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第28話 鋼都のドンジャラリーグと狂乱の夜戦


 カルディア王国国王、タナカ・サトシとの激しくも熱を帯びた面会と、山盛りの肉が並んだ豪快な昼食を終えた鈴木ケンは、赤の国の第一王女タナカ・サクラたちに連れられ、王城の外へと足を踏み出していた。


 赤の国の首都、鋼都バルガン。

 この要塞都市を歩いてまず感じるのは、肌を焦がすような「熱気」と、絶え間なく響き渡る重低音の「鎚音」である。

巨大な溶鉱炉から立ち上る煙が空を覆い、街の至る所で筋骨隆々とした男たち――人間や、彼らより背は低いが横幅と筋肉量が倍以上あるドワーフ族が、汗まみれになって鉄を打っている。


「すげえ熱気だな……。青の国(アルカナム王国)の、あの静かで冷たい魔法都市とは大違いだ」

 ケンは、首に巻いたタオルで汗を拭いながら街並みを見渡した。


「ええ。ここは初代タナカ・リュウ様が白の国から独立し、最初にドワーフ族との強固な同盟を結んで築き上げた、誇り高き労働と武の街ですから」

 サクラが、涼しい顔で真紅の髪を揺らしながら解説する。


 一行が向かったのは、バルガンの地下道網に直結する、ある巨大な工房だった。

 入り口には「火竜の金床」という無骨な看板が掲げられており、中からは他の工房とは比べ物にならないほどの凄まじい熱波と、空気を震わせる魔力の波動が漏れ出していた。


「おい、クソジジイ! 生きてるか!」

 マチが、遠慮というものを全く知らない足取りで、工房の重い鉄扉を蹴り開けた。


「……誰がクソジジイじゃ、この赤毛の暴れ馬めが!!」


 怒声と共に、奥の暗がりから姿を現したのは、一人のドワーフだった。

 身長はケンの胸ほどしかないが、その肉体はまさに「歩く岩石」。白く長い髭を胸元まで伸ばし、全身には無数の火傷の痕と古傷が刻まれている。彼が発する威圧感は、国王であるサトシにも引けを取らないほどだった。


「お前は何度言ったら扉を静かに開けることを覚えるんじゃ、マチ! 儂の工房の扉を壊すのは今年で五度目じゃぞ!」

「ガッハッハ! 固いこと言うなよ、ゲン爺! それより、こいつのメンテナンスを頼みたい!」


 マチがドスッと作業台に置いたのは、青の国の地下闘技場での死闘で使用した、あの重厚な金属製のトランクだった。


 ドワーフの老職人、ゲン。

 エルフ族に次いで長命な種族であるドワーフの中でも、彼はすでに二百歳を超える大長老である。赤の国の王家専用の牌を、最高級鉱石から打ち直すことができる数少ない国宝級の鍛冶職人だった。


 ゲンは渋い顔でトランクを開け、中に入っている『緋緋色金ひひいろかね』の特製牌を一つ手に取った。

 ルーペを目に当て、牌の表面をじっくりと観察する。


 数秒後。

 ゲンの顔が、溶岩のように真っ赤に染まった。


「……マチィィィィィィッ!!」


 鼓膜が破れるかと思うほどの、ゲンの激怒の咆哮が工房内に響き渡った。

 ケンは思わず耳を塞ぎ、コアラは冷静に耳栓を装着した。


「てめえ、この国宝に何て傷をつけてきやがった!! 牌の角がミリ単位で削れとるじゃねえか!! どんな馬鹿力で叩きつければ、緋緋色金にこんなクラックが入るんじゃ、このクソガキがァァッ!!」

