テレまくるお色気枠
「な――何よ突然。零宮、何を想像してるの?」
戸惑った様子の三津島クロエの白い頬が紅潮した。
ああ、やっぱりこの人ただでさえ可愛いのに、照れると更に可愛いなぁ。
いずれ俺たちがそういう関係になったら、毎日だってこの人のこんな顔が見られるのか。
それは――なんとも幸せなことじゃないか。
俺は何だか途轍もなく深い満足を覚えながら、ぼんやりと続きを口にした。
「俺、今初めてわかった。未来のこと、将来のことを想像するって、楽しい場合もあるんだな。病気だったときは未来なんて考えるだけで怖くて怖くて仕方なかったけど――うん。お前がその想像の中にいるなら、全然怖くないな」
「ぜっ、零宮、急にどうしちゃったの……!?」
「お前とさ、将来恋人とか夫婦になったら、毎日楽しいだろうな。一緒に映画見たり、旅行したり、美味しいもの食べたりしてさ。毎日笑ったり、泣いたり、今みたいに鼻血出したり……」
俺は人生で一度も感じたことがない、清々しいような気持ちを感じて、夢中で口を動かした。
「すげー幸せになってるんだよ、未来の俺たち。明日のことなんか何ひとつ心配することなんかなくて、明日もまた楽しい、今日よりももっともっと楽しいんだろうな、って、毎日思える。それって凄く幸せなことじゃないか。毎日毎日、明日死んじゃうかもしれない、寝たらもう二度と目覚めないのかもしれない、なんて、そんなこと考えて怯えなくていいんだ。いや、たとえ明日死んじゃうとしても、最後までお前が隣りにいてくれたんだって思えたなら、うん――なんか、それでもいいな」
なんだろう、今まで一瞬たりとも考えたことがなかった、この胸が弾むような気持ちは。
その感動の正体を考えて――ふと、俺は莫大な悟りを得たような気持ちで、隣にいる三津島クロエに視線を戻した。
三津島クロエは、突如豹変してしまったかのようにわけのわからないことを一息に語りだした俺を、顔を赤らめながら見ていた。
「あの、クロエさ」
「な――何?」
「あの、間違ってたら申し訳ない、もしかしたらすげぇトンチンカンなことをいうのかもしれないけどさ」
「う、うん」
「もしかして、人を好きになるって、その人と一緒にいる未来を想像しちゃう、ってことなのか?」
俺は真剣に、今己が感じている不可思議な感情がどういうものであるのか、説明しようとした。
「その人といつまでも一緒にいたい、ずっと一緒にいてほしい、人を好きになったらさ、もしかしてそう思うのか? ずっとその人と一緒にゲラゲラ笑ってるところを想像しちゃうもんなのか? 俺、今、いずれお前とそうなれたらすげー幸せだなって思って、想像するだけで楽しくて仕方がないんだけど……これ、もしかして、そういうことなのか?」
俺のその一言に、ぽーっ、という感じで、三津島クロエが目を潤ませて俺を見つめた。
俺がワクワクしながら三津島クロエの返答を待っていると――。
突然、バチン! と音がして、三津島クロエが傍らに広げられていた漫画雑誌を両手で取り上げ、俺の顔に叩きつけた。
ブヘェ! と冴えない悲鳴を上げて俺が痛がると、三津島クロエの声が聞こえた。
「んな、なななな……! とっ、突然、なにを新しい感情に目覚めてんの!? しかもなんで、なんでそんなこと私に直に聞くの……!? どう答えてほしいのよっ!!」
「んべっ……!? どっ、どうしたんだよ急に!? なんか俺、ヘンなこと言ったか!?」
「めちゃめちゃ言ったじゃないの!! 自覚もないのかよ! もっ、もう、私がそうだよって答えたらそれってもうそういうことになっちゃうじゃない! なんてことを人に聞いてんのよ! なんてこと人に答えさせようとしてんのよっ!」
ハァハァ、と、何故なのか三津島クロエの呼吸が荒くなっている。
俺が慌てて顔に叩きつけられた雑誌を取り除こうとすると、「ちょっとそのまま!」と鋭く声が飛び、俺はビクンと手を硬直させた。
