病
騎士団があるのは、城の中の一角だったらしい。
城を抜けると、そのまま城下町へ出た。
賑わいを見せる町並みは、思っていたよりもずっと普通だった。
石造りの建物が並び、道には人が行き交っている。
露店からは食べ物の匂いが漂い、子供たちが走り回っている。
そうだな、映画なんかでよく見る、中世ヨーロッパをベースにした世界。
そう思ってもらえれば、大体合っている。
石畳の街並みをしばらく歩くと、町の外れに小さな教会があった。
礼拝堂があり、その奥にはおそらく神父たちが暮らしている居住スペース。
そして、今回案内されたのは、そのさらに奥にある小さな部屋だった。
寺子屋、とでも言えばいいのだろうか。
中には子供たちが数人いて、ちょうど授業の最中だった。
「先生にご用ですかー?」
「先生、これ誰ー?」
「静かにしなさい」
先生に叱られても、子供たちはどこか楽しそうだ。
教壇に立っていた男は、少し神経質そうな顔をしていた。
ただ、子供たちの様子を見る限り、嫌われているわけではないらしい。
「アダム神父、よろしいですか?」
「あぁ、はい」
アダムと呼ばれた男は、少し猫背気味の陰鬱そうな男だった。
黒い髪に青白い肌、身長は180くらいありそうだが、その猫背のために僕と同じくらいの背丈に見える。
年は30~40といったところだろうか。
アダム神父とフードの男は二言三言交わして、それからフードの男は城へ帰っていった。
見送りのために僕もなんとなく後を追いかける。
その時、突然教会の扉が開いて、年配の女性が入ってきたんだ。
「神父様……、大変です。お助けください……」
女性は震える手で、自分の顔に触れた。
「肌が……太陽が痛くて……」
そう言って女性は顔をかきむしると、肌がぽろぽろとはがれだす。
「私はもう助からないのですか?助けて……、助けてください……。
痛い……肌が痛い、太陽が、太陽が痛いのです……」
また、顔を掻く。顔からさらに皮膚が剥がれ落ちていく。
やがて、その下から骨が覗いた。
僕は思わず息を呑んだ。
……いや。
僕は一応元、警察官だからね。
死体なら、それなりに見慣れている。
目の前の彼女だって、生きている人間というよりは、もうゾンビか何かに近い。
そう考えれば……まあ、なんとかなる。
僕は冷静さを保つことに成功した。
「えぇ、あなたに許しを与えましょう」
アダム神父が腰に差していた剣を抜き、女性の胸へ突き立てる。
そして、倒れた女性の目に――釘を打ち込んだ。
一切の迷いがない。
あまりにも手際がいい。
「いきなり、驚かせてしまいましたね」
ほんとにね!そう叫びたい気持ちをぐっと抑える。
返り血をあびたアダム神父が振り返る。
「この国はずっと、月狂いの病に侵されています。
その病を治すには、消えてしまった月の神の魂を呼び戻すしかない、
と教会の人間は皆信じています」
アダム神父はじっとこっちを見る。
「……でも、また、召喚は失敗したようですね」
目に釘を刺された死体は、灰になって消えた。




