家族
その日の夜は、なんとなく寝付けなくて、初めて外を散歩してみたんだ。
まぁ正直言うと怖くてね。初日にあんなもんを見ちゃったし。
それでも、一週間もここで暮らしていると、少しは慣れてくるものだ。
満月には、まだ少し足りない。
それでも、以前よりずっと大きく見えた。
「月の神様とやらに、挨拶でもしてみるか」
そんなことを考えながら歩いていると――。
「…エイジくん、どうしましたか?」
後ろから声をかけられる。
手にはランプ、見回りをしていたらしい先生だ。
「あ、いや……ちょっと眠れなくて」
そう答えると、先生は僕の顔を見た。
そのまま、じっと僕の目を見る。
「…………」
そして、ふと足を止めた。
「……目、そんな色でしたか?」
「え?」
思わず聞き返す。
色……?
自分の目に何かついているのかと思って、手で目元を擦ってみる。
「何か変ですか?」
「いや……」
先生は答えず、もう一度僕の顔を見る。
困惑したような、それでいて何かを警戒しているような、渋い顔だった。
「……気のせいでしょう」
そう呟くと、先生は空を見上げた。
「夜歩きは危ないですよ。送ります」
先生が僕の手を取る。
おててつないで、って年ではない。
「あぁ、ごめんなさい。子ども扱いしてしまったか」
先生がすぐに手を離す。
「先生って子供いるの?」
なんとなく聞いてみる。僕はそういえばこの人のことを何も知らない。
「はい、妻と、子供が二人。紹介してませんでしたね。
私はそこの離れで暮らしてます。紹介しますよ、付いてきてください」
「……こんな時間にお邪魔して怒られない?」
「もちろん」
なんと、既婚者だったのか。
「戻ったよ」
離れの扉を開けると、玄関に明かりが灯り、中から女性が出てきた。
「おかえりなさい。あら、この方が新しい……」
「そう、私の新しい生徒だ。ね、エイジくん」
「どうも、お世話になってます」
どうも、召喚失敗作です、なんて小粋なジョークで場を和ませてもよかったが、やめておいた。
先生の奥さんは、きちんとした服装の、小奇麗な人だった。昼間は町で働いているらしい。
子供は二人。もう寝てたけど、結構大きくてびっくりした。
小学生と中学生くらいか、二人によく似た容貌をしていた。
家の中には、温かい家族の生活の匂いがあった。
その日は、先生の離れに泊めてもらうことになった。
久しぶりに、誰かのいる家で眠った。
その夜は、実家のことを思い出して、少し、泣いた。




