二十話 お菓子パーティーが来た
幼馴染達に会いにいくとはいったもののすぐに動き出せるわけではない。
今日もまた果樹園での作業をこなさなければならないし、大体行ったところで精霊が見える条件を探るなんてことは別に優先順位が高いことでもない。
今まで会いに行っていなかったのだから一日二日遅れたって誤差だろう。
そして今の時間も午後三時と見計らったかのように丁度いい。
ということで、作業が終わった後こうしてレジャーシートの上でお菓子パーティーを開いているわけだ。
「...結構買いましたね?」
バッグに詰めて持ってきたお菓子はそれだけでお昼ご飯と変わらないスペースを占領していた。
小さなお菓子も含めるとざっと十種類近くある。
「いえ、おそらく精霊様が...」
「あっ。そういえばすごいカゴの中に入れてたような。」
犯人のふわふわは目線を決して合わせようとせずお菓子の陰に隠れている。
「...余りの分はまた今度食べるということにしましょうか。」
「はい!」
この量は一日で食べるには多すぎる。
いくらパーティーと言ってもこれだけで夜ご飯が食べられないほどお腹いっぱいにはしたくない。
「だからどれか直そうな。」
許されたと思ったのか早速袋を開けようと体を大きく使う精霊に釘を刺す。
半分でも十分な量なのだから持って帰って明日も食べればいいというのに、今日の満足のことしか考えられない食欲の獣になってしまっている。
「お腹壊さないように気をつけてくださいね。」
言っても止められないのだからこれ以上は保護者に任せよう。
「どれがいいかな。」
俺は俺で適当にお菓子を選ぶ。
数が多いと文句のように言ってしまったが、いざ自分が選ぶ側になるとロマンの塊だ。
上からこの景色を眺めているだけでも満足できる。
もうすでに若干お腹いっぱいになりながらも同じように選んでいるフィルネリアさんを見ていると、一つに手を伸ばして顔を上げる。
「一緒に食べませんか?」
そう言って彼女が差し出したのはじゃがりこだった。
「好きなんですか?」
食べることは構わないが、これを食べると他のお菓子が食べられなくなってもおかしくないほどのかなり重量級のお菓子だ。
いの一番にこれを選ぶとはお気に入りのお菓子か何かなんだろうか。
そう思って聞くと、実は...と打ち明けられる。
「あまりお菓子を食べたことがなくて...なので、誰かと食べた方がいいかなと思いまして。」
恥ずかしそうに目を伏せて言う彼女に、空気を壊さないように明るく話す。
「そうなんですね!だったら今日一番好きなお菓子を決めちゃいましょう!」
「...そうですね!」
そういうことならお菓子を全部食べると言うよりも、全部を少しずつ食べるというやり方にした方がいいかもしれない。
開けたら閉じられないものやシケてしまうものは後回しにして食べられるものから候補を作っていこう。
「よかったな精霊、いろんな種類が食べれそうだぞ。」
その言葉に興奮してビシビシとシャドーボクシングをしている。
単純なやつでよかったよ。
種類は多くても量が多いとは言っていないんだけどな。
まあ彼女と同じなら精霊もお菓子を食べた経験が少ないんだろうからそれでも嬉しいか。
「じゃあまずはフィルネリアさんの選んだコレから食べましょう。」
じゃがりこなら口が開いているから三人でも食べやすいし、ベーシックな味だから万人ウケしやすい。
まあカルビーのジャガイモのお菓子といえば有名なやつがあるが、せっかく彼女が選んだのだから先頭バッターはこれに決めた。
「いただきます!」
みんなでそれぞれ一本ずつ持って口に運ぶ。
精霊だけは半分に折ったものをあげている。
そうでもなければ大きすぎて口元に持っていくだけでも切れないチーズを伸ばそうとする人のように胴を伸ばさなないといけなくて大変そうだったのだ。
ぽりぽりと音を鳴らしながら食べていると、彼女がもう一本取ろうと手を伸ばした。
「どうでした?」
「美味しいです!」
いろいろなお菓子を食べようと言っていたことを忘れるほどに夢中になって食べていた。
じゃがりこだけに、このお菓子の虜になっていたらしい。
「もう一本だけ食べたら次のに行きましょうか。」
「そうしましょう。」
やはり食べたかったのか、もう一本だけと言う言葉に笑顔を見せる。
精霊は一本の半分な。
そんなに大きいの抱えても食べ切れないでしょうが。
両腕で抱えて渋る精霊をなんとか説得して交換し、ついもう一本と伸びそうな手を止めて鋼の意志で次のお菓子を選ぶ。
「しょっぱいの食べたから次は甘いのがいいですね。」
お菓子は交互に食べた方がそれぞれの味が引き出されてより美味しく食べられるようになるという、本当かどうかわからない噂があるが確かにその方が飽きが来にくいように感じる。
「チョコでなんかいいやつあるかなー。」
ぽいぽいとチョコのお菓子をフィルネリアさんの前に集めてその中から選んでもらおう。
真剣な顔つきでパッケージを眺め、嘴の大きい鳥の描かれたものを選ぶ。
本当に鳥なのかは疑問が残るが美味しいから気にすることはない。
「ちなみにそのお菓子には当たりがあります。」
「そうなんですか!?」
なんの気兼ねもなくパッケージを開けようとした手が止まる。
「二種類あって、金だと何か貰えるはずですよ。」
「絶対に当てます!」
そう意気込んで口を開ける。
一瞬彼女の動きが止まり、遅れて目の前に箱を押し付けられて視界が塞がる。
「銀!銀ですよ水野さん!」
「おお!すごいですね!」
これまでにそれほど買ったことがあるわけでもないが、銀でさえ当たったことがない身からすると一発で当たりがついていると言うのは剛運と言う他ない。
「銀だとなにが貰えるんですか!?」
あっ。
「...銀だと何ももらえないですね。」
「ええ!?」
ぴしりと固まる彼女にもこの無情なシステムを説明せなばならない。
金は一枚でご褒美がもらえる大当たりなのだが、銀は引き換えるために五枚も必要になる。
つまり銀一枚では観賞用と将来の貯エンゼル以外には価値がない。
「でも銀でさえ見ることないですからフィルネリアさんは幸運ですよ!」
動き出せない彼女を励まそうとしても、
「つまりこれから銀が来ないかもしれないってことですもんね。」
とさらに凹んでしまう始末。
「まあ俺も今まで見たことなかったぐらいですから、気にしすぎちゃダメですよ。こういうのは気にしたら当たらなくなるようになってますから。」
「そうなんですか?」
多分そんなことはないと思うが、体感では絶対にそうなっている。
明らかに誰かが確率を操作しているとしか思えないほどに当たらないのだ。
「試しに残りも開けてみますか?」
「はい!」
俺と精霊の分であと二つ、未開封のチョコボールが残っている。
もしかしたら彼女なら確率の壁を越えられるかもしれないと、上機嫌にパッケージを開いていく彼女を見守った。
「...水野さん、やっぱりそうなってると思います。」
見事にどちらも何も描かれていない。
手をついて悔しがる彼女だが三個中一個当てられたなら運はいい方だ。
「まあまあ、これからも買えますから。」
「そうですよね。次こそは絶対に金色を当てます!」
そう拳を突き上げる彼女の姿に不吉な未来を予感したが、気のせいだと思うことにした。




