12話 滋賀へ
ハルトが指定席チケットなるものを買って、なくすなよと言われつつ、渡される。
「なくすかー!」
と返しつつ、受け取ると改札を2人で通った。
わりかし混んでいるから、人の流れをかき分けるようになってしまう。
けれど、ハルトの後ろをついて行った。
エスカレーターなる機械に足を乗せると、すーと爽快な感覚と共に上がって行った。
少し曲線状のような機械が通過したり、止まったりしている。
通過する時はスピードがすごい。風がこちらにまで届くではないか。
とんがり帽子が飛んで行かないようにフレイルは努めた。
「わー、スタイリッシュな機械だね。こんなスラっとしてるのが新幹線?」
ハルトに声をかけようとした。
と、気づくと姿が見えない。
あれ? 横にいたはずのハルトがいない。
見渡すと、少し遠めのところにハルトがいた。
何かを買っている。
また、あいつは勝手に……。
思うものの、なにか微笑ましかった。
ユーロの一件で落ち込んでいたものと思ったけれど、フレイルが協力を持ちかけたことで何かしらの心の支えになったのだろう。
よかった
そう思って、フレイルは笑った。
ハルトが弁当を二つ買ってきていた。
聞くと、駅弁らしい。
「結構かかるっぽいし、食いながら行こうぜ」
そう言ってハルトは笑った。
新幹線に乗り込む。
座席を見つけて2人並んで座った。
3人席のため、窓きわにはサラリーマンの男の人がいた。
寝ているっぽいが、一応会釈をして座る。
真ん中はハルト。通路側がフレイルだ。
つまみを回して机を出して、お弁当を乗せる。
お弁当は惣菜と白い飯の上に、紫色の粉(後からハルトに聞いたら「ゆかり」と言うらしい)がかかっていた。
食べてみるとちょっとしょっぱい。
景色をふと瞬間に見てみる。
新幹線が動き始めた。
徐々に速度が上がっていく。
そしてトンネルに差し掛かった時、
クスクスクスクスクスクスクスクス
と口をおさえて笑うような声が聞こえた。
瞬間、人が消えた。
「おいおいおい!ふざけんな」
ハルトが焦りを顔に出す。
それもそのはずだ。席にいるはずの全ての人がかき消えたのだから。
それも、刹那のうちに。
そしてトンネルを出たのに視界が闇に染まる。
耳が痛いほどの静かな暴威。
感覚が少しずつ消えていくのが分かる。
恐怖が虫のように足先から這い上がってくる。
一瞬、闇で満たしたのはユーロの仕業かと思った。
けれども、「これはユーロじゃない。もっと別の存在だ」
と、遠くなっていく聴覚の中でハルトが言う。
コツコツと窓ガラスを叩く音がした。
みると、耳から口元までが、もとから割れてるんじゃないかと思うほどの狂気的な笑いをした青白く光る存在がいた。
ずざざっと、フレイルは後ろへ下がる。
根源的な恐怖を強く感じたのだ。
それがひどく悔しい。
けれど、恐怖が凄まじい。
歯がカチカチと音を立てる。
が、それだけでは終わらない。
その存在が、まるで手品のように、幽霊かのように、壁を通ってくるではないか。
来るなっと叫びたい。
けれど、声が出ない。
やがて、その存在の細くしなやかで長い指がフレイルの顎を伝った。
『かわいいね、生娘。ここで殺してあげようか?』
震える身体に舌打ちして鞭を打ち、無理やりにでも立ち上がる。
そして、舐めるな!という気概で火炎弾を放つ。
当たる直前に逸れて、消滅する。
空間が捻じ曲がったかのように。
「お前はーーー天使ウラーだな。死界に住まう異次元の存在も、来るなんてな」
遠いところから聞こえるようだが、ハルトの声だ。
ウラーが笑いながら、それでもゴミを見るような、下等の存在を見るような目つきで、
『ほお……。我が名を知っているか、エイリアン風情が。その人の子を殺そうかと思ったが、なかなか。楽しめそうじゃないか』
ここで死ぬといい。まあ、どうせ琵琶湖でも生きていられないがね。
怖気が走るような声で、そう言った。




