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離島の求人に多分エルフが来てる  作者: 白崎イチイ


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10/27

十話 デザートが来た

 そろそろ腹六分目を過ぎようかという頃、母さんが新たにカゴの中から保冷バッグを取り出した。


「まさか。」


 弁当についてくる保冷バッグといえばデザートしかあり得ない。

 期待が広がる。


「そのまさかじゃ。」


 じーっとファスナーを開いて中から取り出したのは蓋が透明になっている四つの弁当箱。

 小さなそれは果物なんかを入れるのに使われるものだが、蓋から覗ける中身は単なる果物ではなさそうだ。


「ゼリーも作ってたのか!」


 平されたぷるぷるの表面はオレンジ色に輝いて美しい。

 早速受け取った夏樹に続いてフィルネリアさんも精霊をおまけにつけながら取っていく。

 まだ開けられてもいない蓋にべっとりとくっついて食い意地を見せつけていた。


「うちのオレンジをつかっちょるやつよ。」


 規格外のオレンジの大量消費といえばジャムだが、ゼリーもやはりペロリと食べられると言う意味では人気がある。

 大人から子供まで誰でも食べられるスーパーフードだ。

 

「めっちゃ懐かしいかも。」


「夏樹が好きやったきどればあ作ったか分からん。」


 一番初めに食べたのがいつかは知らないが、このゼリーは気がついた頃にはおやつの定番入りをしていた。

 この離島において普通のお菓子は値段が張る。

 わざわざ船で運んでこなければならないのだから仕方ないのだが、子供の持つお金ではその少しの差が明確に変えるお菓子の量に影響していたのだ。


 となると当然自分の家にいくらでもあるオレンジで食べ盛りのお腹を満たそうとするが、それもそのうち飽きが来る。

 流石に日に三つも四つも食べる生活を何日も続けているとオレンジ色を見るだけで口の中がその味を思い出すほどだった。

 

 そんな中でゼリーというのは本当に素晴らしいおやつで救世主に見えた。

 つるりと食べられる上に砂糖を使っているので普通に食べるよりも甘味が際立つ。

 ゼリーがおやつというよりデザートに近いことも贅沢感があり食べて幸福感が得られた。


 父さんと妹と俺と、母さん自身もよく食べていたのでコップをたくさん買って毎週毎週週末がやってきてはゼリーを仕込んでいたのだった。

 ぱくりと口の中に入れてもう一口とスプーンを動かしたところで母さんに聞かれる。


「どげんね。」


「美味しいよ。」


 あれからかなりの時が過ぎているというのに全く変わらない味がした。

 オレンジも砂糖もゼラチンも、それぞれ少しずつ変わっている部分はあるだろうにそれでもあの頃食べていた懐かしいゼリーの味だ。


「美味しいですね!」


 隣で食べる彼女も大きな声で感想を伝える。

 その目はただの消費者のそれではなく、どう作っているのかも考えながら食べているようだった。

 レジャーシートの上に置かれた弁当箱の蓋に乗せた小さなゼリーの塊は、精霊が魔法か何かで小さな小さな一口に分けて口の中へ飛び込ませる。

 ほっぺたに手を当てて喜ぶと、ばたばたと揺れて飛び回る。


「また色々作らなにゃ。ゼリーもジュースもアイスも。」


「そんなに色々あるんですね。」


 母さんの持つレシピ本はたくさんの付箋が貼られていて、あれが食べたいことが食べたいというと本を引っ張って広げては読みながら調理していた。

 ゼリーもジュースもアイスも、母さんの努力の上に成り立っていたんだなとしみじみ思う。

 自分が一人暮らしをし始めて、休日にそんなもの作ろうとはとてもじゃないが思えない。

 

