十一話 荷運び業務がやって来た
「ふう、やっとおわったー!」
最後の一つの収穫を終えると途端に疲労感が襲いかかる。
ノルマとしていたはずのカゴはとうの昔にパンパンになり中身は別のコンテナに移していた。
ぐぐぐと腰をそらして伸びながら空を眺めるとまだまだ太陽は高い位置にある。
どうやらそこまで時間がかかったわけでは無いらしい。
「疲れましたね。」
横に並んだフィルネリアさんも見た目上は元気そうだがその声色には流石に疲労が隠せていない。
体を軽く動かしてストレッチをしている彼女が地面においたカゴの中には精霊が遊び疲れたのか横になって寝ている。
「おー、おつかれさまじゃにゃ。」
「本当に疲れた。」
一足早く終わった両親は倉庫から伸びた屋根の下でアウトドアチェアを開いて座っていた。
机まで広げてジュースを飲んでくつろいでいる。
「手伝ってくれても良かったのに。」
手伝ってくれたらあっという間に終わったはずだ。
そう言うとひらひらと手を振って言い返される。
「年寄りにはきついき。」
「よく言うよ。」
若者二人よりも遥かに手早く作業を済ましておいてきついとはいかに。
一本丸々自分たちでやった方が達成感があるとかそんなところだろう。
まあ彼女はそうかもしれないが、俺は今更達成感も何もないので手伝ってくれた方が嬉しい。
「そいだら荷物も下に運んでもらおか。」
「げっ。」
山盛りにオレンジを入れたかごを下まで運ぶ作業なんて聞いただけでも収穫作業でかいた汗が冷える。
もちろん下まで手で運ぶわけでは無い。
そんなことさせられていたら子供の頃に逃亡していた。
下までは運搬車で運べばいいのだが、その運搬車に荷物を乗せるのは当然人力だ。
モノレールを敷くとか別の方法もあるのだが、如何せんここに資材を運ぶのは中々金がかかる。
運搬車ならそれだけ運べば済むのでそちらが選ばれた。
モノレールなんて買っていたら間違いなく遊んで怪我していたので危なかった。
「こん量やったら二回で済むやろう。」
一度に全てを載せて運ぶわけでは無い。
軽トラと違って積載量がそれほど多くは無いが、その分小回りが効くのが運搬車のメリットだ。
ただ普通自動車と比べるとバイクと自転車ぐらい違うのに公道も走れてしまうのは正直よくわからない。
よちよち走っていて危なそうに見えるが、そもそも島にある自動車の数自体が限られているのでまあこの島を走る分にはあまり問題にはならない。
「二回も、だけどね。」
「今後は二回しか、になるにゃ。」
今日は四人がかりとはいえそのうち二人は一本の木しか獲っておらず、両親も大した量は収穫していない。
比較的量は少ない方なので二回で済んだと言える。
「それじゃあ載せていくか。」
「手伝いますよ!」
二人して並んでコンテナを運搬車に積んでいく。
流石に持ち上げて乗せると言う作業は技術というよりも単純な肉体労働なので両親がやるよりも早かろう。
だが若かろうと腰には来る。
特にこの、デスクワークしかしてない体にはキツすぎる。
前屈みになってとんとんと腰を叩くと痛気持ちいいというか、こうすることでしか得られない感覚があるのだ。
「あ゙ ー、疲れた。」
「弱いにゃあ。」
椅子に座ったままけらけらと笑う父さんを睨む。
デスクワークしてる同じぐらいの年齢の人間なら皆んなこうなるはずだ。多分。
さっさと日陰の中に入ると空いているベンチに座り込んだ。
「ちょっと休憩!」
正面のテーブルの上には水筒と重なった空のコップがある。
多分両親が休憩している時に出しておいたんだろう。
これ幸いとコップを一つ取り飲み物を注いだ。
「お、これジュースだったんだ。」
中から出てきたのはオレンジ色のジュース。
すなわちうちのオレンジを使ったものだ。
