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 私が立ち尽くしていると、門の外の男の人は苛ついたような顔をした。


「動かないのか? じゃあマリア、その女が動くまで自分の首にナイフを少しずつ食い込ませろ」

「待って! 行きます!」


 私はすぐに足を踏み出した。


 ちらりとマリアさんを見る。

 首から血は流れていない。間に合った。




 よくドラマとかで、主人公がひとりで行くことで最悪な展開になる。

 こういった要求をされて、皆に気づかれないように従う主人公って、バカなんじゃないかと思っていた。


 だけど目の前でマリアさんが自分の首にナイフを向けていて。

 私は治癒魔法が使えるけれど、即死だったら駄目なんじゃないかとか。


 可能性を考えると、言うことをきく以外の選択肢が思いつかない。


 マリアさんは操られている状態だ。

 自分の意思ではないのに、首を切ってしまうかも知れない。


 親しい人を人質に選択を迫られて、はねのけられる人はそう多くないだろう。




 そのままマリアさんに誘われ、竜人自治区の門へ。

 マリアさんに呼びかけた男の人が立っている。


 中肉中背という感じで、普通に大人の男の人としか見えない。

 この人がマヒトさんか。


 彼に指示されるまま、私は竜人自治区の門を出る。




「来たか」


 呟いて、マヒトさんは近づいてきた。

 身体強化で昏倒させるべきかと考えるけれど、マリアさんはナイフを自分の首に向けたままだ。下手なことは出来ない。


 彼は私に手を伸ばし、触れられないことに眉を寄せる。

「おい、結界を解除しろ」


 今度は私が眉を寄せた。

 私に結界を解除させて何をするのか。洗脳か。


 いや、待って。すごくヤバイ。


 これは私の身の危険というよりも、状況がヤバい。

 私も怖いけれど、うん。まずい。


 だって結界を解除したら、絶対にアレが発動するよね。

 マヒトさん、私を利用してやろうという悪意を向けているよね。




 私が躊躇って沈黙していると、マヒトさんも黙ってこちらを見ていた。

 それから不意にニヤリと笑う。


「おい、マリア」

 その声にマリアさんが動いた。


 ナイフとは反対側の手で、マリアさんは亜空間から何かを取り出す。

 複雑な模様と魔宝石みたいなものがついた腕輪だ。


 素早く鑑定すると『魔力封じの腕輪』とある。

 え。これって、王妃様が言っていたみたいに、私の魔力を封じられるもの?




 マリアさんは私の手首に腕輪を通そうとする。

 でも片手なのでうまくいかない。


 懸命に私の手に腕輪をはめようとして、逆の手のナイフが首の皮を掠めた。

 マリアさんの白い首に、赤い血が流れる。


 ああ、ダメだ。

 洗脳の命令は普通の行動とは違う。

 平気で自分を傷つけてしまう。


 私は覚悟を決めて、マリアさんの持つ腕輪に手を突っ込んだ。

 王妃様の腕輪みたいに、大きかった腕輪はするすると縮み、私の手首にはまる。


 命令を遂行できたからか、ほっと息を吐いたマリアさん。


 その瞬間を狙い、私はナイフを持つマリアさんの手を叩く。

 カツンと音を立て、マリアさんが持っていたナイフが地面に落ちた。

 勢いのまま、私はマリアさんをぎゅっと抱え込む。




 すぐに私の体の中心が冷える感覚。

 冷えて、凝っていくのは魔力だろうか。


 結界はたぶん消えている。

 自分の魔力を探ろうとしても、もう感じられない。


 マヒトさんが私に手を伸ばした。

 魔力を封じられた私に、洗脳スキルを使おうとしているのだろう。


 でも私に触れることは出来なかった。

 指先が当たったのが結界だとわかった彼は、また眉を寄せる。


 こうなるだろうなとは、思っていた。


 あのソルさんが作ってくれたんだ。

 私の張った結界が消えた途端に発動するに決まっている。




 マヒトさんは苛立ったように口を開こうとして。

 髪飾りから漏れる魔力に気づいて後ろに下がる。


 私も頭上から不穏な気配を感じている。

 グレンさんの魔力だ。


 うん、そうだよねー! 発動するよね!

