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離島の求人に多分エルフが来てる  作者: 白崎イチイ


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十三話 苗木が来た

「あー...」


 普通に考えたら、精霊が取り出した苗木を植えるなんてどう考えてもまずい。


「けどなあ...」


 この精霊がダメだといって聞くような性格にはとても思えない。

 むしろ捻くれてもう一本ぐらい取り出してどこかに植え出す可能性すらある。

 だとするとむしろ植えたがったのがここで良かった。

 ここならうちの人間以外来ることはないし、何かあっても気づかれることはないだろう。


「まあ...消極的にですよ?仕方なくではありますけど、よしとしましょう。」


「良かったですね精霊様!」


 付け足した言葉は全く聞こえていないかのように喜んでいる。

 そういえばフィルネリアさんはずっと精霊様って呼んでるんだよなあ。

 食い意地の張ったやつぐらいにしか思っていなかったが結構すごいやつなのかもしれない。

 フィルネリアさんとくるくると回って喜んでいる姿からはとてもそうは見えないけど。


「というかそもそも何ですかこれ。」


 一口に木と言っても種類が違えばどれくらい育つかは変わってくる。

 それで言うと気候などの条件からこの土地で育つかどうかも分からない。

 まあ育たない方向に関しては精霊が自分で何とかするだろうが、いずれにしても何年でどれくらい育つかと言うことは知っておきたい。


「多分トネリコだと思います。」


「へー...って聞いても全然ピンと来ませんでした。」


 よくよく考えたら杉とか檜とか松とかその辺のメジャーなものは知っているが、あまり詳しいわけでもない。

 種類がわかったら調べて気をつけることなんかを見ておこうかなと思っていた。

 とりあえず帰ったら調べておけばいいだろう。

 なにせ木が育つのにはかなりの時間がかかる上、四方八方を木に囲まれたこの空間に一本新しく植えたところで誰が気づくもんか。


「ん?...はいはい、手伝えってね。」


 話が済むまで待っていたのかちょいちょいと手招きして呼ばれた先には剥き出しの地面がある。

 魔法で掘るのではなく人間が掘らなければいけないのか、シャベルで掘る動きを繰り返す。

 

「手伝ってほしいのはわかったけどシャベルとか持ってきてないんだけど。」


 こうなることがわかっていれば家にあったシャベルでもスコップでもなんでも持ってきたんだが。

 しかし今更家に帰ってまた戻ってくるとなるとニ十分。

 ...行きたくないな。


「ちょわかったわかった何とかするから!やめろって!」


 躊躇している様子を見て強硬策に出た精霊は頭の上に乗ると髪の毛を引っ張ってくる。

 力はそれほどなく軽く痛い程度だが、いつ魔法が使われるのかと思うと全く気が気でない。


「ふふ、仲がいいんですね。」


「どこがですか。」


 髪を引っ張られる様子を見たフィルネリアさんが楽しそうに笑う。

 一体どの辺が仲良くしているように見えたのか疑問である。

 

 いや、そうではない。

 精霊が機嫌を拗らせる前に穴を掘らねばならないのだった。


「どうしよっかな。」


 最悪その辺からいい感じの木の枝を拾ってくることになるか。

 まだ苗木だからそれほど深く掘らなきゃいけないわけではない。

 時間はかかるができないことはないだろう。

 いやでも時間がかかるんだったら家から持ってきた方が楽なのか。

 うわ、めんどくさいことになってきた。


「うーん...掘る人とシャベル持ってくる人で分けますか。」


 下手したら戻ってきたら掘り終えているかもしれないがその時はその時だ。

 フィルネリアさんはどっちがいいかなと思い聞こうとするとおずおずと質問してきた。


「あの、あそこにはシャベルは置いてないんですか?」


 彼女の指の先は秘密基地を指していた。

 ボロボロになってしまったが、かつてはこの辺で遊ぶのに拠点としていた建物。


「フィルネリアさん!」


「はい!」


 思わず大声を出してしまうと驚いたようにびくんと跳ねた。


「あ、すいません。でも名案ですよ!」


 確かにあそこにならシャベルも置いているはずだ。

 今回は必要ないけど斧だって置いてある。

 

「取ってきますね!」


「あ、私も取りに行きます!」

 

 背を向けて取りに行こうと歩き出したところで駆け足でついてきた彼女も横に並ぶ。

 

