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氷の花と共に永遠を

 ハルトの光剣が帝王の鎧の隙間を縫って入り込む。

 突き刺さったのだろう、血が飛んだ。


 瞬間、稲妻の如き閃光が走る。その先に景色を見た。


 氷の森と白き居城。


 その花壇で男女が談笑している。


『これはね、氷の花「ルクス」 綺麗でしょう?輝く花とも言われてるわね。あなたが若き王に選ばれたからこれをぜひ贈りたいなと思って』


 ーーー帝王の、記憶?


 場面が切り替わる。ハルトの脳裏に、滋賀県のある場所が写った。

 見たところ、琵琶湖近くの林だろうか?

 2人が立っていた。

 1人は氷雪の帝王

 もう1人は悪どい顔をした天使ウラー


 天使ウラーが言う。


『敗北したあなたは私の傀儡となる。優しいあなたには、この大戦は厳しいでしょう。結果的によかったじゃないですか、ここで死ねて』


 天使ウラーの勝ち誇ったような声と眼。

 その眼が怪しく光る。

 その直後、苦しそうな帝王の声が響いた。


「ーーー帝王、お前……家族がいたのか?」


 それが娘なのか奥さんなのかは分からない。

 けれど、大事な家族がいたのが分かった。


 帝王が戦斧の柄でハルトの顎目掛けて突こうとする。

 直撃すれば、槍のように突き刺さって血飛沫が舞うだけでなく、頭がもげるかもしれない。

 ハルトは間一髪でそれを避けて、一息に後退した。


 走ってくる、死の傀儡と化した存在が。

 哀れな王が。


「それなのに、大戦に参加して意識を殺されたのか?」


 ーーー運命に弄ばれて、あまりにも可哀想じゃないか、ふざけるな


 許せない。

 ハルトは剣を握り直す。


 その瞬間、背中に痛みを感じる。

 振り返ると、巨大な氷柱が背中から腹を突き破っていた。

 臓腑が溢れる。


 ーーー視界が揺らぐ。


 神の声


 ーーー世界がたわむ


 神の声が聞こえる。


 ーーー壊そう、世界を


 ハルトが全身から七色の光を発した。


 氷の床が溶けていく。


 ハルトの全身が、輝く鎧に包まれる。


 足を踏みしめた瞬間に世界が、振動するかのような衝撃が走った。


 輝く王冠のようなものがハルトの頭上に浮かぶ。


 目は白く濁り、口から涎が垂れている。

 ハルトの身体は綺麗さっぱり元通りになっていた。傷が塞がり、臓器も元通り。

 それでも、意識は混濁し、視界は揺らぐ。


 攻撃速度は常人を遥かに凌駕していた。

 瞬時に移動して蹴り上げる。

 足先が頭に届くくらいだ。

 氷雪の帝王の鎧が砕かれながら、空へと上昇していく。


 ハルトも空へと飛び上がった。


 そして、刹那のうちに追い越してーーー思いっきり振りかぶった剣で帝王を撃ち落とす。


 凍り切った湖面にぶつかる前に何度も何度も切りつける。


 血飛沫が飛び散る。


 はらわたが空を舞う。


 そして、湖面に着地した時には氷雪の帝王は絶命していた。

 いや、機能が停止していたが、正しいか。

 吹雪が止んだ。曇天が少しずつ青みがかってきている。陽の光が眩しくなってきていた。

 直に湖面の氷は溶けるだろう。


 だが、それでは終わらない。

 ハルトが動く。

 ただ、帝王を殺すだけではダメだ。

 圧倒的な敗北を思い知らせなければ!

 圧倒的な快楽を我が身に刻まなければ!

 圧倒的な蹂躙を、しなければーーー!


 踏み込む。そして、神がかった閃光の如き速さでハルトはすでに死んでいる帝王を殺しにかかった。


「ダメ……!」


 フレイルがずぶ濡れになりながら、防御魔法を発動して帝王を守る。

 それでもなお、ハルトはギチギチギチギチと音を立てながら攻め立てようとしていた。


「ダメだよ、ハルト」


 ハルトの攻撃が凄まじい。

 一撃が重い。

 このままでは押し負けるかもしれない。

 けれど、ーーーフレイルは防御魔法を解いた。ハルトの持つ光の剣が閃いた。

 腕が切られ、熱せられる感触。

 火傷ができたのだろう、激痛がする。

 けれど、そんなことよりもハルトのこんな人間性のかけらもない、ただの殺戮マシーンのようになっている姿がフレイルにとっては悲しかった。

 視界が滲んだ。

 それでも、フレイルはハルトは抱きしめて言う。


「このまま攻撃したら怪物なっちゃうよ?

 そんなの私はいやだよ。あんたは私と一緒に神の天啓に挑んでくれるんでしょ? ユーロの暗躍を食い止めるんでしょ?」


 ハルトの呻く声が聞こえる。

 フレイルは腹を殴られた。

 苦しい。けれど、ハルトの方がもっと苦しいはずだ。

 だから、叫ぶ。


「だからーーーお願い、戻ってきてよ! ハルト!」


 その言葉が琵琶湖全体に響いた。


 そしてーーーハルトの光る王冠が割れる。


 ハルトが両膝から崩れ落ちた。


 大剣も魔法効果を失い、短剣へと戻る。


 フレイルは陽の光を浴びながら、ハルトにこう言った。


「おかえり」

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