪異的な。そもそもあれは


「あ、おい! あれは蛇じゃねえ、巨大な百足だ」


 言ってから終わったと思った。

 けれど、高速道路だ。アクセル踏みぱなっしだし、今更止まれない。


「何メーターあるんだ!? いや、それよりあにい、前見て前! あーーー」


 巨大な燃え盛る百足の視界がワンボックスカーをとらえる。

 不死の毒蟲だ。背中には濡れたような甲殻があり、開閉を繰り返している。

 少し、Gのような翅が見えた気がした。

 うぞうぞと蠢きながら頭をもたげ、何かを吐いた。


 瞬間、燃え盛る繭がワンボックスカー巻きつき、2人の人生は終わりを迎えた。


『我に背を向けるか、蟲風情が』


 その言葉とともに、宙に浮かぶ少年が火龍の剣を蟲に向ける。


『死に晒せよ、蟲。貴様などーーー我の視界に入る価値すらないわ!!』


 宣告に従うように、雷を纏いし龍と獅子が現れる。


 そして燃え盛る炎が竜巻となって雷を纏いし獣たちにさらなる力を与える。


 それらが凝縮された力を、不死の毒蟲に叩きつけようとしたーーーその刹那



「待て」


 声が響いた。

 燃えるワンボックスカーの隣に立つ二人組。

 その影が揺れる。


『誰だ、貴様ら』


 二人組が前に出た。

 男2人。

 妖狼剣士ユーロと龍戦士レイクだ。

 ユーロがうやうやしく腰を折った。


「私たちは魔術王星より来訪した者です。そちらの毒蟲を我が軍門に降らせたく、参上しました」


『名を名乗れ』


「私はユーロ。そして、隣が上官のレイクと申します」


『我の攻撃の最中に来て、無事で済むと思うておるのか? 浅はか極まりない。死んでみるか?』


 凄まじい殺意の圧。

 鬼雷法師と火龍の剣のタッグは最悪だ。

 災害というより一撃で世界が滅ぶかも知れないほどの力を予期してしまう。

 ユーロが前に出ようとした時、レイクが先に前に出てしっかりとした口調で言った。


「申し訳ないが、死ぬわけには参りませぬ」


『何故だ、申してみよ』


 これは、レイクさんには任せられない。

 これは自分で言うべきことだ。

 ユーロは膝立ちになって頭を垂れた上で、鬼雷法師を見据えて宣言した。


「復讐を、果たすためだ。」と。


『面白い』

 鬼雷法師の頬が緩む。

『では、我が面前でそこな蟲と殺し合う権利をやろう。そして見事、手中に収めてみせよ』


 その言葉と共に、よく見えるところにさらに飛び上がった。

 雲間から漏れる月明かりに、鬼子が輝いて見える。

 ユーロとレイクはそれぞれ剣を構えた。


「ありがたき幸せーーー必ずや、ご期待に応えて見せましょう」


 ユーロの言葉と同時に、不死の毒蟲が動いた。

 燃える巨体が口を大きく開く。


 燃える糸を吐き出してくる。

 体当たりもしてきた。直撃すれば確実に死、掠れば掠ったで火傷どころではなく全身を焼かれて死に至る。

 全てが即死級の暴力。


 ーーーそれらの攻撃を意に介さず、5度及んで回避することに成功する。


 そして、一発で呪符を貼った。

 その刹那、不死の毒蟲が呪符に吸い込まれていく。

 漏れる光り輝く粒子が星のようだった。



「不死の毒蟲よ、貴様に名をやる。理想郷(アルカディア)。我が、復讐の理想を叶えるべく、我が軍門に下るがいい」


 ユーロがそう言って手元の呪符に呟く。

 札から発せられる淡き紫色の光が瞬いた。答えるように。


『やるじゃないか、面白い! 避けるだけなら我が異能で殺してやるところだったが、まさか一発でその札で手中に収めるとは』


 腕組みをして鬼雷法師が、からからと笑う。


『だがーーーこれ以上ここにおられるのは我慢ならぬ、疾く失せよ』


「仰せのままに」


 ユーロとレイクの2人が消える。


 さてーーー裁定者よ、我は明日。この愛知などと呼ばれている土地全域を蹂躙する。来るなら来るがいい。

 何十倍もの暴力でもてなしてやろう。

 そう言って鬼雷法師が笑った。


 ーーーーーーーーーーーーーーーー


 ニュースキャスターが神妙なつらもちでテレビに映っている。

彼女は言った。


『◯日未明、◯◯高速道路で突如爆発が発生。

 盗難車と見られるワンボックスカーの残骸が散らばっており、高速道路ではなにやら下から突き上げられたような破壊痕があるとのこと。

 また、周囲の方々に話を聞いたところ、燃え盛る大蛇と雷を操る少年が向かい合っていたとの情報が出ており……現在、警察と自衛隊が協力して捜査を進めている模様です』


そのあと、テレビは白光に包まれた。

少年の笑い声が聞こえる。

死ねといい、激しい衝撃音がした。

ニュースは映らない。

悲鳴だけがただただ続いていた。


ある日それはテレビ局が巨大雷に襲われたとして新聞記事に出て、大きな話題となる。

しかし、それよりも大きなことが刻一刻と迫ろうとしていた。

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