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離島の求人に多分エルフが来てる  作者: 白崎イチイ


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二話 島にスピリチュアルな方が来た

 潮の匂いが苦手な人もいると言うが、どこにいても海に近づけば故郷の香りがするので私は好きだ。


「あの、ついてきていただいて良いんですか?」


「ええ、まあ...」


 会社には帰省するからと休みをとって、連絡船に揺られて汐乃島に行くエルフさんに同行していた。

 だいぶ仕事をほっぽってきたので帰ったらしこたま怒られるだろうが、そんなことよりも重要なことなので仕方ない。

 父さん達がエルフ、まあエルフと決まったわけではないんだけど、暫定エルフであることに気づくかもしれないし、そうなった時に説明できる存在がいた方がいいだろう。

 単にエルフが気になったからと言う理由からは目を逸らした。


「フィルネリアさんも不安があるでしょうから、慣れるまではサポートさせていただきますよ。」


「そんな、ありがとうございます!」


 純粋な感謝の瞳で見られると大変気まずくなるが、一応いいことをしていると思う。多分。

 すると座席の横に置いた鞄の蓋がふらふらと持ち上がる。


「精霊様、もう少しの辛抱ですから。」


「島に着いたら海でも空でもいくらでも見れますから、落ち着いてください。」


 二人でこそこそと鞄の中に向かって語りかけて宥めているうちに気が治ったのか蓋がまたぺこっと沈む。

 精霊を見られるのは魔法同様誤魔化しが聞かない上、隠す方法も物理的にしかないらしく鞄の中に入れた直後は大層ご立腹だったが、かばんの中にあった飴玉を見つけてご機嫌になっていたと思ったのだが。

 流石に長すぎて飴にも飽きてきたか。

 あ、いや...


「船酔い対策の飴だけど、フィルネリアさんが平気そうなので精霊さんにあげてしまっていいですか?」


「お願いします。」


 鞄のジッパーを少しだけ開けて中に飴玉を放り込むと隙間から精霊が顔を出してくる。


「...ありがとうってことですかね?」


「そうだと思いますよ。」


 顔だけ出してすぐに鞄の中に消えてしまった。

 まあ島に着いたら多少は楽になるはずだから我慢してもらおう。


「ところでフィルネリアさんってこういう育樹とか農業が好きなんですか?」


「はい、故郷では樹のお世話をしていました。村の結界を維持するために必要ですから大事な仕事だったんですよ。」


 そういえばどうして故郷から出てきたんだろうと思ったが、遠くを見つめるフィルネリアさんの横顔を見てやめた。

 異世界からかこの世界の知らないところからなのかはわからないが、わざわざ人間の生活圏に来るぐらいだからそれなりの理由があったんだろう。


「そうですか。でしたらうちも果樹園ですから、あっていると思いますよ。」


「そうですよね!今から楽しみです!」


 意気込んでくれているが、こちらとしてもこんな島でもないと人目につきすぎて危ないので是非ともこの島を気に入ってもらいたいところだ。

 

「あ、見えてきましたよ。あれですか?」


 そう言うと船の手すりを両手で掴み、身を乗り出して眺めている。しかしまだ島は影も形もない。


「見えるんですか、すごいですね。」


「見えないんですか!?」


 こちらを振り向いて驚いた表情をしているが、目がいい人だって流石にまだ見えないだろう。

 これはまたエルフか精霊か、あるいは魔法あたりの影響だろうな。


「いいですかフィルネリアさん、島に着いたら人前で魔法は使ってはいけませんよ。」


 まさか人生でこんなことを言うとは思わなかったが、しっかりと言い含めておかなければならない。


「どうしてですか?」


「魔法が使えると知られれば必ず悪いことをしようとする奴が出ます。自分の身を守るためにも使わない方がいいです。」


「なるほど。確かに、魔法が使えることに難癖をつけてくる人もいましたからね。」


 わかってくれたようで安心だが、まあ汐乃島ではそんなことしてくる人間はいないだろうと思っている。

なにせ今や人間の数より島にある家の数の方が多いんじゃないかと思えるほどのスモールコミュニティで、誰かの庇護下にあればわざわざ虐めることもないはずだ。


「水野さんはどうしてこの島を出たんですか?」


 島に着く直前、フィルネリアさんにそう聞かれた。


「仕事の種類も少なかったですし、島はもう全部見て回ったんじゃないかなって思うぐらい遊び回りましたから。それで外を見て回りたくなった...んだと思います。でも今となっては外を見ることも少なくなりましたけど。」


