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離島の求人に多分エルフが来てる  作者: 白崎イチイ


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四話 カメラが来た

「それで、どげんね仕事は。」


 食後の一休みの最中、酒も回ってきた父さんに尋ねられる。

 母さんとフィルネリアさんは何やら楽しそうにアルバムを見て話し込んでいる。


「どげんって...普通よ普通。」


「そうか。」


 別段苦しいと思ったこともない。

 普通に休みはあるし、給料も普通にもらえている。

 まあそれは、裏を返せば普通以上のものはないということでもあるが、人並みにやりがいも感じているし悪くない職場だと思っている。

 仕事自体も、今回みたいな面白い出会いがあることだし。


「そっちこそどうなん。アルバイトなんか雇って。」


「大変やにゃあ。母さんも腰いわして長いこと収穫できんくなっちゅう。」


 当たり前だが、そこにいる二人は若かった頃の両親ではない。

 あの頃の二階の屋根も裏山の秘密基地も、剪定しようと登った木から落っこちてもピンピンしていたあの頃からはずいぶんと時が流れてしまった。

 それほど広くないと言っても一日二日で終わるような作業量ではない。

 ましてや二人三脚でやってきたうちの一人がこれまでのようにはいかなくなり、もう一人も年々衰えているとなればそこに手伝いを欲しがるのも当たり前のことだ。

 島の友人たちもいるが、当然その人たちだって同じぐらいの年齢で作業が終わった日には全身を攣ることになる。

 自分の息子がそういう仕事についているのだから、その伝手で頼むのは当然の流れと言える。


「俺もしばらくいるから手伝うよ。」


「おお。彼女に教えてやりい。」


 いくら若い労働力とはいえ初日から役に立つようなことは流石に期待していないので、まずはやり方を教えるための時間が必要だろう。

 そうなるとその分時間が取られることになるが、ここに小さな頃からやってきた若い男がいる。

 まだまだ焼肉に行ってカルビを頼めるような若い男だ。

 多少の穴は埋められる。


「今年は天候がよかったきようけなっちゅう。」


「...お手柔らかにお願いします。」


 昔ならいざ知らず、デスクワークしかしてないような今の体じゃ下手したら島の老人の方がよっぽど体力があるかもしれない。


「ま、最初はぐるっと見て回るくらいがちょうどええ。お前も彼女も。感動もんやぞ。」


 ...それはよく知っている。

 日照り、虫食い、台風、毎日の手入れ。

 全てを乗り越えた先にある太陽の光を思う存分に跳ね返すあの景色は、たとえその最後の美味しいところだけを食べたとしても十分すぎるぐらいに感動できる。

 そしてこう思うのだ。

 来年も頑張ろうと。


「収穫の時期にだしたんはそれが理由?」


「そげんこっちゃな。」


 何も考えていないようで、案外先々のことまで考えている。

 ここに二人で最初に移り住んだのだって、勝つ算段があったからだ。

 そうでもなきゃこんなところに奥さんと二人で引っ越したりしない。

 その感動をフィルネリアさんにも味わってもらい、自分から頑張るモチベーションにしようとしている。


「けんど収穫は頑張っちもらわな困るがや。」


「わかっとるよ。」


「任せたぞ。」


 そう言ってぐいっと最後の一杯を飲むと空になった瓶を抱えて台所へと消えていく。

 まさかもう一本持ってくるわけもあるまいしあれで最後だろう。


「なっつかしい!こげん写真いつ撮ったんかね。」


 わっと声を上げた母さんは、どこかからかまたアルバムを引っ張ってきて二人で見ている。

 その横にはすでに読み終えたらしきいくつかのアルバムが積まれていた。

 これを見ると母さんがどれだけ写真を撮ってきたのかまざまざと分かる。

 今になって思うが何をするにもわざわざカメラを持って着いてきていたのはこうして振り返るためで、そしてまんまとその写真を見ている。

 それもちょっとやそっと、何かの記念に撮るなんてもんじゃなく最低でも一日一枚は撮ってるんじゃないかというぐらいずっと構えていた。


