愛知へ・雷撃前夜 thunder
「あ、やっと起きたー!」
フレイルの表情は柔らかい。けれど頬はあざがあり、唇の端は切れている。
腕は袖を割いたものでくくってあり、怪我を隠すようだった。
「フレイル……すまない」
「気にすんな〜? 私はこれでもピンピンしてるのよ」
「でもお前、女の子だしーーー顔は」
おろおろする様子のハルトに、フレイルはため息をついた。
少し怒った様子で言う。
「気にすんなって言ってんの。それにあんた言ってたじゃない。異文化だって。異性とはいえ、異文化なら価値観も違うのよ? 失礼だよ」
「申し訳ない」ハルトが頭を下げる。
大丈夫!ほら顔をあげてよ
そういいながらフレイルは笑った。
「それに私は気に入っているのよ、ほら、ゲス羽虫みたいだし……う……」
「自分で言って自分で傷ついてるんじゃないか」
「とにかく! あんたは怪我人なんだから寝てろ〜? 私が横で見ててあげるから」
「プールはいいのか? 散策とか」
「そんなことはいいのよ、あんたが無事であるってことの方が優先。それに、プールよりも実際の海とかに行った方が楽しいじゃない?
この沖縄とかさ」
そう言って、フレイルは背中に隠してた沖縄の観光ガイドブックを見せてきた。
青の洞窟がピックアップされている。
「それにほら、神秘的だから三つ目の証がありそうじゃない? まあ、霊峰富士山と迷ったけど」
ハルトは頷いた。
確かにその通りだ。青の洞窟、海で満たされた洞窟で隙間からは陽の光が差し込んでその様は神秘的に見える。
霊峰富士山も何かあるかもしれないが、どちらかといえば、沖縄に向かった方がいいだろう。
「よしーーー沖縄に向かおう」
その後、滋賀県からは愛知が近いので、中部国際空港から飛行機で沖縄に向かおうという話になった。
しかしそうなると、一つ懸念点がある。
鬼雷法師だ。
中継テレビで出てきた宙に浮く子どもである。
そして、三日後ーーー鬼雷法師の持つ火龍の剣の力により、超大型の台風が愛知県上空に生成された。
さらに固定されたことによって、台風の勢力そのまま愛知県内を蹂躙することになる。
鬼雷法師は笑う。
「来るがいい、裁定者。我が雷に打たれ、地を這うがいい」
不死の毒蟲がその鬼雷法師を殺さんと出方を伺っていた。
そしてさらにユーロとレイクは、不死の毒蟲を生かして捕らえるべく画策している。
四陣営が愛知で動くーーー。
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ホテルで物の整理をしたあと、滋賀から愛知へと向かう公共交通機関を目指し歩き出した。
吹雪くあの激闘から打って変わって少し汗ばむ陽気だ。
風邪をひきそうだ。身体がついていってるのが助かっている。
「ねえ、ハルト。そういえばあんたってお金めっちゃ持ってるわよね? なんでそんな持ってるの」
は!もしかしてヤクザとかと手を組んで!?
ダメだよ〜犯罪は
と言うフレイルに、ハルトは
犯罪はしてねえよ! てか何気にテレビ見てるんだなお前、ヤクザVS警察の番組が気に入ったのか? とツッコミを入れたあと、こう語った。
「なんだ藪から棒に。まあーーーほら、潜入ミッションとか魔術王星との戦争とかあったしな、うち(光輝星)はほら、戦時中だから敵兵隊と戦って勝てば金がもらえる。報酬型ってやつだ。
けれど負けたり、部下が亡くなると当然減額となるし葬儀もすることになる。
俺はそのあとは……ただひたすらに戦争に貢献したから金をいっぱいもらえたわけだ。
で、その金をどうして使えてるのかって聞きたいんだろ?」
こくこくと頷くフレイル。
「換金システムってのがあるわけだよ、異星人専用のな。東京都や北海道、大阪、沖縄にあるかな日本では。海外ならアメリカワシントンとか。
で、そういうところで換金してこんな風に金を持ってるってこと。あ、ちなみに見た目はクレジットカードだけどお金にしようと思えば『いくらいくらまで引き出して』とも言えるぜ」
「そうなんだ〜戦争は嫌だね……十二星大戦に参加しちゃってるけど、私はできることなら参加したくないなぁ。でも、神の天啓に選ばれた以上は頑張るつもり」
フレイルがカードをまじまじと見る。
やらんぞ、てか沖縄に着いたらお金を少し分けてやるからとハルトは言いつつ。
やはり平和でいたいよな。まだ学生なのに色んな物を背負いこみすぎてるんだよ、お前は。
肩の力を抜けよ。
思いながらハルトはこう続けた。
「そう言えば思ったんだが、フレイルは学院卒業後はどうしたいとかあるのか?」
「うーん……塾の先生かな? 自分で新しく作って、魔法学や実践の魔術を教えたい」
「塾の先生か〜 似合うんじゃないか?」
「ありがと」
「でも、お前スパルタで魔術式とか教えそうだよな、ダメだぞ。今はコンプラ厳しいんだから」
「うっさいな〜分かってるよ、それくらい」
膨れっ面をするがそれでも内心、フレイルは気遣ってくれてるし軽口言うからちゃんと重くならないように調整してくれてるねハルト
そう言うところ優しいと思うし、一緒にいて居心地が悪くならないよ
「いつもありがとう」
そう言ってフレイルは笑った。
ハルトは「おうよ」と返して、気恥ずかしさからかほおをかいた。
そうこうしているうちに高速バスの停留所に着いた。
ハルトが切符を買いに行き、しばらくして高速バスに乗って愛知へと向かった。
『次は名古屋〜』というアナウンスが入る。
少し寝入っていたようだ。
まだよだれを垂らしている穏やかな寝顔のハルトを見て子どもみたいだなとフレイルは思いつつも視線を窓の景色に向ける。
ミッドランドスクエアなどの高層ビル群が見えてきた。
夕方の日が照り返していて、少し幻想的に思えた。
二つ目の証を掴んだ時に聞こえた若き日の学院長らしき人の声で、神の天啓に対する疑念は芽生えた。この先に何が待っているかは分からない。
けれど、ハルトとの関係を大事に、これからを歩いていけばいい。
そうしたら必ず道は見えるはずだから。
そうフレイルは思って、拳を握った。




