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離島の求人に多分エルフが来てる  作者: 白崎イチイ


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二十五話 大きな野望が来た

「なんなのでしょうか、その本当の観光振興というのは?」


 横で真剣に話に聞き入っていたフィルネリアさんから質問が飛ぶ。

 精霊は早々に夢の中へと逃げ込んでいた。

 彼女の質問に一瞬悩んでから答え始める。


「うん、そうだね...例えば夏樹クンが浮気をしたとして、」


「なんで俺なんだよ。」


 流石に聞き逃せなくて口を挟んでしまった。

 絶対に俺じゃなくて架空の人間でも他の例えでも良かっただろう。

 しかしその追求は簡単に傍に置かれて話を続けられてしまう。


「例えばじゃないか、仮にの話だよ...もし仮に浮気をしたとして、復縁したければ君はどうする?」


「どうするんですか?」


 その質問に何故かフィルネリアさんまで一緒になって聞いてきた。

 葵は笑っているところからしてわざとなんだろうが、隣で真剣な表情をしている人がいるので巫山戯た問題ではあるが一応真剣に考えて答える。


「...まあ、謝るしかないだろ。その上で誠心誠意尽くすとか。」


 一度相手のことを裏切っている以上、新しく信頼を積み上げるしかない。

 そのためにはできることで決して手を抜かず誠意を見せる必要がある。

 その答えに納得いったのかなんなのか、頷くフィルネリアさんを見て話を続ける葵。


「ふむ、ひとまず合格としておこう。そもそも浮気なんてする時点で復縁もクソもないがね。」


「だから俺に言うなよ。」


 付け加えられたようなボヤキも、浮気なんてしたこともするつもりもないんだから言われても困る。

 しかも本当に浮気した人物が俺である必要はなかった。


「大体これと観光振興になんの関係があるんだよ。」


 今の話に大した意味がなかったらこいつを露天風呂に沈めてやるという思いで聞くと、「まあ落ち着きたまえよ」とテレビのリモコンをいじり始める。

 ピッと切り替わった画面にはこの銭湯のコマーシャルが流れていた。


「わ、こんなのあったんですね!」


「テレビなんかでは流せていないからね。」


 フィルネリアさんは早速テレビに近づいて食い入るように見つめている。

 その様子を見て微笑ましく思いながら映像を眺めると、確かに彼女の食いつきが頷けるほどによくできている。

 ローカルのテレビ局でさえ流せていないと言うのは少々勿体なく感じるが費用を考えたらそれも仕方ないか。 


「広々とした休憩所にマッサージ機、銭湯に露天風呂と宣伝は完璧だな。」


「それだけじゃないさ。」


 見終わった感想として目についたところを褒めたコメントはすぐさま否定された。

 この施設の売りといえばその辺だと思って出したのだが、首を横に振った葵はフィルネリアさんにも意見を求める。

 

「キミはどう思う?」


「わ、私ですか?」


 突然振られたことに驚きつつも、少し考えてから自分の考えを口に出した。


「えっと、トイレが広いなって思いました。あと脱衣所もすごく綺麗でしたし。」


 その映像の中では休憩所と同じぐらいの尺で二つが紹介されていた。

 勿論実際に使った感想としては、本土でも新築じゃなきゃここまで綺麗じゃないだろうと確信して言えるほどに徹底して手入れされているのが分かった。

 まああまり使われていないからこそ綺麗さを保てているとも言えるかもしれないが、映像に嘘がないことは確かだ。

 そしてその考えにまさに我が意を得たりと指をピンと指して繋げる。


「そう、そこなんだよ。誰だって汚い場所には行きたくない。」


 そう力説する葵には確かなビジョンがあるように見えた。


 確かに、行列のできているラーメン屋だってあんまり汚いと敬遠してしまう身としては汚い場所に行きたくないということには同意する。

 別段小綺麗なチェーン店で困っているわけではないのだから、わざわざ新しいものに挑戦せずともそこで満足できるからだ。


「要するにだ。汐乃島のような不便な離島において基本を疎かにしてはいけないんだ。」


「トイレがある、風呂がある。ただそれだけのことだって、アピールすればマトモに整備されていると安心する材料になる。」


 ここのトイレも風呂も、観光地のお高いホテルが目じゃないくらいには綺麗に整備されている。

 よくよく考えればそういうホテルでも一つの目玉としてホームページに掲載されるぐらいなんだから、後回しにして良いわけがない。


「離島だからこそ、行く前から不便だと分かっていたら行きたくないだろう?特に魅力が少ない今はさ。」


 今はさ、と殊更力強く言い切った。


「トイレなんて、誰が今時和式便所で用を足したいのさ。トイレがあるって言ってもそれが和式じゃほとんど詐欺みたいなモンだと思うけどね。」


 それは多分前身の銭湯への文句だと思う。

 トイレが和式しかなく、当然年季の入った汚さであることに不平不満を漏らしていた。

 あの時の経験がその考えに至る礎となったのであれば、ボロ()()に言われたトイレも報われるだろう。

 トイレだけに。


「はいはい分かった分かった。それで、お前の計画の中心はなんなんだよ。」


 ここまでのことは葵自身の言うように基礎に過ぎない。

 基礎は重要であるとはいえ、洋式便所なんてどこでも当たり前の時代に基礎しかなくては観光で島を起こそうなんて無謀にも程がある。

 であれば何かメインに据えるものがあるはずだと思って聞いた質問だったが、つつつと目を逸らして答えづらそうに言った。


「ない。」


「はあ!?」


 この後に及んでないって、それこそないだろうと思わず声が漏れるとフィルネリアさんが冷静に聞き返す。


「ない、と言うのは?」


「正確にはあったんだよ?けどちょっと、お金がなくなっちゃって...」


 もごもごと消え入るように言い訳をしているが、お金がなくなった心当たりは一つある。

 それは彼女も同じだったようで二人して葵を見つめていると観念して吐き出した。


「いや、この施設はそれはそれで必要だったからいいんだけどね?まあちょっと使いすぎた気はするけど...」


「ちょっと?」


 疑うような視線にも何の躊躇いもなく開き直れるその胆力だけは見習いたい。

 普通少しぐらい後ろめたさがあったらもっと口籠るだろうから、自分のしたことに全く後悔なんてないんだろう。


「ちょっとさ。どのみち島に人が来るようになれば必要になるんだからね。必要になってから大きく立て替えるぐらいなら最初からそこを想定して作った方が合理的だよ。」


 そうだった、こいつ街作りゲームでも序盤はケチって初めっから中盤の施設で建てるタイプだった。

 まさか現実でも同じことをやっていたとはと開いた口が塞がらない俺に変わってフィルネリアさんが続けてくれる。


「まあその是非はともかく、分かりました。ただ結局、お金があったら何を作ろうとしてたんですか?」


「そりゃあ、大きなものだよ。この施設一つじゃ建築費の足しにもならないぐらいのね。」


 もったいぶって言う葵だが、確かにそれは大きなものだ。

 この施設だって相当な費用がかかっているだろう。

 それこそ踏んだくってきた金がなくなるぐらいには。


 しかしこの島に建てるものでそこまで費用のかかるものは想像がつかない。

 スタジアムなんか建てても使われなければ意味がないし、工場を誘致するにしたってこうも平地が少なければそれも大変だ。

 観光の目玉となって人を呼び込めるものなんて汐乃島に作れるのだろうか。


「だから、それがなんなんだよ。」


 三度尋ねた質問にふふふと笑い、顔を近づけて答える。


「聞いて驚くこと勿れ。もう一つの瀬戸内しまなみ海道さ。」






 



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