教会
さて、じゃあ今度こそ僕の話をしよう。
「よくある転生モノってやつだ!」
「ファンタジーの世界に来たのかぁ」
「これは生前プレイしていたゲームの世界!?」
……なんてことを考えた人もいるかもしれない。
でも、僕の場合は少し違う。
なぜなら、僕が生前暮らしていたのはアメリカだからだ。
向こうでは、まぁ……そういうジャンルは日本ほど流行っていなかった。
だから正直、どう反応したらいいか分からない。
もちろん、僕だって日本人だから、そういう作品を知らないわけじゃない。
むしろ、祖国の文化にはそれなりに詳しい方だと思う。
僕の祖父がアメリカ人でね、軍人だった。
日本にある米軍基地で働いていて、そこで現地の女性――つまり、僕の祖母と出会った。
そのまま日本で家庭を持った、というわけだ。
僕の父は日本で働いていた。
だけどあの事件がきっかけで、父は日本に居づらくなった。
僕と母は祖父を頼り、アメリカへ渡った。
それから僕は、アメリカで暮らしていた。
僕の名前は、赤星英二。
どこにでもいそうな、平均的な見た目をした二十五歳の成人男性だ。
* * *
一人の白いローブの男に連れられて、僕は儀式の部屋を出た。
どうやら、さっきまでいた怪しげな部屋は、騎士団が使っている施設の一室だったらしい。
廊下には鎧を着た人たちが歩いている。
僕にこの世界の文字は読めないみたいだけど、
壁に描かれた紋章や飾られている絵を見れば、なんとなく何を表しているのかはわかる。
「言葉は、わかるんだな……」
この世界ではそういうものなのか。
そんなことを考えていると、隣を歩いていた白いローブの男が、フードを外した。
そこから現れたのは、少しくたびれた感じの、どこにでもいそうな普通の男だった。
さっきまで怪しげな儀式をしていた人物とは、とても思えない。
「あなたは教会で保護してもらいます」
男は淡々と説明を始めた。
「これは、あなたへの支度金です。それと、教会には別途、寄付金を渡します」
そう言って、袋を差し出してくる。
受け取ってみると、ずしりと重かった。
「何か月かは、働かずとも暮らしていけるでしょう。
ですが、このお金が尽きる前に職を探してください。
そして、この地に根付いた生活をすることです」
……ずいぶんと手厚い。
「さっき、召喚とか言ってただろ?」
「はい」
「元の世界に戻る方法は?」
男の足が、一瞬だけ止まった。
そして、申し訳なさそうに僕を見る。
「……わたくしたちに出来るのは、魂の召喚だけです」
「魂の……召喚?」
「ええ」
男は少し言葉を選ぶようにして続けた。
「あなたの肉体は、もうどこにもありません」
「…………」
「ここに再構成された肉体がある。それだけです」
「なるほど」
つまり、僕は死んだらしい。
「…………」
僕は自分の手を見る。
ここは死後の世界ってことか?
いや、仕事が忙しすぎて、僕はついにイかれちまったのか。
でも、なんとなく直前の記憶がある。僕は撃たれ、銃弾に倒れた。
そのまま病院のベッドの上で、長い夢を見ている。
そんな可能性だってゼロじゃない。
「では、教会まで案内します」
男が再び歩き出す。
「ついてきてください」
もしかして。
僕の「想い」が、この世界に僕を導いたんじゃないだろうか。
もし、僕が呼ばれたことに何か意味があるのだとしたら。
そして。
もし、この世界が僕の「想い」に応えたものだとしたら。
「……父さんか?」
父さんも、この世界で生きてたりするんだろうか。
そんな、ありえないような考えが。
なぜか、頭から離れなかった。




