やらざるを得ない
森に入ると、マリグネが多く生息しているというだけあって普通の森とは雰囲気が違うのを肌で感じた。
生えている木々や下草は普通の森と大差ないはずなのに、肌を刺すようなピリピリとした雰囲気が伝わってくる。
「探知系の魔法がないのに、どうやってマリグネを見つけますの?」
「大火力がある、チームなら、手当たり次第に魔法を放つ、手もあるけど、リスクが大きい」
女子二人組が懸念を示すけど、それくらいは織り込み済みだ。
「アプフェルとツィトローネの不安は尤もだけど、山や森なら慣れてるし、やりようはあると思う」
僕は地面に屈みこみ、注意深く地面を観察した。
「なにをやっているんだい?」
ローデリヒも同じように身を低くし、興味深そうに聞いてくる。
僕は木の根の隙間や、落ち葉の影などを重点的に探す。
五分ほどで、手掛かりは見つかった。
「なんですの、それは?」
アプフェルが指さしたのは、黒光りする小石をつないでくっつけたような形の物体だ。
「イノシシの糞だ」
僕の返答にアプフェルはあからさまに眉をしかめた。
「汚いですわね。そんなものでなにがわかりますの」
僕は糞の艶や暖かさ、蠅がまだ集っていない様子などから判断をつけた。
「まだ新しい。ひょっとしたらマリグネかもしれないから、この周囲を探してみよう」
それからさらに周囲を探索すると、木の根を掘り返したような跡もあった。マリグネも食事をするし、マリグネと化す前と同じものも食べる。イノシシはよく木の根を食べるから、この付近にいるはずだ。
「よくわかりますわね」
アプフェルが感心したように声を上げた。
「僕も狩りはするけれど、ここまで詳細に把握したことはないね」
「まあ、大貴族は狩りをするときに、こういうことは全部獲物を追い出す勢子に任せちゃうからね。僕は一人で山に入って、一人で獣から身を守らないといけなかったから……」
僕は自嘲気味に答えたけど、ツィトローネはそう受け取らなかったらしく、小柄な体で僕を輝くような視線で見上げていた。
「何でも、一人で、やっちゃうタイプ? 人任せにしない、その姿勢は、いいと思う」
「やっちゃうんじゃなくて、やらざるを得なかった、って感じかな」
僕はツィトローネの視線に気恥ずかしくなって、ぶっきらぼうに答えた。




