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慰められるお色気枠

 はい……? と俺がフルスロットルでまごつくと、三津島クロエは続けた。




「だってこんなこと、アンタにしか頼めないから。理由は知らないけど、アンタは私と八百原のこと、全部知ってるっぽいし。それに私がフラれたところも見てた。私だって壁に向かって話すよりかは嘆き甲斐(がい)があるじゃん?」

「……随分()しざまな(たと)えしてくれるな。俺は壁代わりか?」

「でも、あんな鈍感男よりずっといい壁じゃないの。私にハンカチくれたし、アツい言葉で慰めてくれたし、胸も貸してくれたしさ」




 まだ言われていることの意味がよくわからない俺に、三津島クロエは続けた。




「だから、アンタは今日から私とここでご飯食べるの。ぶっちゃけ慰めてくれなくても、私の愚痴をただ聞いて、ウンウンって頷いててくれればそれでいいからさ」

「……いやらしい話だけれど、それの対価は?」




 俺がついつい問うてしまうと、三津島クロエは傍らに置いてあったままの弁当を取り上げ、爪楊枝が刺さったミートボールを摘み上げ、俺の目の前でくるくると回した。




「対価は私の手作り弁当、でどう? アンタ、やたらと気に入ってくれたじゃん? なんでも好きなおかず入れたげるよ」




 ぐっ……と唸り声を上げて悩む態度を見せながらも、俺はもう半分落ちかかっている自分を自覚していた。


 如何に俺がストーリーに絡まないモブとは言え、メインストーリーである八百原那由太と三津島クロエの恋愛に関しては既に決着しているし、俺が多少でしゃばったぐらいで今後のストーリーに大きな変化はないだろう。


 俺のような存在感の薄い三文モブが、こんな輝かんばかりの魅力を持った人とお近づきになっていいのか、という疑問はあるにはあるけれど、もとよりこの世界は俺が大好きだったあのラブコメ漫画の世界で、今目の前にいるのはそのメインヒロインのうちの一人だ。




 それに――と、俺はちょっと、興味が湧いてしまってもいた。


 大胆で、タフで、奔放な人なのだとばかり思っていたあの三津島クロエが、フラれて予想外なほどに大ダメージを負っていたり、弁当を手作りしていたり、失恋を引きずって未練タラタラだったり……。


 それは原作を読んでいるだけでは決して見えなかった一面ばかりで、俺の方ももう少しだけ、この人と深く付き合ってみたいと思ってしまっていたのである。




 ほら? と、回答を促すかのように、ミートボールが眼前で揺れた。


 俺は覚悟を決め、そのミートボールにばっくりと齧りついた。




「おっ。ということは契約成立、ってことでいいよね?」

「あぁ、俺みたいな壁がお役に立てるなら喜んで。……あぁ美味い、美味いなぁ、肉ってこんな味するんだな……」

「あはは、むっちゃ感動してくれるじゃん。言っとくけどそれ、冷凍食品だからね?」

「病院で出されるクソ不味い粥よりかは手間暇かかってるさ」

「よーし、じゃあ早速、LINE交換しようよ零宮! それならいつでも連絡取れるでしょ!? ほらスマホ出して!」

「え、ら、LINE……!? アレって家族以外の人とも連絡先交換できるのか!?」

「えっ、えぇ? そんなの当たり前じゃん。……零宮、アンタまさか友達とLINE交換したことないの? うわ可哀想ッ……!」

「やっ、やめろよ、そんな目で人を見るな……!」




 兎にも角にも、俺はその日、ラブコメ漫画『シュレディンガーの恋』のメインヒロインの一人であった三津島クロエと、曲がりなりにも「友達」になったのである。




 それも、三津島クロエが一方的に俺に愚痴を言い、ウジウジと落ち込むのを、俺が手作り弁当を報酬に慰めるという、なんだか珍妙な「友達」に。




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