「これはどこの写真ですか?」


「んー?これは...どこやろか。」


 アルバムの写真はデータでも保存があるとはいえ現物はそれはそれで貴重だ。

 アルバムから抜くことなくシートの上から見ていたのだが、記憶にない写真があったらしい。

 まああれだけ撮ってればいつの間にか撮ったものもそりゃあある。


「ちょっと見せてよ。」


「あ、どうぞ。」


 すっとフィルネリアさんが右によって席を空けてくれたのでそこから覗くと、確かにあまり見覚えのない場所が写っている。

 単に場所がわからないというだけでなく、ピンボケしているのだ。


「うーん。ってことは遥が撮ったんじゃないの?」


「そうかもにゃ。」


 となるとある程度絞れるはずだ。

 流石の遥とはいえある程度の年齢になったらまともに写真も撮れるようになったはず。

 それまでの行動圏の中で考えると、裏山、果樹園、近所の家、学校...


「学校!」


 そうだ、学校だ。

 ピンボケしていても緑が多く木に囲まれた中だということは予想がつく。

 学校のすぐ近くにも雑木林があり、時たま休み時間にそこに抜け出してはしこたま怒られる児童がいた。

 遥もそのうちの一人だが、流石に学校にカメラは持ってこないだろう。


「多分授業参観の後の保護者会で抜け出したんじゃない?」


「あー。覚えとるような覚えとらんような。」


 なんとも曖昧な返事だが、その時は母さんもだいぶ怒ったはずだ。

 あそこの雑木林は学校の真隣にありながらかなり広いので迷子になる子供がいて、そうなると島民皆んなで探すことになる。

 まあ年に一回ぐらいはあるのでそういうイベントだと思って子供は参加するのだが、流石に保護者の立場だとそうもいかず、入らないように厳しく言われるのだ。


「本当、たくさん写真を撮ってるんですね。」


「フィルネリアさんは撮ったりしないの?」


 沢山のアルバムを見てしみじみと呟く姿に思わず声をかける。

 写真自体はすんなり受け入れていた以上元から知っていた可能性が高いのに、そうやって言うということは撮っていないんだとは思うが。


「ええ。カメラを持っていませんでしたから。」


 少し寂しそうに言うフィルネリアさんに声をかけようとしたところでおせっかいな人が口を挟む。


「カメラやったら使わんのがあるきあげちゃるわ。」


 言うが否やすぐそこの戸棚のカゴをごそごそと漁りはじめる。

 あれやこれやを横に置いたと思ったらその下から古いデジタルカメラを引っ張り出した。


「いえ、もらえませんよ!」


「じゃあレンタルっちゅうことにしとくき。」


 そう言って半ば強引に押し付けられている。

 落とさないように両手でしっかりと握らされているそれは記憶が確かならだいぶん前に使っていたやつだ。

 戸棚の中にしまってあったこともあるし、何より本人がいいというのだから貰ってしまってもいいというのに。

 といってもそりゃ急にカメラもらったら遠慮するか。


「大丈夫ですよフィルネリアさん。それ、今使ってるやつの二つも前のですから。」


「でも...」


 安心させるように伝えても、どことなく不安げにカメラと母さんとで視線を行き来させている。


「使わんもん持っといてもしょうがないが。つこうてくれる人に渡した方がよか。」


 未だにおどおどとしている彼女を見据えて言う。

 今母さんが使っているカメラは俺の初任給で買ったそこそこのカメラなのでこんな古いデジカメよりかは性能がいいはずだ。

 それから遥も携帯しやすい小さなカメラを買ったのでその二つをメインで回していることを考えると、このカメラはフィルネリアさんが持っておくと、うん、収まりがいい。

 父さんはカメラはもっぱら映る方専門なので母さんのカメラを借りて撮るぐらいで丁度いい。


「母さんもこう言ってるし。ここにいる間だけ、ね?」


「...わかりました。ありがとうございます。大切に使います。」


 そう言って大事そうに、壊さないようにそっと胸に抱えた。




 



 

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