殺す気のお色気枠
うおっ、と唸ると、虎のように身をかがめた三津島クロエが薄く笑った。
「ほらほら、こんなのはまだ序の口だよ。零宮、ちゃんと反応してね――」
言うが早いか、三津島クロエは摩擦熱で煙が出そうな程の勢いで爪先を回転させて腰を捻り、回し蹴りで俺の顔面を狙った。
思わず尻もちをつく無様だけはなんとか回避したけれど、自分のすぐ目の前、ほんの十センチ程度のところで止まった足の甲を見て、俺は頭から血の気が引く音を聞いた。
ニヤリ。再び、圧倒的強者の余裕を持って三津島クロエが笑い、足を降ろした。
「ふふっ、零宮の顔、凄い顔になってる。見て見て零宮、I字バランス」
そう言って三津島クロエはその長い右足をこれまた長い手で掴み、天に向かって掲げて見せた。
わかってはいたけれど、本当にこの人、手足が長い。
そしてそれ以上に、その肢体は途轍もなく豊満で柔軟なんだな――。
そう思うと、何だか場違いに心臓がドキドキし始めて、集中力が乱れた。
そんな場合じゃないだろ、と思わずかぶりを振って雑念を振り払おうとしたけれど、理由のわからないドキドキは更に加速するばかりだ。
「うーん、やっぱりこれじゃあ弱いものイジメになっちゃうなぁ……てことで零宮」
「おっ、おう……?」
「今度は零宮が襲いかかってきてよ。私、抵抗しないから」
抵抗しないから……この人がいうと何だかいかがわしいとしか思えない一言に聞こえた。
そう宣言したのと同時に、三津島クロエはだらんと手足の力を抜いて立った。
「お、襲いかかる、って……すまん、俺、そんなことのやり方さえわかんないんだけど……」
「なぁにを言ってるの、それでも男か。要するに私にむしゃぶりついてくればいいのよ」
そう言って三津島クロエは道着の裾を両手でぐいっと広げ、サラシが巻かれた胸を俺に向かって放り出した。
サラシで厳重に潰されているにしても潰しきれず、そこにはまだ常人を遥かに凌ぐ膨らみがある上、しかもうっすらと汗ばんでムレムレだ。
予想外の挙動に、うぐっ!? とうめき声を上げて顔を背けると、三津島クロエが雰囲気でニヤニヤしたのがわかった。
「ほらほら、零宮が好きなおっぱいでちゅよ~? このおっぱいを好き放題にするつもりで襲いかかってくるの。要するに私を押し倒そうとすればいい、できるっしょ?」
「ち、ちくしょう、完全にナメられてるのがわかっていくらなんでもちょっと悔しいぞ……! クロエ、そういうことなら本気で行くぞ! あんまり男の子の力をナメてると痛い目見るかもしれないんだからな!」
「へへ、やってみなよ」
ヤバッ、カッコイイ――!
ニヤ、と壮絶に挑戦的に、そして壮絶に妖艶に微笑まれて、性懲りもなくまた心臓がドキドキし始め、顔が熱くなってきた。
クソッ、俺の心臓は一体どうしちまったんだ――と思いながらも、俺はとりあえず両手を前に突き出し、何があってもその逸物を揉みしだいてやるぞという気迫と欲望とを満身に込め、ウオオオオオー!! という冴えない雄叫びを上げて三津島クロエに殺到した。
無論のこと、その俺の何の策も芸もない突進など、三津島クロエには足にじゃれついてきた猫よりも無力で無害なものだったに違いない。
ぱしっ、と、その国宝級ウルトラバストを掴むはずだった俺の腕が鮮やかに取られた後、視界がぐるりと回転し、一瞬、俺の足は重力を感じなくなった。
鮮やかに過ぎる一本背負い――受け身も何も取れずに俺は畳に叩きつけられ、ぐへぇ、と潰れた肺から情けない声とともに空気が漏れた。
「ふふっ、じゃあそろそろ、トドメ刺しちゃお――」
完全に俺をオモチャにして遊んでいる声を発しながら、三津島クロエが倒れた俺の首筋に腕を回し、俺の右腕を掴んで床に倒れ込み、いわゆるところの袈裟固めを仕掛けてきた。
途端に、上半身全ての可動域が限界を超えて伸ばされたことで、血流と呼吸を阻害されたことで、そして何よりも――俺の目の前に三津島クロエの巨大な乳が無礼にも放り出されたことで、血圧が急上昇し、目が血走ってこめかみの血管が脈動した。
「うおっ、うおおお……! ぐぇ……! だっ、ダメダメ!! クロエ、これはアカンアカン!! むっ、無理無理無理無理!!」
「ほらほら零宮、死ぬ気で逃げないとどんどん苦しくなってくよ――」
俺の制止を無視し、三津島クロエは俺の首筋を絞め上げる力を更に強くした。
当然、俺と三津島クロエはますます緊密に密着することになり、あまりのいい匂いと生暖かい体温、すぐ目の前でブルンブルン揺れまくる乳によって、本気で気が狂いそうになった。
「ああっ、あああーっ! ダメダメ!! ダメだって!! ぐ……う、うおお、くっ、苦しいのに嬉しッ……!! ダメだって俺には刺激が強すぎる!! 死ぬ死ぬ! 死ぬぅーっ!!」
「何を情けない声上げてんの。死なない程度には加減してあげてるでしょ?」
「いやむしろ殺す気か!! 殺す気だろうが!! や、ヤバッ、あ、あったかくて死ぬ! いい匂いするし柔らかいしおっきいし死ぬ! ぎっ、ギブギブ!! ギブアーップ!!」
とうとう俺は絶叫しながら畳を叩き、ギブアップを宣言した。
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