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第69話 白き真王と深淵

闇都ノクターンの地下迷宮に設けられた『天律の卓』。

 グループAにおいて、破壊の化身シオンがその圧倒的な暴力でシリウスとティアを蹂躙し去った余韻も冷めやらぬまま、予選グループBの戦いが幕を開けた。


卓を囲む四名は、グループAとはまた異なる、静かで底知れぬ実力者たちだった。

 青の国を継承し、白の血族として覚醒した真王・シズク。

 赤の国の熱き女王タナカ・サクラ。

 仕組みによる支配を夢見る紫の国の支配者・ヴェイル・ノクス。

 そして、サキュバスに魂を乗っ取られたかつての同級生、佐藤栞サトウ

「始めましょうか。五百年のおりを、この盤面で掃除するために」

 シズクが静かに呟くと、彼女の背後に白き魔法塔の幻影が浮かび上がる。その気配はシオンのような破壊衝動ではない。そこに存在するだけで周囲の空間を支配する、絶対的な「王」の権威だった。


――開始スタートの号令と共に、牌が宙を舞う。

「ふふっ、シズクさん。貴女の魔力は凄いけど、私の『幻惑の宴』も負けてないよ!」

 サクラが果敢に動く。桃色の牌を駆使し、盤面を華麗に、そして複雑に塗り替えていく。しかし、シズクの目は決して揺るがない。彼女の打牌は無駄がなく、サクラの連携をまるでチェスの詰みのように一手ずつ封じ込めていく。



「ヴェイル、貴方は『仕組み』に固執しすぎている。王とは、仕組みを作る者ではなく、運命そのものを導く存在なの」

 シズクが淡々と打つ。ヴェイルの冷徹な心理戦さえも、彼女の「王の視座」の前では、チェス盤の上の駒のように計算し尽くされていた。


だが、その盤面の均衡を崩したのは、沈黙を守っていたサトウだった。

 彼女はサキュバスの力で、シズクとヴェイルの思考を読み取り、盤面に「毒」を撒き始めた。

「ヴェイル議長、貴方の計算は素晴らしいわ。でもね、シオンという『破壊兵器』を持たない貴方に、この盤面を支配する資格はあるの?」

 サトウがふらりと卓に身を乗り出す。その瞳は、佐藤栞という少女が持っていた真っ直ぐな光を完全に失い、他者の絶望を栄養とする異形のものへと変貌していた。

「……ッ!! 貴様、何をするつもりだ」

 ヴェイルが冷酷な仮面を剥がし、警戒する。しかし、サトウはただ不敵に笑うだけだ。

 彼女が牌を切るたびに、盤面からシオンの怨念に呼応するような「澱み」が立ち昇る。それはシズクの純白の支配さえも黒く染め上げる、あまりにも強烈な『悪意』だった。

サクラは必死に食らいつこうとするが、サトウの仕掛ける巧妙な心理戦と、シズクの絶対的な支配力という「二つの天秤」に挟まれ、徐々に牌を失っていく。

 ヴェイルもまた、自らが設計した「支配の仕組み」そのものをサトウに悪用され、成す術なく手牌を削られていった。

「……私の王の盤面に、毒は必要ないわ」

 シズクが冷ややかに言い放ち、最後の一枚を叩きつける。

「ロン!! ……王の導きに従いなさいッ!!」


 純白の光が迷宮を覆い尽くし、サトウが撒き散らした毒気さえも浄化するほどの強烈な上がりだった。


電光掲示板に結果が浮かび上がる。

【1位:シズク】

【2位:佐藤栞サトウ

【3位:ヴェイル】

【4位:サクラ】

シズクの圧倒的な王の統率力。そして、サキュバスとしての狡猾さで、確実に上位を奪取したサトウ。

 グループBの戦いは、こうして幕を閉じた。

地下迷宮の壁が崩れ去り、最終決戦の地である『天律の頂』への道が拓かれる。

 勝者として並び立つのは、ケン、シオン、シズク、そしてサトウの四名。

ケンは、自分の運命が、かつての同級生たちの怨念と、世界の意志そのものによって、逃げ場のない場所へと追い詰められていることを悟った。

 シオンという破壊者。

 シズクという真王。

 そして、サトウという「かつての友の肉体を汚すもの」。

ケンは、田中勇が遺した『恨まないでくれ』という言葉を胸に、己の全てを賭けた最初の一手を打つ準備を整えた。

 五百年の後悔と、五百年の執念が、今、一つの卓の上で激突する。

いよいよ、天律戦最終決戦ファイナルが、始まる。

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