「い、痛ェ痛ェ痛ェ!! 髭引っ張んなゲン爺!! しょうがねえだろ、こっちは命懸けで愛の交尾ドンジャラをしてたんだからよ!!」


 なんと、あの天下無双の暴れん坊であるマチが、ゲンの前では首根っこを掴まれ、子供のように説教を受けていた。

 ゲンは、赤の国で唯一、マチのことを「クソガキ」と呼び、物理的に折檻できる恐るべき長老なのだ。


「笑い事じゃねえわ! この牌を打つのに儂がどれだけの時間と魂を込めたと思っとる!!」

 ゲンはマチを放り投げると、ハァハァと息を荒げながら、今度はその鋭い眼光をケンへと向けた。


「……おい。そこの細っこいヒューマン。お前が、噂の新しい裁定者か」

「あ、ああ。鈴木ケンだ。よろしく頼む」

「……信じられん」


 ゲンは、ケンの細い腕と、牌に残された魔力の残滓を交互に見比べた。

「この緋緋色金の牌は、タナカの濃い血を引く者か、儂らドワーフのような規格外の筋力と魔力を持つ者しか扱えん代物じゃ。……それを、お前のような貧弱な腕の男が、マチたちと互角以上の速度で打ち合い、しかも『勇者(白牌)』の力を完全に引き出して使いこなしたというのか」


 ゲンは、ケンの手を取り、その手のひらや指先をじっくりと触った。

「……マメだらけの手じゃ。だが、武術や魔法の鍛錬でできたマメじゃない。ひたすらに重い荷物を運び、細かい作業を繰り返してきた、実直な労働者の手じゃな」


「まあ、三十年以上、物流倉庫で段ボール運んでたからな」

「物流……? よくわからんが、お前が泥水啜って生きてきたことだけはわかる。……フン、悪くない手じゃ。マチの奴が惚れ込むのも、少しは理解できるわい」


 ゲンは満足そうに頷き、牌の入ったトランクを引き寄せた。

「明日までに、完璧に磨き上げて元の重さとバランスに戻しておく。……裁定者よ。この国のドンジャラは、他国とは一味も二味も違うぞ。せいぜい、潰されんように気をつけるんじゃな」

「ああ。楽しみにしてるよ」


     * * *


 ゲンの工房を後にした一行は、鋼都バルガンのさらに奥深く、居住区画へと足を向けた。


「しかし、赤の国は人間とドワーフだけかと思ってたが、結構色んな奴がいるんだな」

 ケンは、すれ違う街の人々を見て感心したように言った。

 公式な記録では、カルディア王国の国民比率は人間が六割、ドワーフが四割とされている。しかし、実際に街を歩いてみると、それ以外の種族の姿も数多く見受けられたのだ。


「……私のデータに基づき、解説しましょう」

 コアラが、歩きながらデータファイルをパラパラと捲った。

「我が国には、建国当初のドワーフ族との同盟に感銘を受け、後に合流した多数の獣人族が暮らしています。代表的なところでは、頭部に猫の耳を持つ『猫族』、長いウサギの耳を持つ『脱兎族』、そして強靭な肉体と牛の角を持つ『牛族』などです」


 コアラが指差した先には、猫耳を生やした身軽な身のこなしの少年たちが荷馬車の屋根を飛び回って遊んでおり、路地裏では筋骨隆々な牛族の男たちが、重い鉄材を軽々と運んでいた。


「初代タナカ・イサム様は、すべての種族が平等に暮らせる理想の国を目指しました。しかし、白の国では亜人や異端の者への差別が完全にはなくならなかった。……だからこそ、初代リュウ様が独立した際、この赤の国では『力と労働に貢献する者は、すべて平等な戦友である』という絶対のルールを敷いたのです」