「いっ、今の私の顔、ちょっと零宮には見せられないかもだから……! ちょっとそのまま待ってて! 今の私の顔見たら埋める! 埋めて殺す!」
人生で初めてそんなふうに脅迫されて、俺は仕方なく三津島クロエが落ち着くのを待つ他なかった。
一分ぐらいしてから、ようやく俺の顔面から漫画雑誌が退いた。
三津島クロエはまだなんだか赤い顔のまま、その銀髪をところどころほつれさせて、一瞬の間に何だか随分憔悴してしまった様子だった。
「……あっ、あのねぇ零宮、今みたいなこと、他の人には聞いてもいいけど、私にだけは聞いちゃダメだぞ? ぶっちゃけ今の、ひっぱたかれても不思議じゃなかったよ?」
「そっ、それ、普通は逆じゃないのか……!? 私にはいいけど他の人には、じゃないの!? 俺、またなんかやっちゃいましたか!?」
「うむぅ、まだ零宮にはこういう愛だの恋だのって話は早いか。流石にまだリハビリ段階だよねぇ……ハァ、八百原とは別の理由でまた時間かかりそうだなぁ」
ガクッ、と、いつぞや見たように頭を揺らして、三津島クロエは何だかひどく落胆した様子だった。
その表情を見てなんだか居心地が悪くなっていると、ようやく三津島クロエが顔を上げた。
その瞳には、何らかの覚悟と決意が湛えられていたように、俺にはそう見えた。
「ねぇ、零宮」
「う、うん」
「一分間だけさ、零宮のこと、抱き締めてもいい?」
えっ? と俺が戸惑うと、三津島クロエは例の縋るような表情で俺に向かってにじり寄ってきた。
「なんというか、まだ理解するのがムリみたいだから。零宮はずっと闘病中だったから、愛とか恋とかわかんないんでしょ? それでもなんとかして零宮に私の愛を伝えたいの。ダメ?」
「え、いや、それは……さっ、流石にここ学校だぞ? 誰かに見られたりしたら……」
「見られたりしたら私が勝手に抱きついたことにしていい。ねっねっ、お願いお願いお願い」
「い、いや流石にそれは……だ、だって……!」
俺はちらりと、三津島クロエの胸元に窮屈そうに納まっている巨大な逸物を見た。
抱き締められたりしたら、この巨大な肉塊が俺の身体と密着することになる。
それにただでさえ隣にいるだけで感じてしまっているのに、三津島クロエのメスの芳香としかいいようがない匂いだって……。
俺の理性が保つわけがない、と、俺はなんとかして断りを入れようとしたのだけれど……。
「お願い、零宮。私、さっき私が奥さんになってくれたら最高だって言ってくれたの、すっごい嬉しかった。だからお礼に零宮に私の愛を伝えたい。抱き締めたらきっと零宮にだって伝わるよ」
――土台、俺にはこの人の申し出を断ることなんて、出来やしないのだ。
俺は大きく深呼吸してから、観念するつもりで息を大きく吐いた。
「……一分だけ、だぞ。俺、それ以上は理性が保たないからな?」
「えっ、いいの!? やたっ!! じゃっ、じゃあ、零宮。準備はいい?」
「うっ、うん……でっ、出来ればその、あんまり強く抱き締めないでほしい。あの、色々当たっちゃうと思うし……」
「それは心配いらない、全力で押しつけてあげるから。存分に柔らかさを堪能させたげるよ」
「いっ、いや! 逆逆! いいか、マジであんまり俺の理性ぶっちぎろうとするなよ!? 俺、刑務所とか少年院とか行きたくないからな!?」
「う、うん、わかった。……じゃあ零宮、ちゃんと愛を感じてね」
そう言って、三津島クロエが腰を俺と密着させ、おっかなびっくり、という感じて覆いかぶさってきた。
途端に、服越しでも感じる三津島クロエの体温、柔らかさ、香り、全てが俺の皮膚から直接浸透してきて、猛烈なめまいがした。
うっ、と呻きかけたのをなんとかこらえると、俺の首筋に三津島クロエの両腕が回り、きゅっ、と、俺の首の裏で三津島クロエの両指が絡み合った。
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