パーティー
閉会式の後は、学園の講堂を使ってのパーティーとなった。
パーティーは毎年体育魔法祭の後に開かれ、学園生とその父兄や卒業生、後援者のみが招待される。
講堂には白い清潔なリンネルをかけた長机、その上に並べられた色とりどりの豪勢な料理。中央にはダンスができるスペースが設けられていた。
チェロやフルートを手にした音楽隊の演奏が会場の空気を昼とは別物に変え、ジランド―ルに据えられた蝋燭の光が幻想的な陰影を創りだしている。
昼とは違って、学園生も大人と同じタキシードやドレスに身を包んでいる。
壇上に学園長が立っての挨拶の最中も、開始を今か今かと待ちわびている様子だ。
「皆さま、本日はお忙しい仲体育魔法祭の後のパーティーにまで参加いただき誠にありがとうございます。ささやかではありますが料理や音楽を用意させていただきましたので、お楽しみください」
ごく簡単な挨拶が締めくくられると共に、ダンス用の音楽が奏でられ始めた。
気が早い男子はお目当ての女子に早速ダンスを申し込み、女子はそれを受け入れて共に踊り始める。
音楽に合わせて軽やかにステップを踏み、時に激しく、時に静かに舞う。
音楽の区切りと共に一礼してまた新たなパートナーを探し、ダンスに憑かれると料理やおしゃべりを楽しむ。
それが青春。それがリア充。
僕はどちらにも縁がないので会場の隅で料理をちびちびと食べながらダンスを見学し、会場の会話に耳を傾けていた。
父兄や卒業生、後援会のお歴々は今日の体育魔法祭のことを話題に出し、子息の魔法の凄さを褒め合う一方、ビジネスや進路、政治のことについても話題を広げていた。
その内容の大部分は当たり障りのないものだったが、時折お歴々の方々の目が鋭く光るのがわかった。
父上もよく言っていた。
パーティーはコネクション作りの場。
人との会話から敵と味方を見極める場。
相手の力量を量り、自分の力量を量られる場。
商売人や政治家にとっては、パーティー会場もまた戦場の一つ。
この席でろくに会話に加われない僕は、商売人としては落伍者なのかもしれない。
会場の中央で歓談しているアプフェルに目を向けた。
普段の彼女とは違って髪をアップにまとめ、大胆に肩を出した赤を基調にした蠱惑的なドレスを身に纏っている。繻子織りの生地が蝋燭の明かりを、凪いだ水面の様に照らし返す。
けれど決して売春婦の様なけばけばしさはなく、彼女が着ることでむしろ清楚な感じさえした。
間断なく雪の様な白ひげを蓄えた老人や、同じ学園生、さらには学園生の兄弟と思われる小さな子供とまでそつなく挨拶をこなすアプフェル。普段の居丈高な様子はなく、侯爵令嬢としての気品と教育がうかがえる。
ダンスの申し込みは途切れることない。
ダンスを申し込まれて、踊り、華麗なステップ。リードしているはずの男が逆にリードされているかのように見える完璧な身のこなし。
こうして見ていると、彼女が僕と違う世界の住人だということを認識させられる。
僕は相変わらずダンスを申し込むことも申し込まれることもなく、ちびちびと料理を食べながらパーティーの様子をぼーっと眺めていた。
「イェーガ―侯爵、是非一曲」
鍛え抜かれた逆三角形の肉体をタキシードで包んだローデリヒが、アプフェルを誘うため手を差し出す。
「喜んで」
アプフェルは恭しく頷いてローデリヒの手をとった。
曲目が力強いものに変わり、ダンスが始まる。
二人とも家柄も知名度は抜群だし、ローデリヒとアプフェルが踊るのを見た演奏隊の人が彼らに最適な曲に変えたのだろう。
ローデリヒが力強くステップを踏み出し、アプフェルがそれに応える。
片方が一歩踏み出せば片方は一歩引く。ローデリヒが白手袋に包まれた手でアプフェルの華奢な背中を力強く引きよせ、二人の体が密着するたびに会場からは黄色い声援がわき上がる。
お互いがお互いを高め合っているかのような、長年連れ添った鳥のつがいのような。息の合った完璧なダンス。
やがて指揮者が力強く指揮棒を振り上げ、シンバルが雷鳴をとどろかせると曲が終わり、彼らのダンスも終わる。
オペラが終わった後のような静寂が、会場を包んだ。
周りで踊っていた学園生たちまでも、ダンスを止めて見惚れていたことに気がついた。
でも僕はアプフェルやローデリヒの魔法を見た時の様な感情は湧いて来ず、彼らを見ている間ずっと胸がざわざわしていた。