 サクラが、誇らしげに語る。


「なるほどな。青の国みたいに、魔力が高い奴が偉いってわけじゃないんだな」

「ピャッ! 魔法なんて飾りよ!」

 フェニクスがケンの肩で得意げに胸を張る。


「そして、この国には、その平等と熱狂を象徴する、他国にはない独自の文化が存在します」

 コアラが、メガネをキラリと光らせた。

「それが……『ドンジャラリーグ』です」


「ドンジャラ、リーグ……?」

 ケンの足が止まった。嫌な予感がした。


「そうです。赤の国には、種族や職業を母体とした6つのプロチームが存在し、毎晩、チームの威信と名誉を懸けた熾烈なリーグ戦を行っているのです」

 コアラは、淡々とチーム名を読み上げ始めた。


「猫族を中心とした、機動力重視のチーム『タイガース』。

 ドワーフ族を中心とした、重量級の守備型チーム『ジャイアンツ』。

 脱兎族を中心とした、神速の速攻チーム『ラビッツ』。

 赤の国の軍人から選抜された、戦術特化チーム『ファイターズ』。

 牛族を中心とした、圧倒的なパワーチーム『バッファローズ』。

 そして……我がタナカ王家の血を引く者たちを中心とした、最強のエリートチーム『ライオンズ』です」


「…………」

 ケンは、無言で天を仰いだ。


(タナカの野郎……!! 異世界転生してきて、この世界に野球チームの名前をそのまま持ち込みやがったな!! どんだけプロ野球が好きだったんだよ中学生!!)


「特に、猫族の『タイガース』とドワーフ族の『ジャイアンツ』は、チーム発足以来続く犬猿の仲です。彼らが対戦する夜は、街の酒場で必ずと言っていいほど暴動……いえ、熱狂的なファン同士の『場外ドンジャラ乱闘』が勃発します」

 コアラが、真面目な顔で恐ろしいことを言う。


「ちなみに、私は軍人チーム『ファイターズ』の選手兼監督をやってるぜ! 私の采配と豪腕で、今年は絶対優勝だ!」

 マチが、自らの二の腕をバンバンと叩いてアピールする。


「……私の所属する『ライオンズ』が、現在三年連続でリーグ優勝を果たしています。マチ副団長のファイターズは、毎年万年三位か四位を行ったり来たりする、愛すべき中堅チームですね」

