↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/42

異界より来たりし者達 氷雪・天使

 外に出たら強烈な寒さだけじゃなく吹き荒ぶ風を浴びた。

 寒いを通り越して痛い。風が一瞬だけ止まってもそうだった。

 鼻水も咳き込んだ時のひまつというか唾液も凍りつく。


 顔見ないでね!とかの軽口も言えたものじゃない。

 身体がガタガタ震えてそれどころじゃない。

 魔法学院の制服に着替えたはいいが、それもまた冷え切ってしまっていて意味をなさない。

 せっかく洗濯したのにと思って、フレイルはため息を吐いた。

 けれど、傍らで同じように寒さで震えているハルトに買ってもらった私服に被害がないように、ホテルに一度置いておいた。

 この戦闘が終わったら多分またずぶ濡れになるだろう。

 それならその後にまたぬくぬくを味わえばいい。

 とにかくあのゲス羽虫の下卑た笑顔を一発ぶん殴ってやらないと気が済まない。


 目にもの見せてやる


 そう怒りを込めて、寒い氷雪の中を歩いた。


 しばらくして。

 吹雪く凍った琵琶湖の上に、氷雪の帝王なる存在が立っていた。

 背中には巨大な斧(戦斧だろうか? )があった。

 自重で氷が割れそうなのに割れていないのは、あれを支えるだけに分厚く凍りついていると言うこと。

 2人して乗って戦っても大丈夫なのだろう。


 だがーーー懸念事項はまだある。


 二つ目の証なるものの光と魔力を感じる。


 湖の中で。

 けれど、違和感がある。


 それは


「あのゲス羽虫ーーー『二つ目』の近くにいるわね。じゃあ、水の中か。そのまま凍りつけばいいのに」


 天使ウラーの存在を真下から感じる。

 と言うより琵琶湖自体がやつの身体に変じたかのような。

 気色悪い。

 母さんとの思い出が穢された気分だ。

 全部終わったらお母さんとツキヨと、来たかったのに。

 粉々に打ち砕いてその破片で死ねばいいものを。

 と言うか、凍死していてくれ!


 だが、嘲笑うような声が聞こえた。


『聞こえてますよ〜? 残念ながら凍りつきはしませんよ、水の中って思ったよりも暖かいんですから』


「ちっーーー生きてたか」


 舌打ちするフレイル。

 そんな魔女をスルーして天使が構わず言う。


『ここからですがね、まずは2人でその氷雪の帝王と戦ってください。一発でも入れることができたら、生娘か、エイリアンのどちらかを中へ招待して差し上げましょう』


「なんであんたに勝手に決められなきゃなんないのよ」

 フレイルの抗議に、ハルトが

「待て」

 と制止した。


「ハルト?」ハルトの方に目を向ける。

 ハルトはこう言った。


「ここは素直に聞いたほうがいい。天使ウラーは分厚い氷の下にいて氷雪の帝王を2人で倒せるかもしれない、唯一のチャンスだ」


「ーーー分かったわよ」


 至極わかりやすい。確かにその通りだ。

 氷雪の帝王を2人がかりでぶっ潰して、そのまま奴を2人で殴りに行けばいいだけだ。

 フレイルは叫んだ。


「受けてやる! さっさとかかってこい! 返り討ちにしてやるから! 」


『ではーーー我が傀儡よ、動け。敵を氷漬けにした上で踏み潰して差し上げなさい』


 その天使ウラーの死の宣告とともに、巨体が動いた。

 それも、凶悪なほどの速さで。

 見た新幹線よりも速いかもしれない。


 ーーーあの巨体でなんて速さ! それに、あの斧だって重量があるはずなのに!


 それが一瞬で、背後へと回る。

 戦斧が迫った。


 それをなんとか避けるも、


『鬨の声をあげなさい。あの2匹はあなたにとってなんの障害にもなり得ないのだから』


 フレイルが「言ってくれるわね! ふざけんな、この……!」そう言いおわる前に……、


「ぐうううう……があああああああああああっ!」


 痛むのか。

 それとも、何かしらのリミッター解除による精神の高揚か。

 帝王が叫ぶ。血を吐くように。


 赤い瞳が蒼い兜から見えた。


 本人の意思を感じない。


 けれど、強烈な殺意ーーーそれが、現出した瞬間だった。

 帝王が迫り来る。圧倒的な暴威と化して。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


帝王の動きが凄まじい。


 乱撃なのに照点がしっかりしており、回避のタイミングを間違えれば一瞬で意識が飛ばされると思うほどの威力。


『強者と対峙して惑いなさい、死に迫る感覚をリアルに感じ取るがいい』


「さっきからうっさいな! てか、なんで……ぐ……ゲス羽虫、あんたは! 敬語使ってんのよ、キモいのがさらにパワーアップしてるからやめろバカ! 新幹線の時はふざけたタメ口だったくせに!」


『あなたは私にもう少し敬意を払うべきではありませんか?

