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第3話 夜空の梟と、狂った世界のシステム


「ひっ、ひぃぃ……! ちょっと、高すぎないかこれ!?」

鈴木ケンは、ふかふかとした巨大な羽毛に顔を押し当て、情けない悲鳴を上げた。

眼下には、インクを流したような漆黒の森と、ミニチュアのように小さな山々が後方に飛び去っていく。彼が今しがみついているのは、翼長十メートルはあろうかという巨大な白いふくろうの背中だった。

「暴れないで、ケン。シロが怖がるわ」

ケンのすぐ前で、エルフの王女・ティアが手綱ならぬ首周りの羽を撫でながら微笑んだ。梟の周囲には淡い緑色の風避けの魔法陣が展開されており、猛スピードで空を飛んでいるにもかかわらず、背中の上は微風程度だった。

荒廃したアルカナ城跡から、ティアの故郷である『緑のエバーグリーン』の城へ向かう帰路。

恐怖でガチガチに震えるケンの頭上で、炎の小鳥フェニクスが呆れたようにため息をついた。

「情けない奴だ。これから世界の命運を懸けて戦う男が、鳥の背中ごときで縮み上がってどうする。いいか、お前が5年後の天律戦を生き残るためには、この世界の『ドンジャラランク』を理解し、頂点まで這い上がる必要があるんだ」

「ドンジャラ……ランク?」

聞き慣れない単語に、ケンは少しだけ顔を上げた。

「そうだ。この世界では、ドンジャラの強さがそのまま社会的地位に直結する。最下層のFから始まり、E、D、C、B、A、Sと上がっていく。そしてその頂点に君臨するのが、各国の『使節団トップチーム』に所属するSSSトリプルエスの化け物どもだ」

「SSS……」

「ちなみに、ドンジャラを知らないお前はFランク以下の『測定不能』だ。緑の国に着いたら、まずはFランクの子供たち相手にボコボコにされて基礎を学ぶところからだな」

フェニクスは楽しげにくちばしを鳴らした。39歳にして、子供の遊び(だとケンは思っている)でFランク以下からのスタート。目眩がしそうだった。

「ランクだけじゃないわ」

前を向いたまま、ティアが静かな声で補足した。

「この世界で行われるドンジャラの勝負は、大きく三つに分けられるの。一つ目は『凡戦』。何も要求せず、ただ純粋に技術を競う練習試合ね。そして二つ目が『取引戦』」

「取引……つまり、賭けドンジャラか?」

「ええ。市場での値引き交渉から、国家間の領土の割譲まで。互いに要求するものを卓に提示し、勝者がそれを総取りする。この世界において、最も日常的なドンジャラよ」

なんだその狂った世界は、とケンは心の中で突っ込んだ。政治家が領土を懸けてドンジャラを打つ姿を想像すると、頭がおかしくなりそうだった。

「そして……三つ目が『死闘』よ」

ティアの声色が、ふっと冷たくなった。

「死闘……? 待てよ、殺し合いは禁止されたってさっき……」

「直接的な暴力は禁止されているわ。でも、ドンジャラの卓において『自分の命そのもの』をベットすることは禁じられていないの。敗者は勝者に絶対服従し、生涯を奴隷として捧げるか……あるいは、自ら命を絶つことを強要される」

背筋に冷たいものが走った。

殺し合いは禁止されても、悪意は消えない。ドンジャラという「平和なルール」を隠れ蓑にして、合法的に命を奪い合うシステムがそこにはあった。14歳の英雄・田中勇が望んだ平和は、500年の時を経て、ひどく歪な形に変質しているのだ。

「お前が5年後に挑む天律戦は、間違いなく最大の『死闘』になる」

フェニクスの赤い炎が、夜闇の中で不気味に揺らめいた。

「俺が、命を懸けてドンジャラを……」

ケンは自分の震える両手を見つめた。物流倉庫で段ボールを運んでいた、マメだらけの不格好な手。

これで牌を握り、命を懸けて戦えというのか。

『ホォォウ!』

巨大梟のシロが、短く鳴いた。

「着くわ。あれが私の故郷、緑の国よ」

ティアが指差した先。深い森を切り開いた巨大なクレーターのような盆地に、夜の闇の中でも緑色に輝く、大樹と一体化した壮麗な城の姿が現れたのだった。

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