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離島の求人に多分エルフが来てる  作者: 白崎イチイ


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十二話 秘密基地に来た

「はあ...やっと帰って来れた...」


 玄関のドアを開けて力が抜けたようにへろへろとへたり込んだのが三時のこと。

 普段であればまだまだ元気に仕事をしている時間にも関わらずこうして家で休めるとはいえ、これほどまでに疲れるとどちらが良いかはかなり難しいところである。

 ジムで毎日鍛えている人ならともかく夏樹にとってはデスクワークの方が楽ではあった。

 

「はよう着替えんかでええがか。」


「あ、そうだった。」


 パタパタとスリッパの音を立てながら居間に入って来た父さんはトレーナーに着替えていた。

 確かに多少汚れてはいるがもう少し疲れが取れるまで、と思って出かけることを思い出す。

 フィルネリアさんと秘密基地のあった場所まで行こうという話をしていたのだった。


「じゃあ着替えてくるか。」


 立ち上がってドアに手をかける。

 秘密基地までどれぐらい時間かかったっけなと考え事をしながら開けて一歩踏み出そうとして気づいた。


「わっ!」


 ドア一枚を隔ててフィルネリアさんと同じタイミングで開こうとしていたらしい。

 正面にいるお互いの存在をようやく認識して驚いた声を上げたのは俺か彼女か。

 ほとんど同時にびっくりして固まった。


「あ、す、すいません。」


「いえこちらこそ全然気づかずに...」


 右に避けようとすると丁度彼女も半歩引いてぶつかる。


「...右いきますね。」


「じゃあ私は左で。」


 なにもこんなところで息が合わなくていいのに。

 すれ違おうとして、先に予定を伝えておいた方がいいかと思い直した。

 すでに着替えた後の彼女と違って今から着替えに行くとなると少し待たせることになる。


「着替えて降りてくるので少し遅れると思います。」


「わかりました。」


 小物でごちゃごちゃとした廊下は木と漆喰だけでできていることを感じさせないほどに様々な色に溢れかえっている。

 写真はその大きな要因だが、旅行のお土産や俺や妹が描いた絵なんかも飾られてる。

 そのせいで最近では新しい写真を飾るスペースがなくてとにかく置けるところに置いていた。


 大きな壁に一枚の大きな絵が飾られているような余白を生かした美というのは全くないが、これはこれでそういう芸術だと言われても納得できる。

 少なくともその歴史はそんじょそこらの絵に負けるほど新しくはない。


「あ、これか。」


 階段を登っている途中で目に止まった一枚の写真はまさに件の秘密基地での一枚だった。

 

「うわなっつかし。ブランコとか作ってたな。」


 秘密基地の側の木の枝に紐を括り付け、その先に木の板を通して手製のブランコを作って遊んだ記憶がある。

 その写真の中ではブランコに乗る父さんの両膝の上に俺と妹とで座っていた。

 結局このブランコはいつの間にか外れていたが、それまでずっと秘密基地に来ては漕ぎ倒した。


「そういえばなんでブランコ無くなったんだっけ。」


 勝手に外すということは考えにくいから、何かしら理由があったんだろうが思い出せない。

 まあ普通に考えたら雨風で腐ったから取っ払ったのを忘れてしまっているだけか。


「じゃない、着替えに行かないと。」


 こんなところでのんびり昔を懐かしんでいる場合ではなかった。

 大急ぎで階段を上がり部屋の中に駆け込む。


 こっちに持って来た荷物はキャリーケース一つに収まる程度だが部屋に置いたままの荷物も多い。

 着替えも多分色々残っているはずだし、ケースを開けて中身を取り出す手間を考えたら適当に引っ張ってくる方が早い。

 ちゃちゃっと脱ぎ捨てて着替えてしまうと纏めて小脇に抱えて部屋を出ていく。

 寝坊しがちな夏樹が身につけた、この間わずか一分の早技だった。


「行きましょう!」


 ばたんと居間のドアを開けるとテレビの前で寛ぐ三人とおまけに一人...いや一柱か?

