子供
満月の日が来た。
つまり、僕のジェムの登録の日だ。
僕は教会の奥へと案内された。
普段は入ることのない場所だ。
そこには神の像が置いてあった。
あの二人。いわゆるご神体ってやつか。
アダム先生が何の濁りもない、透明のジェムを台の上に置いた。
「じゃあ、登録しますよ。少し血をもらいます」
「えっ、痛いの?……聞いてない」
「ちょっとちくっとするだけです」
採血みたいなこと言ってる。
ちょっとか…、それなら、まぁ。
僕は覚悟を決めて、先生に手を差し出した。
銀のナイフが指先に触れる。
ちくり、と小さな痛み。
ほんの少し血が滲んだ。
アダム先生は、その血を透明なジェムに垂らす。
すると、ジェムの中を、淡い光が走った。
「……」
先生がじっと見つめる。
何か疑うような目。何だ。
やがて光が消えると、透明だった石に、ごく薄い色が浮かんだ。
「これで登録は終わりです…、普通ですね。
君はこの世界の人ではないので、何かあるかと思いましたが」
先生がジェムを僕に渡す。
「今日から、それがエイジくんの身分証になります」
僕は手の中のジェムを見る。
思っていたより綺麗だ。
「これ、どうやって身に着けるんです?」
「ペンダントでも、ベルトでも。好きなところに」
その時だった。急に扉が大きな音を立てて慌ただしく開く。
「あなた…、ごめんなさい、ちょっといい?」
飛び込んできたのはアダム先生の奥さんだった。
顔色も悪い。
「緊急のようですね」
先生はすぐに立ち上がった。
「少し外します」
「登録は終わりでしょ?僕も行くよ」
気になる。
邪魔かもしれないけど、先生は何も言わなかったし、僕も着いていことにした。
僕は先生と共に教会を出て、例の離れへ向かった。
中から、何かを押し殺すような声が聞こえた。
「先生……」
そこにいたのは、この前見た中学生くらいの子。
「痛い、痛いよぉ……」
そう言いながら、子供は顔を搔きむしっていた。
男の子が床にうずくまっている。
「パパ……助けて」
小さな身体を震わせながら、自分の顔を掻きむしっていた。
その手を、母親が必死に押さえている。
「やめて……お願いだから……」
奥さんの声が震えていた。
僕は、その光景を見て――思い出した。
あの日、教会で見た女性。
肌を痛がって、太陽を恐れて、
そして、アダム先生に殺された。
月狂いの病。
僕はそれを見て、神の掟を思い出したんだ。
「……先生、殺さないと罪ですよ」
自分でも、酷いことを言っていると思った。
でも、この世界ではそういう決まりだ。
先生自身が、そう教えてくれた。
月狂いの病に侵された人間は――殺すことで善行になる。
「神よ……」
先生、神に祈っても仕方ないよ?
だってこの掟を決めたのが、そいつだろ。
「先生、僕がやろうか?」
僕は警察官だ。悪人を裁くのは慣れている。
先生は、しばらく何も言わなかった。
やがて、震える手で腰の剣を抜く。
そして、釘と一緒に僕へ差し出した。
「……すまない」
その声は、今まで聞いたことがないほど弱かった。
剣を受け取る。
ずしりと重い。
と言って、剣と釘を渡してきた。
先生の子供を殺す僕は悪人?
月狂いの病人は悪人?
それともそれを殺せない先生が悪人?
この国では、善い行いをすればジェムの色が濃くなる。
悪いことをすれば、濁る。
「ねぇ、神様」
僕は、二体の神像がある教会の方を見る。
「ジェムは、どう判断する?」
この国の神が――
何を善として、何を悪とするのか。
「……僕が、それを証明してみせようか」




