ナンパされるお色気枠
「お断りします。もう既にお昼は別の人と食べる予定が入ってますんで」
俺が城ヶ島五郎という男についての記憶をやっと取り戻したのと同時に、三津島クロエが信じられなぐらい冷たく吐き捨てた。
えっ? と、これも如何にもラブコメの噛ませ犬モブのような、心底予想を裏切られたというような間抜けな表情を浮かべ、城ヶ島五郎は硬直した。
と同時に、八百原那由太と一葉深雪、そして妹のえるが、同時に俺を見た。
戸惑いつつも、多分俺とだな、と、俺も頷き返す。
その間抜け面を碧眼で睨めつけて、三津島クロエは更に口を開いた。
「っていうか、いきなり現れて一体アンタなんなんですか? 朝っぱらから私がフリーだのなんだのって大声で喚き散らして、失礼だと思わないんですか? 城ヶ島だか鬼ヶ島だか知りませんけど、私はアンタみたいな非常識な男とは口も利きたくないです。今後一切話しかけないでください」
一葉深雪ほどでもないが、三津島クロエも割と思ったことはハッキリ口にするタイプであるため、その文言はなかなかに辛辣だった。
一瞬、調子を狂わされたらしく硬直した城ヶ島五郎は、それでも次の瞬間にはモテ男としての体裁を取り戻したらしく、ハハハ、と肩を竦めて苦笑した。
「おやおや、手厳しいな……何だか僕の後輩には美人だけど随分と口が悪い子が多いらしい。これは失礼した。確かにさっきのは失礼な声の掛け方だったね、謝罪させてくれるかい?」
「結構です。謝罪されても言ったことは取り消せませんから。謝罪するつもりならもう喋りかけないでください」
「そっ、それはいくらなんでも僕が困るじゃないか。そ、そうだな、今日は昼食の予定が入っているなら、後日日を改めて誘うことにするよ。そうだ、そのために連絡先の交換とかは……」
「ふざけんな。アンタみたいな頭も心も軽そうな男に誰が連絡先なんか教えるかよ」
三津島クロエは明らかに苛立った表情と口調で吐き捨てた。
その一言に少し気圧されたような表情になった城ヶ島五郎を真正面から睨みつけ、三津島クロエはドスの利いた声を発した。
「私はアンタになんか知らないし興味もない。どうせ私がフリーになったからって声かけて、何人かいる妾の一人に加えようってんでしょ。女としてプライドがない女のハーレム要員だったらもう間に合ってるんじゃないの?」
そこで三津島クロエは、人垣の中、きゃあきゃあと黄色い声を上げながら騒いでいる女子生徒数人を睨みつけた。
その視線にびくっと肩を震わせた女子生徒たちは、その視線の鋭さと三津島クロエの言葉の鋭さに威圧されたかのように顔を伏せた。
三津島クロエと城ヶ島五郎を取り囲んだ人垣が、しん、と静まり返ったのを確認して、三津島クロエは顎先を上げ、左手で自分を指し、これ以上は出来まいというようなドヤ顔で宣言した。
「悪いけど私、世界一いい女だから。アンタみたいなド三下のチャラ男じゃ全然釣り合わない。私が好きになる、好きになるべき男はね、《《世界で一番いい男だけよ》》」
その一言に、昨日言われた「好き」の一言を思い出し、俺は何だか照れくさくなって下を向いてしまった。
と同時に、俺の隣にいた八百原那由太も、言い過ぎだよ……などと恐縮した表情で後頭部をボリボリと手で掻いた。
瞬間、俺は妹のえるに、八百原那由太は一葉深雪に、同時にローキックで足を蹴られた。
「わかったなら今後はあんまり最低限のプライドもないような女の子を取っ替え引っ替えするのはよした方がいいんじゃないの? 男としての株が下がるから。じゃあね、身の程知らずクン?」
唖然とする城ヶ島五郎を小馬鹿にするように言って、三津島クロエは歩き出し、その側を通り過ぎようとした。
と、その瞬間、城ヶ島五郎が何かのプライドを思い出したかのようにはっとした表情になり、三津島クロエの右手首を掴んだ。
「ちょ、ちょちょ! ちょっと待ってくれないか――!」
ナンパというには少しやりすぎと思える城ヶ島五郎の挙動に、俺は思わず一歩踏み出そうとしたのだけれど――。
瞬間、あちゃあ、という声が聞こえ、俺は八百原那由太と一葉深雪を見た。
ふたりとも、心配というよりは何だか気の毒そうな表情で、三津島クロエではなく城ヶ島五郎を見ていた。
その表情に俺があることを思い出してはっとした瞬間、三津島クロエが電撃的に動いた。
掴まれた方の手首を素早く回転させ、三津島クロエは逆に、城ヶ島五郎の手首を掴み返した。
そのまま大きく一歩、間合いを詰めるように三津島クロエが踏み込んだと思ったその瞬間、ガクン、と、城ヶ島五郎が両膝から崩れ落ちた。
「んな……!? あっ……!? あだっ、あだだだだだだだ……!!」
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