 とにかく、茶菓子を食べてくつろいでいたようだが散歩の時間だ。

 

「はい!」


 元気よく返事をした彼女は手に持っていた煎餅を袋だけ捨てて生身で持った。


「食べながら行きます。」


「はい。」


 まあ途中で声をかけた方が悪いのかもしれない。

 別にそれを食べ切るぐらいは待てたのに思い切りが良すぎて止められなかった。


 ぱりぱりと煎餅を食べる彼女を先導しながら外に出る。

 秘密基地へは家から果樹園に向かう道を途中で分かれれば行けるのだが、直接向かう分にはもっと近い道がある。

 林を突っ切る感じにはなるが距離の前には抗えない。

 もうこれ以上歩いたら足が棒になってしまう。


「近道行くんですけど、足元悪いので気をつけてください。」


「わかりました。」


 コンクリートや石畳のような舗装などされていない。

 草だけは踏み均されて生えていないことが救いだ。

 時折道の端にぐにゃりと露出する木の根っこなんかを超えながら十分ほど歩くと突然視界が開ける。


「ここですか!」


 丁度家の周りと同じぐらいの広さの空間で、隅の方には秘密基地だった建物もかろうじて残っている。

 

「おー、まあギリ残っていると言えなくはないな。」


 どんなものかと近づいて立て付けの悪いドアを開けると早速蜘蛛の巣が出迎えてくれる。

 頭を下げて避けながら中に入り、木製の椅子を確かめる。

 

「...ダメか。」


 座面を手で押すだけでぎいという嫌な音と共に足がふんわりと広がってしまう。

 これに座ったらドリフよろしくひっくり返るんだろうなあ。

 面白さは求めていないので座らずに秘密基地の外に出る。

 せめて観客でもいないと本当に転げ損になってしまう。


 フィルネリアさんはというとふわふわとこの空間を飛ぶ精霊を不思議そうに見ていた。

 できれば秘密基地の中に入ってきてほしいがそれどころではないようだ。

 

「どうしたんですか?」


「精霊様がなにかしたいみたいなんですけど...」


 あちこち何かを確かめるように飛ぶ姿は単に楽しんでいるという感じではない。

 二人で様子を見ていると突然フィルネリアさんの方に飛んできてぐいぐいと服を引っ張り始める。


「ええ?」 


 様子のおかしい精霊に困惑しながらも素直に身を任せるフィルネリアさん。

 突然そんな動きを見せたことに驚きながらもその後ろをついていく。


 精霊が止まったのは特になにもない場所。

 といってもこの場所自体に秘密基地ぐらいしかないのでどこもそうなのだが、強いて言うなら秘密基地から少し離れた場所ということになるか。

 

 うんうんと頷き目の前の空間にぐぐぐと力を込め出す。

 いや力をというか、この白いモヤは例のマナとやらだ。


「どうしましょう?」


「どうしましょうかねえ。」


 止めたいところではあるがこういう時間がかかるのはその最中に止めてはならないと戦隊モノで学んだもので。

 どうせ両親も精霊に気づくそぶりも見せないのだから、今更魔法の一つや二つぐらいならという心の緩みもある。

 それにまさかこちらの不利になるようなことはしないだろう。

 しないはずだ。しないでくれ。

 

 しばらくの間マナを集め続けて動かない精霊を祈るように眺め、そろそろ飽きて来たなと思ったぐらいで突然ポンッと軽快な音がする。

 この大自然に囲まれた中では全く似つかわしくないその音の出所は考えるまでもなく精霊である。

 どこから出て来たのか自分と同じぐらいの大きさの苗木を抱えていた。


「うわあ...」


 明らかにマジカルなそれである。

 もうこの時点である一つのことだけはやめてくれと心から祈っていたが、嘲笑うかの如く小さな指で地面を指している。

 苗木と土。

 この二つから連想されることは一つしかない。

 精霊の意図を汲んだ彼女が代わりに話す。


「あの、多分植えたいって言ってるんだと思います。」

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