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崩壊

一度、月狂いの人間を殺すところは見ていた。


それに、相手は病人で、まだ子供だ。

抵抗することもなく、剣に貫かれ、最後まで僕に身を委ねていた。


やがて、その身体が灰になっていく。


その様子を見つめながら、先生は小さく呟いた。

灰になっていくその体を見て、先生は呟く。


「ありがとう……」


感謝?マジで?僕はあんたの子供を殺したんだぞ。


「先生、大丈夫?」


先生は返事をせず、大きく息を吸った。


「この国では、……よくあることだ。

 リサ、今日はもう休みなさい。私は教会に戻る」

「……はい」


僕のジェムは透明なままだ。



 * * *



先生と二人で、気分転換をしようと外を歩く。

あの子の死体からは、骨も残らなかった

埋葬するものも、何もない。


あの子がこの世界に存在したことを証明するものは、何もない。


その日の授業はお休みになった。

さすがに先生も、精神的に参ってしまったのだろう。


僕はそのまま夜になっても、ずっと先生の側にいた。

何を話せばいいのか分からない。

それでも、何か言わなければいけない気がした。


「……僕の父も、僕が先生の子供と、同じくらいの年だったかな。

 ……死んだんだ。仕事でね」


先生は黙っている。


「犯人……、悪人に、撃たれて、死んだ。

 父は、正義の人だったのに」


僕は少しだけ俯いた。


「僕は人が死んだらタンパク質の塊になるだけって思ってたんだけど、

 でも、この世界に来て……人には魂があって、生まれ変わるのかもしれないって思うようになった。


 もしかして、父さんともまた会えるのかも、とか」


そのときだった。


「あれ……?」


胸元に下げたジェムが、突然、淡い光を放った。

僕は思わず足を止める。

隣にいた先生も、目を見開いた。


「……金」

「え?」


「昼間は透明だったはずです。

 目もだ。目も色が変わってる。

 

 見間違いかと思ったが、間違いない。君が月の神の魂だ。

 月の光に反応して、色が変わるのか」


先生の声が震える。


「試したのか!?」


先生が僕の肩を掴む。痛い。


「先生?」

「私を……試したのか!? 正しいことが出来るのか、その目を通して、ずっと見ていたのか!!」


先生の目には、怒りなのか悲しみなのか分からない感情が浮かんでいた。


「……先生」

「……」

「僕、城に行って、あのフードの人たちに何か言った方がいい?」


先生の手が止まる。


「それとも……僕は、もう出て行った方がいい?」

「そ、それは……」


先生は言葉を失った。


長い沈黙。

やがて、先生はゆっくりと僕の肩から手を離した。


「私は……、ずっと神の力に疑問を抱いていた。

 なぜ私が月狂いを殺さなければならない。

 みんなが教会を頼るんだ。月狂いが出ました、殺してください、お願いします、と。


 私は、それを何度繰り返してきたと思う?

 殺すのは、誰にだって出来る。道具があれば」


今日エイジくんがやったようにね、と先生は言った。


「この世界の人間は、魂の重さが違うと言ったね」


先生が僕を見る。


「君を召喚するのに、どれだけの魂が生贄になったと思う?

 異界の人の魂は重いんだ。それに比べたら、私の魂はちっぽけなものさ。


 明日消えても、誰も、何も思わない。

 騎士団が代わりの人間を教会に送るだけ」


その言葉が、妙に冷たく聞こえた。


「こんな世界、壊れてしまえばいいのに……」


先生の言葉に、僕は驚いた。

少なくとも国に従順で、敬虔な人だと思っていたから。


「なら、手伝うよ」


僕が神なら、まずは身近な人から救おうか。


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