 ゲス羽虫ってなんなんですか』


 天使ウラーの呆れた声が聞こえてくる。

 それに構ってる暇はない。

 何かに対する怒り、憎悪が膂力に変換され、大地を割る如き力を振るう帝王が相手なのだから。


 天使ウラーが言う。


『招待すると申し上げたからには、あなた方に敬意を少しは払おうかなと思っただけですよ〜。悪しからず。けれど、裁定者であるあなたはゴミのように死んでもらわなければ』


 この帝王と同じように傀儡(くぐつ)にして差し上げますから。


 と凶悪なる笑い声とともに。


「この……うわっ!」


 戦斧が眼前に迫る。

 ハルトに引き倒されてようやく回避できた。

 しかし、鼻の皮が少しめくれる。

 血が垂れてきた。


「ごめん、ハルト。助かった!」


「いいってことよ、次来るぞ!」


 氷の柱が現れる。

 それを踏み込んで氷雪の帝王が飛び上がった。

 吹雪く雲の切れ間からの陽光を浴びて、ギラリと輝く。


 それが処刑人のもつ道具に見えて、フレイルはゾッとした。


 けれど、ここですることは恐怖で身を震わせることじゃない。


 フレイルは叫んだ。


「舐めんなああああああああ!」


 反射+防御魔法 プラズマフォース


 唱える。


 ドーム状の魔法でできた防御壁。

 体が炭酸水で満たされるような感覚。

 防御壁から電流が流れている。


 プラズマだ。


 火山の神龍ネファエラとの戦いの時は、2人だったから押し広げて敵を抹消する追加効果もあったが、1人かつ黒い光もないとなると、

 微妙な出来ーーーけれど!


 帝王の膂力が乗った斧がプラズマフォースにぶつかる。


 氷と電気による火花が散った。

 衝撃波も風のように周囲に広がった。


 けれど! それでも! 2人は生きている。


 そして、フレイルは衝撃に耐える。


 全身から汗を出そうが歯を剥いて、敵の攻撃をもろともしない絶対の防御を纏いて。


 フレイルは「ハルト! 今だ! 今のうちに決めて!」叫ぶ。


 ハルトは頷くと唱える。


「払え……一条の光。剣の灯火よ、閃光の如く敵を打ち払え!(SET fleim code)」


 瞬間、ハルトの短剣が大剣へと形を変える。


 そして、一歩踏み出すと同時に防御壁もろとも帝王を切り払った。


 プラズマフォースがガラスが砕かれたように割れる。紫電を迸らせながら。


 帝王は斜めに切り裂かれていた。


 けれど、膝をつかない。


 まだ立ちあがろうとしていた。


「まだ来るか」


 フレイルが魔法を唱えようとした時、ハルトが前に立って庇うようにしてから言った。


「おい! 俺たちはこいつに一撃を与えた。俺かフレイル、どっちが天使ウラー……お前と戦えばいい!」


『ええーーー招待しますよ』


 天使ウラーが真下で気色悪い声色で答えた。


『魔女フレイル。あなたをね。死の抱擁に身を委ねるがいい』


「気持ち悪いこと言うな! 寒気がするーーーわあっ!?」


 氷が割れて現れたのは闇色に渦巻く水。

 それがフレイルの首を掴み、暗い水底へと引き摺り込んだ。

 薄い膜のような魔法防壁はかけているみたいだが、あれではただの鎧にしかならない。

 息ができるようなのが救いか。


「フレイル! フレイル……おい!」


 呼びかけても返事がない。

 暗い色の水が揺蕩うばかりだ。


 焦るハルト。

 けれど、

 緑色の閃光を視界の端にとらえたと思ったその時、竜巻をもろにくらったような激痛と衝撃をハルトはみぞおちに感じた。

 身体がくの字に曲がりながら宙に浮く。

 息が続かない。


 咳き込みながらきりもみをし、凍った湖面に叩きつけられた。

 痛みに呻きながら見る。


「お前、なんだその首の緑色に輝く光!? 

 っ……それにパワーが上がってる?」


 そこにいたのは、人間性をより廃して獣性が増した氷雪の帝王の姿だった。

 首筋の緑色の光が痛々しい。


 フレイルは沈んでいく。

 死の深みへと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。