「そうだっんですね。じゃあ、もしかしたら島も変わっちゃってるかもしれないですね。」


「はは、確かにそうですね。」


 仕事が忙しくて年に二回帰省できるかどうか、帰省しても昔のように島のあちこちを駆け回るようなこともない。

 それを思えば確かに昔と変わっているところも多いだろう。

 

 スピードを落とした船が港に着岸する。

 白波が岸壁にぶつかって弾けて消えた。

 揺れる船の上を慎重にタラップを渡って、後ろのフィルネリアさんに手を差し出す。


「どうぞ。」


「ありがとうございます。」


 重なった手を握って渡り切るのを見届けたら、そのまま船の荷下ろしを手伝う。

 子供の頃はこれで駄賃をもらってお菓子を買っていたものだ。

 大人になってもその経験は忘れていなかったが、あの頃と違って体が全体的に重くなるのは歳をとったのと日頃の運動不足のせいだろう。


「そいじゃ、またな。」


「ありがとうございました!」


 連絡船の主人と別れて慣れ親しんだ帰り道を歩いていく。


「今から私の新しい職場に行くんですね!」


「確かに、フィルネリアさんにとっては初めての道でしたよね。」


 ひび割れたアスファルトの歩道の脇には雑草が生き生きと生えている。

 数年前に設置されたガードレールも潮風にやられて錆だらけである。

 小さな島の中をほんの十分ほど歩いて、ゆるやかな坂を上がれば母屋が見えてくる。


「フィルネリアさん、あの家です。」


「わあ、あそこですか!」


 極々普通の二階建ての一軒家だ。

 ここに両親と妹と四人で暮らしていた。


「おーい!父さん!」


 インターホンを鳴らす前から大声で父を呼ぶとしばらくしてどたどたと中から歩いてくる音が聞こえ、横開きのドアが開かれる。


「おー夏樹!おかえり!なんじゃ、帰るんじゃったら先に言わにゃあ」


「母さんに言っとったと思うけど?それに俺の帰省がメインじゃないし。」


 そう言って彼女を手で指すと父も今更気づく。

 畏まる彼女のとなりではようやく鞄の外に出た精霊も手を振って挨拶している。


「ありゃ、言うとった子か。うちで泊まるんじゃろ?」


「そうだよ。いくらでも空いてるでしょ?」


「そりゃお前、二人とも出て行ってしもうたけ、家でも離れでもなんぼでも空いとるわ。とりあえず入り。」


 家の中へ引き返していく父の背中を見送り、先ほどから一言も発さない彼女の方を見ると目をぱちくりとさせて驚いている。

 傍の精霊も口に手を当ててコミカルに全身でびっくりのポーズをとっている。


「あー、まあ慣れれば気になりませんから。」


「そ、そうですよね。」


 はじめっから不安にさせてしまったかもしれないが遅かれ早かれぶつかることなのでこればっかりは慣れてもらうしかない。

 まあ日本の北の方の方言と比べれば多少癖があるぐらいで全然聞き取れるので、しばらくしたら問題ないはずだ。

 しかし今さらながらに、会っても別に驚きもしなかったな。

 ということは精霊は見えていないと思っていいか?

 あんな性格だから見えている上で気にしていない可能性があるが、わざわざ聞いて藪蛇にするのも意味がないし。

 我が父ながら雑な性格に信頼があるのも考えようである。


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