嗤う天使 死界の使者
『さて、まずは自己紹介をするよ。我が名は天使ウラー。ウラヌス・カルディアス・ラード・レイディアが天使名だが、長いのでね。天使ウラーでいい。死界からの使者だ。覚えておいてくれたまえ』
長ったらしく冗長に、そしていやらしい言い方で語る天使。
しかし笑うその顔は天使よりも悪魔か怪異にしか見えない。
フレイルとハルトは無言を返す。
『おやおや……寂しいね、君らは名乗らないのかい?』
「お前に名乗る名などないよ」ハルトはそう吐き捨てるように言った。
さっさと消え失せろと言うかのように。
だが、天使ウラーは笑みを消さない。
『残念だが知ってるよ』
「なに?」訝しむように見るハルトに、くははと口元を歪ませながらウラーは答えた。
『君は、ハルト=カレイドだ。輝光星から来ている、光の大剣を用いる戦闘術が得意なのだろう? 狼に変身しないのが残念至極だが』
『そして、』と言いながら視線を変える。
『そこのかわいらしい生娘は、魔女だ。
まあーーー地球人など昆虫も同然だがね。裁定者などと持て囃されているが、我が声、我が権能を少し受けただけで……くくく』
「何がおかしい!」
短剣を切り掛かるハルト。
それも何故か空間が捻じ曲がるかのように逸れて当たらない。
『おっと……無駄に体力を使うのはよした方がいい。そこの生娘も、じきに立っているだけで恐怖からか体力をじわじわと落としていくだろうねえ。最終的にはげっそりとした顔で死に至るだろう』
はははっと声をあげて笑う。
天使が嗤う。
ちいっと舌打ちをしてハルトがさらに踏み込み、短剣を振るう。
それも当たらない。
ひらりと交わされるのではなく、現象の類で「当たらない」という結果が帰結する。
それでもハルトは戦おうとした。
ハルトは切り掛かり続けて叫ぶ。
「フレイル! おい、フレイル! 戦え! いつもの調子はどうした。今のままで本当にいいのかよ、こけにされてんだぞ。このままやつに言いたい放題言われて死んでもいいのか!?」
「……で、でも……怖くて身体が動かない……」
フレイルは首を振る。
怖いものをみた子どものように。
ハルトはなおも続ける。
心を解かせるかはわからない。
けれど、フレイルは勝気なのが似合う。
それを取り戻してやりたい。
「お前は魔女だ。あいつはたかが羽虫だと思えばいい! 天使なんざ存在しない。虫だと思え!
声じゃなくて蛾の粉だと思えばいい!」
戻ってこい、フレイル!
そのハルトの言葉が、フレイルに胸に響いた。
「分かった」
フレイルは震えが少しずつおさまっていくのを感じていた。
立ち上がる。
そして、いつもの生意気な態度を取り戻す。
「ちょっと落ち着いた。ありがと。あいつの能力に気圧されてたみたいだね、恥ずかしいよ自分が」
「立てればそれでいい。もう迷いはないな?」
「もっちろん」
ハルトの言葉で震えが止まる。
深呼吸すると、胸のざわめきもおさまってきた。
あとはーーーあのゲス羽虫を吹き飛ばせばいいだけだ。
フレイルは火炎剣を生成する。
そして、
「私は生娘って名前じゃない、フレイルって名前があんのよ! あんたのアホみたいで、ゲスじみた声も聞き飽きたわ。ここで塵と化しなさい」
『おいおい……聞いていれば散々な言い方じゃないか』
死の恐怖はそのまま体の痛みに変化できると言うのに
ざわめく、闇が。
暗黒なる影が大波のように、迫る。
ーーー死ね
天使ウラーの顔が大きく歪む。
勝ちを確信したのだろう。
その時だった。
ハルトが光の大剣を出して構える。フレイルが火炎剣を振り翳す。
そしてーーー闇の大波ではなく、新幹線の壁を破壊した。
森林が広がる。その奥に大きな湖が見えた。
あれが琵琶湖だろう。
『なにーーー壁を……』
「真面目に相手すると思った?
琵琶湖に来るんでしょ? 来るなら来ればいい。真っ向から吹き飛ばしてあげるから」
『そう言いながら新幹線を焼き切ってるわけだがね……まあいい。極上の恐怖をお届けしよう。楽しみにしているといい』
「誰がするか、あほ!」
舌を出してベーっとすると、あとはハルトとともに飛び降りた。
耳には天使の笑い声がいつまでもいつまでもこびりついていた。