水かお茶だと思っていただけに甘いものが出てくるのはありがたい。
「あー。うまい。」
この甘さが疲れた体によく沁みる。
それに、あっちで疲れた時に飲むエナジードリンクなんかと比べるとよっぽど健康にもいい。
「飲んでみたいです!」
隣にすわった彼女も興味津々に覗いている。
精霊なんか頭から逆さまに突っ込んでいきそうなほどだ。
流石に危ないので手でコップに蓋をした。
そういえば普通に料理を食べる分にはお茶が出るからまだ飲んだことないのか。
「コップ持っといてください。」
「はい!」
両手でしっかりと握ったコップにとぽとぽと注いでいく。
八割ほど行ったところで丁度水筒が空になった。
「あ、無くなっちゃいましたね。」
その前に三人分注いでいたし、両親がおかわりしてたと考えると入っていた量は思ったより少なかったのか。
「いえいえ、これで十分ですよ。」
だが彼女は気にせず一口飲むと、ぱっと顔を明るくする。
言葉はないがその表情だけで満足していることは伝わってきた。
何か喋ろうとする前に手でどうぞと示しておく。
言いたいことは伝わったし、俺が作ったわけでもないので気を使う必要はない。
どちらかと言うと気にして欲しいのはその横で暴れ回っている精霊の方だ。
自分の分がなくなったと思っているのだろうが、流石に逆さまにして振れば数滴ぐらいは落ちてくる
ただ精霊が飲めるようなコップがないのでどうしようかと思っていたら勝手に水滴が浮かんでいく。
今の所食べることに関してばかり魔法を使っているところを見ている気がするんだが気のせいか?
どんどんと飲み干していく精霊を見ているが、明らかに飲んでいる量と体格が比例していない。
ということはまたマジカルなナニカで食べる量も誤魔化しているのだ。
食い意地に関しては今まで見てきた人の中で一番かもしれない。
人じゃないけど。
「おうい、また積んでくれい。」
がらがらと空になった運搬車で戻ってきた父さんが遠くからそう叫ぶ声が聞こえる。
休憩している間にしたまで運んでいてくれたようだ。
「今行く!」
「あ、手伝いは。」
そう叫び返して立ち上がるとそれに釣られて彼女も立ちあがろうとする。
しかし確か残っているコンテナはほとんどなかったはずだ。
であれば二人でそこにいくよりも別のことをしてもらった方が効率がいい。
「もうほとんどなかったので一人で大丈夫ですよ。フィルネリアさんは後片付けの方をしといてください。」
「わかりました!」
「あっ。」
そう言うと頷き、ジュースを一息に飲んで倉庫の方へ向かっていく。
慌てて跡を追って飛んでいく精霊もそういうところは性格が似ているらしい。
「真面目だなあ。」
もう少し休憩していても良かったのだが。
彼女に動かれると自分一人残っているわけにもいかないので俺まで働く羽目になる。
「行きますか...」
とぼとぼとコンテナの置いてある場所まで歩き始める。
といってもそれも同じ屋根の下にあるので数歩の距離だ。
父さんがここに着くまでそれをぼーっと待っていた。
「ほい。」
運搬車の側面をこちらに向けた父さんが窓を開けて声をかける。
「はいはい。」
ブルーシートに置かれたコンテナをよっこらしょと持ち上げる。
オレンジ一つ一つは軽くともコンテナに入る量となるとほんと信じられないぐらい重い。
わかりやすいもので言うと二リットルのペットボトル八本入りのダンボールのようなものか。
「しゃい!」
最後の一つをどしんと乗せて手をはたく。
「おっけい!」
そのまま車のケツのばしんと叩いて出発の合図を出す。
これからしばらくこういう作業が続くのかと思うと無理矢理にでもテンションを上げていかないとやってられない。
「いってらっしゃい!」