 とはいえ、そんなに作らなくてももう買えるけどという言葉は飲み込んだ。

 確かにあの頃と違って別に多少高くともお店で売っているものでも買えるのだが、これはある意味で水野家の文化でもある。

 わざわざそれを壊すようなことを言う必要はない。

 まあ多少楽できるように手伝いはすべきだが。


「型とかあっちで売ってるのあるし買ってくれば良かったな。」


「ああ、そうですね。」


 今時百均に行けばゼリーもアイスも作るための型があるし、ジュースは知らないけどミキサーも使っているものよりいいのがあるはずだ。

 そこまでいくと大きな買い物になるが型ぐらいは簡単に買える。


「そげん便利なもんがあるがか。」


「言うほど便利ってわけでもないけどまあ...」


 昔はわざわざプラスチックのやっすいコップを使いまわしていた。

 それと比べればそりゃ便利ではあるけど作るの自体がすごく簡単になるわけでもなく、微妙な反応しかできない。


「それより、午後からはどうするの?」


 お昼休憩を挟んで午後からは何をやるのか。

 おおよそ午前中の続きだろうとは思うが具体的なスケジュールは任せているので先に聞いておきたかった。


「ん、何も考えちょらんかった。」


「...」


 空っぽになったゼリーの箱の蓋を閉じながら父さんがそう言う。

 一人全然会話に参加してこないなと思ったら黙々とゼリーを食べていたらしい。


「まあさっきの続きからやればえいがないか。」


「って言ってももうすぐ終わりそうだけど。」


 割と早めに昼食をとっていることもあって再開したらそこまで時間もかからず終わってしまいそうだ。

 

「終わったら今日はおしまいでえいぞ。」


「お。そりゃ楽でいい。」


 あれだけで終わるとなると途端にやる気が出る。

 やはり人間終わりが見えていることの方が気が楽になるな。


「終わったら島を回りましょうか。」


「是非そうしましょう!」


 この分だとおやつの時間ごろにはもう終わって片付けも済んでいるだろう。

 そこから回るとなると色々できそうだ。


 島を回るというのはなにもフィルネリアさんのためだけではない。

 俺も数少ないこの島に残っている友人たちに挨拶できるのでちょうど良かった。

 

「夜ご飯は何時ぐらいに...ってそうか俺が作るのか。」


 何時ごろまでに帰ろうか夜ご飯を基準に決めようと思ったがそういえば今日は俺がカレーを作るんだった。


「いつもは何時ぐらいに食べてんの?」


 とりあえずいつもの時間を基準にスケジュールを作っていく。


「六時ぐらいやないか。」


「はっや。」

 

 普通にその時間だとまだ仕事をしているんだが。

 そりゃ全体的に早寝早起きのスケジュールになるわな。


「したら五時ぐらいには帰ればいけそうか。」


「そうですね。それだけあれば余裕を持って作れると思います。」


 カレーに一時間ってのはだいぶ時間をかけ過ぎているがこれぐらい余裕を見たスケジュールで丁度いい。

 どうせ明日以降も時間があることだし、回れなかった分はまた今度いけばいいさ。


「しかしそうなるとあんま遠くに行くわけにはいかないな。」


 移動で時間を取られて肝心の観光に時間をかけられないようでは面白くない。

 近場でいい感じの場所というとどこになるだろうか。


「あ、水野さん!秘密基地はどうでしょうか!」


「そういえば行こうって言ってましたね!」


 あそこならすぐに行って帰ってこれるし、眺めのいい場所もあるから退屈しないだろう。


「まあちょっと早く帰ってくることにはなるかもしれませんけど。」


「そうなったら家でカメラの練習でもしたらいいですから。」


「それもそうですね。」


 これからは暇つぶし用の何かも用意しておかないとなと軽く頭のメモ帳に書き残した。

 秘密基地の件みたいに忘れる気がするけども、気が向いた時に買えばいいさと開き直る。


「そうと決まれば早速やっちゃいますか!」


「何を言っちょるか。のこっちょるやないか。」


 意気揚々と立ち上がったと思ったらすぐさま冷や水を浴びせられる。

 発言主の方を見るとマイペースに自分の皿におかずを乗せていた。

 ついでとばかりにおにぎりまで手に取ると再び食べ始める。

 デザートまで食べたというのに、とても老人とは思えない強靭な胃袋をお持ちのようだ。


「まだ食うのかよ。」

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