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第1話 14歳の英雄と『殺し合い』の世界


「……えっと。ドッキリ? それとも、ついに俺の脳が過労でイカれたのかな」

冷たい石畳の上にへたり込んだまま、ケンは目の前のエルフ(どう見てもそうとしか思えなかった)と、肩の上の喋る鳥を交互に見比べた。

「混乱するのも無理はないわ。でも、どうか落ち着いて聞いてほしいの」

少女が静かに歩み寄り、ケンの目の前で膝をついた。かすかに森の香りがした。

「私の名前はティア・エバーグリーン。緑の国の王女であり、世界樹の巫女。そしてそちらの口の悪い鳥は、不死鳥のフェニクス」

「不死鳥……」

「そう。そしてあなたは今、『アルカナ』と呼ばれる世界そのものの意思によって、この世界に召喚されたのよ。次の『天律戦てんりつせん』の裁定者としてね」

「てんりつせん? さいていしゃ? いや、ちょっと待ってくれ」

ケンは両手を前に出して、ティアの言葉を遮った。

「百歩譲って異世界転生モノだとしよう。深夜アニメで見たことがある。だが、人選ミスも甚だしいぞ。俺は剣道も柔道もやったことがない、ただのしがない物流倉庫の平社員だ。魔王と戦う勇者なんてガラじゃない。そういうのは、もっとこう、ピチピチの高校生とかにやらせるべきだろ」

「だから、お前は田中と同じことを言うなと」

フェニクスが小馬鹿にしたようにくちばしを鳴らした。

「田中ってさっきから誰なんだよ!」

「タナカ・イサム。500年前に召喚された、先代の裁定者様のお名前よ。当時の年齢で14歳、中学生という身分だったそうよ」

田中勇。

異世界の英雄にしては、あまりにも馴染み深い響きだった。

同時に、ケンは居心地の悪さを覚えた。14歳の子供が世界を救わされたというのか。

「先代の裁定者様が召喚された500年前……前回の天律戦のルールは、『殺し合い』だったわ」

ティアの琥珀色の瞳に、ふっと暗い影が落ちた。それは10代の少女には不釣り合いな、果てしなく深い悲しみの色だった。

「かつてのこの世界は、強者が弱者を力で蹂躙し、魔王軍との戦争によって世界人口の半分が失われるほどの地獄だったの。でも、田中様はその血塗られた戦いの末に魔王を打ち倒したわ。一対一の死闘の末にね」

「14歳の子供が、魔王と殺し合いをして……?」

大の大人でも正気を失うような地獄の戦いを生き抜いたというのか。同僚のミスで死んだだけの自分が、到底及ぶような存在ではない。

「そして天律戦の勝者として、田中様は次の500年の絶対ルールを定めたの」

ティアが、まるで神を讃えるように両手を胸の前で組んだ。

「もう二度と、こんな悲劇が起きないように。『殺し合いの全面禁止』。そして、この世界における一切の争いを解決するための、神聖なる新しいルールをね」

ケンは固唾を飲んだ。

血まみれの死闘の末に、14歳の少年が勝ち取った平和。

彼が残した、争いをなくすための絶対のルールとは一体何なのか。

「一切の争いは……『ドンジャラ』で決着をつけること、と」

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