 コアラが、冷ややかな視線でマチを刺す。


「うるせえメガネ!! 今年は私がケンをファイターズに特別枠で引き抜いて、ライオンズをコテンパンにしてやるんだからな!!」

「ルール違反です。鈴木ケン殿の身柄は、王家直属のライオンズで保護・管理するのが最も効率的です」


「……お前ら、ドンジャラやんの本当に好きなんだな」

 ケンは、呆れ果ててため息をついた。


 赤の国での生活サイクルは、極めて明確だ。

 朝は、街の広場に全員が集まり「武の精神統一」という名の瞑想を行い、その後、それぞれの持ち場に散って労働に従事する。

 そして夜。労働の疲れを癒やすために酒場に集まり、国中に配置された『魔力水晶』のスクリーンを通じて配信されるドンジャラリーグの試合を観戦し、熱狂するのだ。

 赤の国において、ドンジャラは単なる戦争の代替手段ではなく、国民すべての魂を熱く焦がす、最大のエンターテインメントとして根付いていたのである。


     * * *


 その日の夜。

 王城のゲストルームにて、赤の国の山海珍味が並んだ豪勢な夕食を済ませたケンは、ベッドに倒れ込むようにして休息を取ろうとしていた。

 青の国からの長旅と、バルガンの熱気で、体力は限界に近い。


「ふぅ……。明日からいよいよ修行か。サトシのおっさん、どんな無茶ぶりをしてくるのやら……」


 目を閉じ、意識がまどろみの中へと沈んでいく。

 ……はずだった。


「――ん?」


 突然、ケンの視界が真っ暗になった。

 魔法による強制的な意識の刈り取り。抵抗する間もなく、ケンの意識は深い闇へと落ちていった。


     * * *


「……おい。起きろよ、ケン」


 頬をペチペチと叩く感触で、ケンはハッと目を覚ました。

「な、なんだ……!? 敵襲か!?」


 勢いよく立ち上がろうとしたが、なぜか体が椅子に固定されているかのように重い。

 周囲を見渡すと、そこは先ほどまでいた自室のベッドではなく、王城の地下にあると思われる、防音設備が完璧に施された石造りの隠し部屋だった。

 そして、ケンの目の前には。


「よう。よく眠れたか、マイハニー」


 四人掛けのドンジャラ卓の向かい側。

 そこには、軍服を限界まではだけさせ、平らな谷間を露わにしながら、肉食獣の笑みを浮かべるタナカ・マチが座っていた。


「マチ……!? お前、何しやがった!?」

「何って、決まってるだろ。青の国で交わした愛の誓い……『夜のドンジャラ』の続きをしに来たんだよ」


 マチは、舌なめずりをしながら、卓の上に置かれた二対の牌を指差した。

「安心しろ。ゲン爺から予備の緋緋色金牌を借りてきた。ここなら防音もバッチリだ。朝まで誰の邪魔も入らない。……サクラやメガネ(コアラ)の目を盗んで、アンタをここまで運んでくるの、結構苦労したんだぜ?」


「誘拐じゃねえか!! いい加減にしろ、俺は疲れてんだよ!!」

 ケンが怒鳴るが、マチは全く意に介さない。


「疲れてる? 冗談だろ。アンタの中に眠る『魔王(黒牌)』と『勇者(白牌)』の力が、私を求めてウズウズしてるのが手に取るようにわかるぜ」

 マチが、ゴクリと生唾を飲み込んだ。


「さあ、やろうぜケン……。青の国の闘技場では、途中で邪魔が入って中途半端に終わっちまった。今夜こそ、アンタのその冷徹な全牌記憶で、私の暴走ドンジャラをメチャクチャに、骨の髄までへし折ってくれ……!!」

