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離島の求人に多分エルフが来てる  作者: 白崎イチイ


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十九話 精霊が来た

「ちっこいやつって...」


「いや、そうだよな。俺もおかしいなと思うんだよ。疲れてんのかな。」


 戸惑うような雰囲気の俺たちに自分のことを疑い始めるが、見えているから困惑しているのは同じでも理由が違う。

 ここ何日かで確信したこととして、両親には精霊は見えていない。

 試しに目の前で飛んでも目線が一切精霊のことを追っていなかった。


 常識的に考えれば両親がなんらかの影響で見えていないか、俺がなんらかの影響で見えるようになっているかのどちらかだ。

 そしてここに来て精霊が新たに見える人物の登場である。

 いや、いまならまだ誤魔化すことも可能だ。

 まさか精霊がいるとは思わないのだからシラを切ればなんとでもなる。

 

 しかし全く知らない人物ならともかく相手は幼馴染。

 こちらの都合を伝えれば協力してくれる可能性は高い。

 フィルネリアさんとの一瞬のアイコンタクトの後、思い切って口を開いた。


「そいつってどんな姿してんの?」


「ん?そうだなあ...」


 どうでもいいことを聞くことで時間を稼ぐ。

 考える時間を捻出すると同時に、どれぐらい見えているのかを知れるのも大きい。

 精霊として見えているのか光の玉ぐらいに見えているのかで誤魔化せる具合も違ってくる。


「人間の姿をそのまま五百ミリのペットボトルに縮めた感じ?それがフワフワ飛んでんだよな。」


「ふーん。」


 もう完全に見えている。

 まあこうなったら隠すより味方を作った方が動きやすくもなるか。

 なんで見えるのかの理由も知っておかないと下手に精霊を動かすことができなくなってしまう。

 そのためには共通点を探っていく必要があるし、それは本人の協力抜きには難しいだろう。


「まあまあ、そういうのが見えることもあるよ。」


「病院行った方がいいのかなあ。」


 精霊を呼び戻してフィルネリアさんと二人で戯れる。

 ゼリーを食べて以来好物になっているのでラップに包んで持ち歩いているとこうして機嫌を取るのに便利だ。

 ちょっとだけ昆虫にゼリーをあげている気分になるが言ったら怒られそうなので心に秘している。

 

「...なんか懐いてないか?というかなんだそのラップは。」


 拓斗はというと。手のひらの上に広げたラップに一目散に飛んで行く様子に困惑していた。

 

「気のせいだろ。」


「気のせいですよ。多分疲れてるんだと思います。」


「いやいやいや明らかに懐いてるだろ!二人して俺で遊ぶのはやめろ!」


 適当に相槌を打ったらいい加減バレたので教えてあげよう。

 まあ聞いても信じられるかどうかは別の話だが、見えているんだから信じるしかないはずだ。


「これは精霊。こうやって着いてきてくれるけど、まだ誰にもバレたことなかったんだけどな。」


 魔法やら何やら余計なことまで言う必要はない。

 その辺は必要になったら考えればいい。

 見えている精霊に関してだけ情報を与える。


「精霊って...じゃあ夏樹達にも見えてんのか?」


「見えてるよ。」


 そう言うと、むしろ大袈裟に肩を落として残念がる。


「なんだよ俺に突然何かが目覚めたとかじゃないのかよ。興奮して損した。」


「なんだよ、見えるだけで十分だろ。」


 投げやりになって精霊が見えるだけですごいということを完全に忘れている。

 それだけで何かが目覚めたに匹敵する出来事じゃないかと思うが本人的には自分だけじゃないのが気に入らないようだ。

 それにもうフィルネリアさんと契約している以上拓斗がどうにかできる部分は全くないわけで、見えるだけってのは生殺しに近いのかもしれない。


「ただこれ、うちの両親には見えてないみたいなんだよな。」


「ほーん。なんか条件があるわけね。」


 拓斗は興味深そうに精霊を観察する。

 その視線に気づかずゼリーに夢中な精霊は顔中ベタベタにしてフィルネリアさんにハンカチで拭かれていた。

 こう見ると小さな子供にしか見えないが、年齢的にはフィルネリアさんを遥かに超しているらしい。

 

