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第79話 戦慄の暗黒


鋼都バルガンの城門前。大地を震わせる轟音は、魔族と魔獣たちの進軍によるものであった。城壁を埋め尽くす赤の国の兵士たちが弓を構える中、漆黒の甲冑に身を包んだ暗黒騎士が、愛馬を駆って最前線へ躍り出る。

「タナカ・サトシ! 貴様の小細工など、我が戦斧の前では紙切れ同然よ!」

暗黒騎士が戦斧を振り上げると、魔族の群れが呼応するように咆哮した。サトシが剣を抜こうとしたその時、その前に一人の少年が立ちはだかった。

「待ってください、サトシ国王。この戦い……この騎士との決着は、俺がつけます」

ケンは一歩前へ踏み出し、凛とした声で暗黒騎士を見据えた。

「殺し合いの戦争は田中勇様の遺志に反する。……暗黒騎士、貴様がヴェイルを殺し、俺の評判を落とすために動いていたことは知っている。その勝負、このドンジャラ卓で決着をつけてやる」

暗黒騎士は、兜の下で不敵な笑みを浮かべた。

「ほほう、裁定者自ら死地へ飛び込むとは。上等だ。負けた者は真実を語り、その命を賭ける。それがこの世界の、否、貴様の敗北の代償となる」

戦場の中央に、ドンジャラ卓が設置される。殺気立った魔獣たちが取り囲む中、ケンと暗黒騎士は静かに牌を並べた。暗黒騎士は、ヴェイルの軍勢において長年将軍を務めただけあり、ドンジャラの腕も一級品だった。牌を弾く指先は迷いがなく、その戦術は極めて冷酷かつ狡猾。

「まずは、貴様の甘い考えを粉砕してやる。……『魔界の門』、完成だ!」

騎士が放った役は、番犬・守護・冥爪の純正役。その威力は、盤面を突き抜けてケンの精神を直接削り取るような魔力を放っていた。



(強い……! ヴェイルとは違う、直接的な暴力の牌。だが、これこそが俺の求めていた『最強のシステム』の試金石だ)

ケンは、異空間で田中勇や魔王と打った数万戦の記憶を呼び起こす。もはや彼は、計算だけをしているのではない。牌を置くたびに、盤面そのものの『因果』を書き換え、騎士の次の一手を無効化していく。

「馬鹿な……。貴様の牌が、なぜ私の戦術をここまで読み切る?」

「計算の問題じゃない。貴様の心に潜む『支配への執着』……その歪みこそが、最大の弱点だ」

ケンが牌を切り替える。その瞬間、道場での特訓で会得した『理を書き換える力』が発動した。騎士が描いていた『天地の龍』の絵図が、ケンの打牌によってバラバラに引き裂かれ、ケン自身の役へと組み替えられていく。


「なっ……盤面が……!?」

騎士の焦りは、ドンジャラ卓の上にそのまま具現化した。追い詰められた騎士が焦って放った黒牌(魔王牌)さえも、ケンにとっては計算済みの「捨て牌」に過ぎなかった。


「ロン!! 天律の完成!!」

ケンの放った最後の一打が、騎士のすべての守りを無力化した。騎士の鎧から魔力が霧散し、彼の戦斧が音を立てて崩れ落ちる。


断崖の静寂が戻る中、敗北した暗黒騎士は、震える手で兜を脱ぎ捨てた。その顔は、ヴェイルを崇拝していたはずの男とは思えぬほど、虚無に満ちていた。

「……負けだ。完璧な敗北だな」

ケンが問いかける。「貴様は、なぜヴェイルを殺した。なぜ世界を混乱に陥れるような真似をした?」

騎士は薄く笑い、口から血を吐き出した。

「……ヴェイル・ノクスは、あまりに甘すぎたからだ。サトウに……サキュバスの女に唆され、魔王の力にすがる私にとって、彼は邪魔な理想家でしかなかった」

騎士の告白に、ケンは息を呑む。

「私は、サトウのスパイだったのだよ。ヴェイルの動向をすべてサトウに流し、隙を突いて彼を排除する……それが、あのお方の命だった」

「あのお方……サトウか!?」

「……天律戦の決勝で、魔王の影を再臨させる……あのお方の真の野望は、貴様ら裁定者をも食い尽くすことにある……」

騎士はそこまで言うと、自らの胸に短剣を突き立てた。

「……後のことは、貴様に託す。この世界が、どうなろうと知ったことではないが……あのお方の恐怖を知れば、貴様も絶望するだろうな……」

暗黒騎士は、ケンの前で事切れた。

サトウが、決勝の舞台で何を目論んでいるのか。その戦慄すべき計画の片鱗に触れたケンは、拳を強く握りしめる。

「サトウ……。貴女の野望、この天律戦で必ず俺が叩き斬ってやる」

バルガンの城壁の上から、サトシがケンの背中を見つめていた。その表情には、新たな危機を知った者の重圧が浮かんでいる。

魔王の意志を継ぐ者たちの影が、天律戦の舞台を静かに支配し始めていた。

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