鬼雷、氷結、蒼光
雨が降ったのか落ち葉が濡れている。
木々の葉から滴り落ちる水滴が顔にかかった。
ひんやりしているが、あまり心地いいものではなかった。
衣服は泥だらけのシミだらけ。フレイルは、ひどく落ち込んだ顔をしていた。
「うう……バリアを展開しておけばよかった」
「結構汚れちまったな……」
「あんまり見ないでよ!? 制服って透けやすいんだし」
「分かってるって! お前もわざわざ言うな」
「とにかく、あのゲス羽虫のせいだ! 琵琶湖がどうのこうのって言ってたし、どうせ出てくるんでしょう。返り討ちにしてやるわ」
てか、今から行くホテルに暖を取れるのと、洗濯できるのってあるわけ?
フレイルが聞くと、「あると思うぞ」と返して、
「見えてきたな、あれが琵琶湖でその近くにあるのが琵琶湖ホテルだ! 湖もでかければホテルもでかい。最高じゃないか」
森をなんとか抜けると、あたり一面湖が広がっていた。
その奥の方に見える、茶褐色の建造物。
あれがホテルらしい。
ここからでも大きく見えるということは、近づけばより大きく感じられるのだろう。
しばらくしてホテルに着いた。
高層ビル並みというわけではないが、割と大きい印象を受ける。
見たところプールもあるようだし、心配だった洗濯ルームも完備しているらしい。
フレイルは安堵した。
2人はホテルに泊まることにした。
フレイルがどうしても部屋を分けたいというのでため息をつきながら、高い金を払う。
とはいえ、女の子だ。
異界の者とはいえ男と泊まるのは嫌だろう。
そう思ってハルトは納得して隣同士になるように設定した。
だが、フレイルが学院の制服を洗濯に出して一般市民のような格好をしている(フレイルに買わされた。動きやすいスウェットパンツとグレーのYシャツが似合っている)のを見て、
「なんでお前いるの?」
ハルトが何度目かのため息をつきながら目を細める。
少しピリッとしたような空気が流れた。
フレイルは、やだな〜気にしないでよと苦笑いした。
「え〜だって、ツインベッドじゃん。何故か。一台物置きにしたら勿体無いでしょ。それに、あいつがきた時にどう対抗するか、作戦会議もしたいしさ」
「あ〜もういい。そこで座ってろ。俺はテレビ見てるからな」
「はいはーい」
そう言ってフレイルはベッドの柔らかさにはしゃぎながら過ごした。
ハルトがテレビをつけると、ライブ中継中のテレビがやっていた。
旅行場所をランキングで伝える番組らしい。
レポーターと芸能人が2人して歩いている。
「中継ってなに?」フレイルが聞く。
ぶっきらぼうにハルトが答えた。
「特殊な機器で人とか物、景色を映せるわけなんよ。それをリアルタイムで流すことだな。写真ってのもあるけど、これもまあ同じ原理だな」
ふーん、魔法でもなんかできそうな原理だね。とフレイルはつぶやいた。そして続けて聞く。
「特殊な機器って?」
「カメラとか、マイクってのがあるんよ。今は、スマホっていう携帯端末からもできるな」
「は〜、ようは動くものや音声をそっくりそのまま遠くに飛ばせるって思っていいのね?」
「そういうことだな」
そうこう言っていると、レポーターが言う。
『続いては全国絶景ランキング第3位! 愛知県名古屋港』
というように明るいナレーションだった。
観光客が笑ってる。
海や工場が映る。水族館も映った。
その直後に、
ピカッ
と画面が白くなる。
そして遠景に小さく人影が突如として現れる。
レポーターが最初は笑っていた。
「あれー? 誰かいますね」
芸能人もそうですね〜なんて言いながら笑い返している。
が、その次の瞬間。
「え?」
「ちょ、ちょっと待ってください! 子どもが子どもが宙に浮いています!」
雷を纏う、龍なのか、それとも獅子か。
それら異形を従えた子どもの姿。
宙に浮くように、立つ。
強い風にあおられているはずなのに、余裕そうに見えた。
『とくと去ね』
そう低い声が響いたかと思ったら、画面が激しい閃光に包まれた。
凄まじい悲鳴が聞こえる。
「ーーーなんだあれ?」
フレイルがハルトに視線を移すと、
「あれは鬼雷法師だ。やつも来ていたとは」
ハルトが冷や汗をかいていた。
『火事です! 工場から出火して……凄まじい雷鳴と共に雷がなん度もーーーきゃあ! 』
画面が切り替わる。
軽快な音楽と共に「しばらくお待ちください」との文字が浮かび上がった。
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翌日 強烈な寒気を感じた。
壁に備えつけてある室内温度計を見て驚いた。
マイナス15度。
ハルトが外を見るように言う。
吹雪いている。湖面がガチガチに凍りつき、まるで噂に聞いていた北極のようだ。
その湖面の中央に誰かが立っている。
「あれは氷雪の帝王だ。まさかーーーやつが」
「あの湖、何か光ってないかな? あの光ってもしかしてゲス羽虫なんじゃ……」
いや、それならもっと青白い光か。
あれはーーーもしかして二つ目の証?
『そう思うでしょう? 当たりですよ、半分はね』
外から声がした。
あのいやらしい声だ。だが、姿見えない。
「ゲス羽虫……! また来たわね」
『ええ。ですが、今回はそのまま襲うわけには参りませんのでね、ほら言ったでしょう? 極上の恐怖をお届けすると』
「そんなの忘れたよ、アホが!」
『まあまあ、そう怒らずに。ーーー私は、あの湖面で立っている氷雪の帝王とともに、あなた方がくるのをお待ち申し上げておりますので。どうぞご回覧のうえでお越しください。殺してあげますから』
「来なかったらどうするんだ?」
ハルトの問いに、ウラーの声が答える。
『考えたくありませんがーーー日本中、いや、世界を凍てつく風で満たすことになるでしょう。愉快で痛快な氷のオブジェが立ち並ぶことでしょうね』
はははははっと天使が笑う。
そうして、その人をバカにするような笑い声が吹雪に解けこむように消えていった。