 あああ、怖い怖い怖い。


 私はマリアさんを抱える腕に、ぎゅっと力を入れた。

 この攻撃魔法は、きっと私には向かない。

 マリアさんを確保しておけば、私たちは大丈夫なはずだ。


 身体強化が使えなくても、いつも素材や大きな鍋を扱ってきた。

 マリアさんを押さえ込める程度には、力はある!


 そして頭の上から飛び出す攻撃魔法。

 あああっ、やっぱりーっ!




 私の頭には、グレンさんがくれた髪飾り。


 危険があれば自動で結界が作動し。

 悪意を感じると攻撃魔法が発動すると言われていた。


 私がいつものように、髪飾りも含めて自分の周囲に薄い結界を張っていれば、これは作動しない。


 でも今は、結界がない状態で悪意を向けられている。

 ソルさんが仕込んだ魔法が発動する条件にあてはまってしまった。




 凄まじい魔法攻撃が連続して放たれている。

 私の頭上から。


 怖くて目をつむったけれど、頭から何かが出ている感じはすごくする。

 髪飾りがカタカタ揺れているのは、反動だろうか。


 だよね、そうなるよね! 

 待って。髪飾りから攻撃魔法だなんて、本当に怖いんだけど。


 もっと私の安全に配慮して欲しかったと作ったソルさんに心でぼやく。

 ああもう、動けないでしょうが!




 くそっ、この! なんて声がマヒトさんから聞こえる気がする。

 攻撃魔法の音にかき消されて、明瞭な声としては聞こえない。


 身を守る魔道具でも持っているのか、悲鳴ではなさそうだ。

 でも連発される魔法に、次第に悲鳴みたいなものが漏れる。


 そうだろう。攻撃魔法を防ぐ魔道具は、きっと無尽蔵に防げるわけじゃない。

 対して私のつけている髪飾りは、グレンさんがずっと魔力を込めてきたもの。


 魔力が封じられていても、グレンさんの魔力は感じられる。

 連発される攻撃魔法に、髪飾りから魔力が尽きる気はしない。


 ひとつひとつの魔宝石に、かなりの魔力が込められていたようだ。

 番を待つ間に、何十年もの想いを込めて。




 王妃様の魔道具の腕輪は、私の魔力が封じられたときに魔力を変換して使えるようにするものだ。

 でも少し時間がかかると言われた。


 魔力変換が完了するまで攻撃魔法は止められない。

 私が自分で結界を張れるようにならないと、髪飾りの魔道具は止まらない。


 マヒトさんの悲鳴がすごいことになっているけれど、どうにも出来ない。

 攻撃魔法を受けている彼がどうなっているのか、マリアさんを抱え込んで目を閉じている私にはわからない。




「おおーっ、なんか派手に発動してるな! うん、無事に発動したな!」

 マヒトさん以外の声がしたので顔を上げたら、少し向こうにソルさんがいた。


 外から馬車で帰ってきたのか、モズさんと並んで荷馬車の御者席にいる。


 竜人自治区の門の前は、馬車が何台か並べられそうな広場だ。

 攻撃魔法が届かない位置で止まり、二人はこちらを見ている。


 喜ぶソルさんの隣で、モズさんがドン引きの顔だ。

 だよね。本当はそういう反応になるよね。




「結界魔法も攻撃魔法も順調に発動。途切れる様子はない。不審者対策、万全だな!」

 ソルさん、喜ばないで!


「ちょっとコレ本当に怖いからーっ!」

 私が叫ぶけれど、ソルさんはニコニコしている。


「大丈夫だ。つけている者を傷つけることはない。いやあ、いい攻撃魔法だ。本当にいい魔道具だ!」

 暢気に自画自賛してないでーっ!