「まあ単純に年齢って線はありそうだけどな。」


 精霊から視線を外して拓斗が言う。

 両親に見えていなくて俺たち二人に見えている理由として確かにそれは考えられたが、だとしても妙だ。


「普通こういうのって子供の時だけ見えるとかだろ?じゃあどこで見えなくなるんだってのが分からん。」


「それもそうか。」


 子供にだけ見えるというのは有りがちなパターンだが残念ながらというか、幸運なことに成人していても精霊は見える。

 そうなると幾つになったら精霊が見えなくなるのかという閾がよく分からない。

 

「とりあえずはこのことは内密に頼むな。」


「おう。どうせ客は誰も見えないんだから言わねーよ。」


 悲しい離島ギャグである。

 

「これからは俺たちも来てやるから。」


「頼むぜほんと...けど昼間は配達してっからいないかもだけどな。」


 足腰の弱くて買い物に来れない家庭のために配達もやっているそうだ。

 あの頃のガキがここまで立派になっているなんて信じられないが、これが立場が人を作るというやつなんだろう。

 昼間は作業があってこちらも来れないので問題はない。


「あと見える可能性があるとしたら...あいつらか。」


「まあ年齢が鍵ならそうなるよな。」


「あいつらって誰なんですか?」


 昔を懐かしむかのように言った拓斗と俺に全く心当たりがないフィルネリアさんが尋ねる。


「幼馴染達のことだよ。この島で子供なんて少なかったから自然と仲良くなったからね。」


 学校もかろうじて各学年あったが、運動会なんかのイベントごとでは児童生徒より平気で大人の方が多かった。

 それはそれで島のイベントとして半分お祭りのような形で盛り上がっていたから楽しかったが、普段は人数が少ない分同じメンツで遊び倒すことになる。

 俺がこの島を回ったのも一人ではなくその幼馴染達とだった。


「今は連絡されていないんですか?」


「あー、みんな色々散っちゃってるからね。」


 その中の一人である俺が言うのもなんだが皆んな就職や進学でこの島を離れて行ってしまった。

 最初の方は連絡もしていたのだが今ではめっきり、新年の挨拶をするぐらいでそれすら最近ではおろそかになっていた。

 

「でも何人かは島に残ってるだろ?」


「そりゃな。あとで何してるか送っといてやるよ。」


「ありがとう。」


 全員が全員島を出たというわけではなく拓斗のようにこの島で就職先を見つけた奴もいる。

 どこで何しているのかまでは知らないので、この島のネットワークを維持している拓斗から教えてもらえるのはありがたかった。


 まあ家に帰ったら両親が知っていただろうけど。

 就職先なんて一瞬で広まるのだから、田舎の情報網を舐めてはいけない。

 

 少ししんみりとした空間で、切り替えるように拓斗が言う。


「なんか買おうとしてたんだろ?サービスはしねーけど売ってやるよ。」


「当たり前だろ。」


 どこに商品を売らない店があるのか。

 とりあえず買おうと思っていたものをいくつか取りカゴの中に入れる。


「フィルネリアさんもどうぞ。」


「あ、すいません。」


 カゴを差し出すとその中に商品を入れ、ついでに精霊もぽいぽいと買いたいものを落としていく。

 

「じゃこれ会計な。」


 レジに置いて会計をするが、よく見るあれがない。


「おいここ現金だけかよ。」


「しょうがないだろ零細個人商店なんだから。」


 仕方がないので貴重な現金で支払い、お釣りの小銭を財布に戻すと膨らんでしまう。

 財布に跡がつかないうちにまた店に来て使ってしまおう。


「じゃ、またな。」


「おう。」

 


 



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