満月
その日は満月の夜だった。
満月の夜は月の力が強すぎる。
普段なら月狂いにならないような人間でも、簡単に発症してしまうらしい。
だから、教会では月の光が入らないよう、すべてのカーテンを閉めていた。
部屋の中は薄暗い。
灯りをつけていても、どこか息苦しく、不気味な夜だった。
コン、コン。
教会の扉がノックされ、人が入ってくる。
「……すみません」
黒いフードの男だった。
あれに似てるな、騎士団の、一番偉そうだったやつ。
「橋が壊れて帰れなくなってしまいました。
一晩、泊めていただいてもよろしいでしょうか」
それは僕が判断してもいいものか。
先生に聞くべきか迷ったが、今日は離れに行くのもよした方が良いだろう。
「どうぞ、入って」
空き部屋はどこにあっただろうか。
あぁ、一体どうしたらいいのやら。
考えるのも面倒になって、とりあえず僕は男を自分の部屋へ案内した。
僕は先生のところにでも行こうか。
だって子供がいなくなったんだ。
部屋が一つ、空いてるはず―――。
「ありがとう、助かります。神に感謝を」
そう言って男はフードを外す。
透き通るような白い肌に、深い琥珀のような色の細い髪。
目と同じ色の瞳も茶色、宝石のようだ。
(美、人……)
あまりにも美しい……、この世界に来て、今一番ファンタジーを感じている。
この男の美しさを形容する言葉を、僕は持ち合わせていない。
僕は驚いて、変なことを言う。
「アンタ、顔が良すぎる。びっくりした!
フードで隠しておいた方が良い」
「ふふっ、よく言われます」
よく言われるのかよ!
思わず突っ込んでしまった。
男は花を綻ばせたかのように笑う。
やばい、顔が熱い。この男を見ていると、頭がおかしくなりそうだ。
そういう魔力が、この男にある。
「私はミカエラ」
男は微笑んだ。
「初めまして――、月の神」
心臓が、一瞬だけ止まった気がした。
いや、でもそうか。夜には確か、僕の目は金色になるんだったか。
鏡を見る。確かに金色だった。
そしてジェムも淡い光を放つ。
「ずっと探していました。
先日、ジェムを登録しましたね?
ジェムを管理しているのは騎士団ですよ」
あぁ、やっぱり騎士団の人間か。
先生、僕の企みはもう終わりました。
どうやらジェムを通して、僕のことは騎士団に筒抜けみたいです。
「いや、でも、どうだろ? 僕には分からない。
あの、ジェムも透明だったし」
「そう?」
先生との計画のためにも、今は知らないふりをしておいたほうがいい。
すると、ミカエラは突然、カーテンを大きく開いた。
「わっ!」
窓まで開けられる。
冷たい夜風が吹き込んできた。
「ちょ、何を……」
ミカエラは僕の肩を掴み、そのまま窓辺まで連れていく。
「ほら」
満月が、真正面に見えた。
「証拠を見せよう。君はこんなことしても、月狂いにはならない」