 頭から攻撃魔法が発動されているって、傍目にどうなのか。

 ドン引きのモズさんを見れば、きっと傍目にも怖いのだろうと感じる。




「ミナ、無事か!」

 そこへグレンさんが駆けつけてくれた。

 シロさん、クロさんがその肩にいる。


 マリアさんを抱える私は情けない顔をしていたのだろう。

 髪飾りから出る攻撃魔法に頓着せず、私の肩に手を置いて無事を確認する。


 少し遅れてヘッグさん、ザイルさん。

 さらに遅れてシエルさんも駆けつけてくれた。

 他にも竜人族の人たちが来ている。


 グレンさん以外は微妙な顔で、少し離れた位置で立ち止まっている。

 まあ、うん。


 頭から攻撃魔法がすごい勢いで出ているので、彼らも戸惑っているのだろう。

 だからこの魔道具、問題なんじゃないかな!


 味方が近づくのを躊躇する状況って、どうなのか。

 しかも頭の上から! 髪のところから!




『なんや、えらい魔道具やったんやな。でも聖女はんの危険に、しっかり役立ったんなら、何よりや』

『せやねえ。けど女の人の髪につける物から攻撃魔法って、どうなんですやろ』


 そうだよね、シロさん。もっと言ってやって!

 皆には聞こえてないけど。


 ようやく魔力変換が終わったようで、私に魔法が使えそうな感覚が戻ってきた。


 慌てて自力で結界を張る。

 安全確保できたと判定されたのか、頭上の攻撃魔法がやむ。


 私はマリアさんの怪我に治癒魔法をかけると、微妙な顔で立ち尽くしているシエルさんに声をかけた。

「マリアさんが操られています! 洗脳スキルを使われたみたい!」




 すぐに駆け寄ろうとしたシエルさんだったけれど。


「うああアアアアーっ!」

 すごい声が聞こえた。


 がなるような、唸るような、お腹の底から何かを吐き出すみたいな声。

 顔を向ければ肉が崩れ、服が焦げている人型が、動いている。


 マヒトさんが生きていた。

 そしてシュウシュウと、体が再生されていく。


 え、怖い。何が起きてるの?

 治癒魔法とは違った感じだ。回復の魔道具だろうか。


 彼はホリトさんの庵から、いろんな魔道具を持ち出していた可能性が高い。

 私の腕に着けられた腕輪も、彼が作ったものではないだろう。

 大昔のハイエルフの賢者、ウロスさんが作ったのだと思う。


 魔法攻撃を防ぐ魔道具、回復の魔道具。

 そうした珍しいものをたくさん、あの庵から持ち出して使っているんだ。




 体が復活したら、彼はどうするのだろう。


「あの、シエルさん急いでください。マリアさんは彼に操られて、自分にナイフを向けたんです」

 私はマリアさんの洗脳解除を急いで欲しくて、シエルさんに話した。


「あの人の指示にマリアさんは従ってしまいます。洗脳解除する前に彼が何かを命じたら、下手したらマリアさんが自分で自分を傷つけちゃう!」


 ザイルさんとヘッグさんが、シエルさんを促す。

 大きなマヒトさんの叫びが響いて、シエルさんが焦った顔をしている。


 過去にも洗脳の解除は、一瞬ではなかった。

 解析して解除できるまで、少し時間が必要だった。


 シエルさんは何かを迷う顔をしてから、ぎゅっと口元を引き結び、マリアさんへ向かおうとした足をマヒトさんの方へ向けた。


 彼から少し離れた場所で目を閉じる。

 魔力が動いているから、何かの魔法を使おうと集中しているみたいだ。




 その魔力が、マヒトさんへ向いた。

「悠久回廊!」

 

髪飾りも悠久回廊も、このときのためのものでした。

仕込んでから今話まで長かった!

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