「あれぐらいなら一人で掘れますよ?」


「せっかくですから。」


 まあ、記念樹みたいなものか。

 フィルネリアさんと精霊がこの島にやってきた記念であれば、精霊が持ち出した苗木を植えることも仕方ない。

 それに自分が関わることならせめて植える準備ぐらいは自分も関わりたいよな。


 秘密基地の中には入らず、外の倉庫を開くとシャベルが三本立てかけられていた。

 一本は大人用の大きなシャベルで、ニ本は正確には片手で持つスコップだ。

 それぞれ一つずつ取ってスコップを彼女に手渡す。


「スコップはニ本あるんですね。」


 その光景に疑問を呈しながらも素直に受け取る。

 綺麗な彼女がスコップを持つと何だか農業体験に来ましたという感じが強いが、そういえば別に凡そ間違ってはないんだった。

 

「俺と妹が使ってたやつですから。」


 なんでも大体子供用のものは二つあるはずだ。

 スコップもボールも、部屋だってお互いに一つずつあった。


「俺が大枠を掘るので、削ってもらう感じでお願いします。」


「わかりました。」


 シャベルでは綺麗に掘るのは難しい。

 細かな部分はフィルネリアさんに任せて、真ん中から何も考えずに掘っていく。

 しばらく掘って大体三十センチメートル弱ぐらい行ったところで交代する。

 真ん中は綺麗に空いているがすり鉢状に外側の土が残っていた。


「任せて下さい!」


 ぐっと握り拳を作り、穴に向かってしゃがみ込む。

 気合いが入った様子を見ると逆に不安になるが、穴を掘る程度で失敗のしようもないだろう。

 その間精霊の持つ苗木の様子を確認しておく。

 持つと言っても苗木の五分の一しかない体で普通に持てるわけもないので魔法で浮かしているんだろうが。

 

「見た目は普通だな。」


 なんかピンク色とかの珍しい色をしているとか、見たことのないような実がなっているとか、そういうことはとりあえずはなさそうだ。

 まあ苗木の段階でそんなことになっていたらこれから先が不安でしょうがなくなるのでありがたい。

 これからのことはこれから要観察である。


「できました!」


 手を土まみれにした彼女は満面の笑みで報告してくる。

 穴は綺麗に形を整えられ彼女の性格がよくわかる。

 俺ならとりあえず入りさえすればいいからと適当に掘っていた。


「じゃあ三人で植えますか。」


「そうしましょう!」


 精霊の持つ苗木を受け取るとずしりとした重みが両腕にのしかかる。

 

「重た!」


 急に重心が動いて前に倒れそうになったところを反対側がから彼女が支えてくれたおかげでなんとか耐えた。

 

「一緒に持たないのか?」


「そうですよ精霊様。一緒にこの島に来た記念ですから。」


 一人ふわふわと空を浮いているだけの精霊に声をかけると待ってましたと言わんばかりに近寄ってきて幹に手を添える。

 途端に軽くなる苗木に驚きつつ、二人で顔を見合わせて苦笑する。


「声がかかるのを待ってたんですかね。」


「ですね。」


 一人だけ仕事を用意されなかったから拗ねていたのかもしれない。

 仕事も何も苗木を取り出したのは自分だろう。

 であればその苗木を持っていることも仕事だというのに。


「そのまま下ろす感じで。」


「はいっ。」


 そこそこの大きさだが、それ以上に広がっている枝が持ちにくさを増幅させている。

 倒して傷つけてしまわないよう慎重に穴の中に下ろす。


「じゃあ、土を被せていきましょう。」


 穴と苗木の間に空いた隙間に掘った土を戻していく。

 埋め終えたところでパンパンと手をはたいて彼女に声をかける。

 

「さて、フィルネリアさん...」


「精霊様の出番ですね!」


 嬉しそうにそう言う彼女だがどうにもそこまで元気にはなれない。

 苗木を植える際には培養土や堆肥を使用するのが一般的だ。

 しかし急に植えることが決まったのにまさかそんなものを用意しているわけがない。

 マジカルな方法で取り出されたことを考えるとそのまま戻しても育つ気はするが、どうせなら健康に育ってほしい。

 くれぐれも、くれぐれも栄養を込めすぎないようにと何回も念を押して精霊に作ってもらうことにした。


「何回見ても湯気なんですよね。」


 今回はフィルネリアさんからのお願いなので、彼女からマナがもやもやと精霊に集まっていく。

 半透明の白色なのもあいまって湯気がたちのぼっているようにしか見えない。

 えいっと手をかざすと集まっていたマナが土の中に消えていく。


「これで終わったんですか?」


「はい。大丈夫ですよ、成功してますから。」


 目に見える変化はないが成功しているらしい。

 よくわからないが彼女がそう言うなら間違い無いだろう。

 

「大きくなるといいですね。」


「はい!」


 この記念樹は彼女たちとの不思議な出会いの象徴だ。

 健やかに育ってくれよと祈っておいた。 

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