「お前、本当にただのドMの変態じゃねえか!!」


 逃げ出そうとしたケンだったが、背後の扉には重厚な鍵が掛かっており、マチの放つ威圧感で部屋の空気が粘り気を帯びていた。

 生粋の戦闘狂であり、同時に極度の『敗北快楽主義』に目覚めてしまったマチは、ケンが本気で相手をしてくれるまで、絶対にこの部屋から出すつもりはないようだった。


「……チッ。わかったよ、やればいいんだろ、やれば! その代わり、手加減は一切しねえからな! 百回連続でハコテン(持ち点ゼロ)にして泣かしてやる!!」

 ケンはヤケクソになり、乱暴に椅子に座り直した。


「最高だ!! その冷たい目、ゾクゾクするぜ!! さあ、来い!!」


 深夜の地下室で、二人きりの狂気のドンジャラが幕を開けた。

 一対一の変則ルール。

 マチは一切の防御を捨て、己の欲望の赴くままに強引な速攻を仕掛ける。

 対するケンは、怒りと疲労を原動力に、青の国での百勝戦で研ぎ澄まされた「極限の棚卸し」と、万能の『勇者牌』の力を容赦なく振り下ろす。


「ドンジャラ!! 烈火陣、十点!!」

「……甘え。ドンジャラだ。英雄の翼、三十点」

「あァァッ!! そこ、私の当たり牌だったのにィィッ!!」


 マチの絶叫。

 それは苦痛の声ではなく、圧倒的な敗北感によって脳内麻薬が爆発した、狂おしいほどの悦びの声だった。


「次だ次!! まだまだ行くぜェ!!」

「ドンジャラ。三家の誓い、三十五点」

「ひぎィッ!! ケンの、ケンの勇者が、私の陣形をまたメチャクチャにィィッ!!」


 深夜の王城に。

 完璧な防音設備が施されているはずの地下室から、なぜかマチの絶頂した嬌声が、微かな振動となって王城全体に響き渡っていた。

 警備の兵士たちは顔を赤らめて咳払いし、サクラは自室で「あの淫乱叔母様……!」と枕に顔を埋めていたという。


 ケンは、ただひたすらに、目の前の発情した筋肉ゴリラの心を折り続けた。

 牌を叩きつける。点棒を奪い取る。

 その単調な作業の果てに、ケンの意識は疲労とカオスの中で、再びプツリと途絶えた。


     * * *


「……チュン、チュン」

 窓の外から、小鳥のさえずりが聞こえる。


 翌朝。

 ケンは、柔らかな日差しと、顔に当たる生暖かい息の感触で目を覚ました。


「……ん、んん……」


 目を開けると、視界いっぱいに、胸の谷間が広がっていた。

「……は?」

 ケンは、自分の状況を理解するのに数秒を要した。


 ここは、見知らぬ豪華な寝室。

 そして自分は、なぜか『全裸』で、キングサイズのベッドの真ん中に寝かされている。

 隣には、同じく一糸まとわぬ全裸の姿で、ケンの体に腕と脚をきつく絡ませ、大いびきをかいて爆睡しているタナカ・マチの姿があった。

 彼女の褐色の肌には、昨夜の激闘ドンジャラの熱と汗がまだ微かに残っており、満足しきったような緩んだ寝顔を晒している。


「ウ……ウワァァァァァァッ!!?」

 ケンは悲鳴を上げ、マチの腕から這い出そうと暴れた。


「んん……なんだよマイハニー……朝から元気だな……もう一局やるか……?」

 マチが寝ぼけ眼でケンの腰に抱き着いてくる。

「離せバカ力! お前、昨日の夜、俺の意識が飛んだ後、一体何しやがった!!」

「何って……愛の巣(私の部屋)に持ち帰って、汗を流して一緒に寝ただけだぞ? 疲れてるだろうから手は出さなかった。……私ってば乙女だろ?」

「全裸で添い寝してる時点でアウトだろ!!」


 ガチャリ。

 その時、寝室の重厚な扉が、無慈悲に開かれた。


「……マチ副団長。午前の合同軍事演習の時間ですが、姿が見えないと……」


 書類の束を抱え、銀縁メガネを光らせたコアラが、扉の前に立っていた。

 ベッドの上の光景。

 全裸で抱き合う(ように見える)マチとケン。


「…………」


 コアラのメガネの奥の瞳が、スッと冷え切った。

 それは、路傍に転がる犬の糞を見るような、あるいは燃えないゴミの日に出された生ゴミを見るような、絶対零度の「汚物を見る目」だった。


「ま、待てコアラ! 違うんだ! これは不可抗力で……!」

 ケンが必死に弁解しようとする。


「……データ更新。鈴木ケン殿は、武闘派のメスゴリラに力押しで貞操を奪われる、非常に流されやすい脆弱なメンタル構造の持ち主であると記録しました」

「だから違うって!!」


「おはよう、メガネ! 昨日のケンの全牌記憶カウンター、マジで最高だったぜ! 朝まで絶頂しっぱなしだった!」

 マチが、悪びれる様子もなく全裸のままガッツポーズをする。


「……本当に、救いようのない発情肉ダルマですね、貴女は」

 コアラは、深い深いため息を吐き、書類の束でマチの顔面をスパーン! と叩いた。

「さっさと服を着てください。タナカ国王陛下がお待ちです」


 コアラは、メガネを中指で押し上げ、ケンに冷酷な視線を向けた。

「鈴木ケン殿。貴方にも休んでいる暇はありません。……今日から、赤の国が誇る『真の地獄(特訓)』が始まります。青の国の温い蠱毒など遊びだったと思い知らせてあげましょう」


「……ああ、わかったよ。服着るから、とりあえずそっぽ向いててくれ……」


 鈴木ケン、四十歳。

 彼がこの世界に転生してから経験した中で、間違いなく最もカオスで理不尽な朝が明けた。

 だが、休む暇はない。半年後の模擬・天律戦に向けた、赤き獅子たちによる文字通りの「地獄の修行」が、ついにその幕を開けようとしていた。

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