瀬戸際
新キャラ登場します
ああどうしようどうしよう。頭がうまく回らない。こういう時に限って足は痛くて動かないし、動いたとしても一瞬で捕まるのは目に見えてるし、解決策は何も思いつかない。焦らなきゃいけないのに、頭の内側がぼんやりして、既に考えるのを諦めている。熊の巨大な手のひらが見える。それがまるで猪の突進するように吾めがけて飛んでくる。避けられるはずがないのに、嫌にゆっくりと見える。目を瞑って腹に力を込める。次の瞬間に吾の体が吹っ飛ばされて木の幹に衝突する。
「ぎゃっ!!......ぅあぁぁ......」
やばい。めちゃくちゃ痛い。絶対骨折れた。息ができなくて苦しい。頭から血がだらだら流れている。吾はこの巨大な熊の餌になるのを大人しく待つことしかできない。ていうか骨突き出てるやばいやばい。少しでも体を動かすと激痛が走る。苦痛に身をよじると、更に激しい地獄の痛みに襲われる。じっと耐えるしかない。ああ景色が霞んできた。もう駄目だ。追撃が目の前に迫ってきた。多分これでこの世とは本当におさらばだな......
「ぐおおおお!!」
大きな衝撃音と咆哮が聞こえた。と思ったら、熊はその場にどさりと倒れこんだ、と思う。もう視界が暗くなってるから分からない。助かったのか?なんで?
直後、ざっざと藪をかき分ける音がする。誰かが熊を狩ったんだ。吾はまた、生き延びた。涙と血の混じった暖かい汁が頬をつたう。生きている。激しい痛みを感じ、うめき声をあげている。生きているぞ、吾は生きている!
女の声が聞こえる。吾の作った帽子は頭から落ちて、狐の耳が見えてしまっている。吾が狐だとばれたら、とどめを刺されるかもしれない。だがそんなことはお構いなしに、助けを求めて言葉にならない声を出す。それでも喉を震わすのはかすかなうめき声ばかりだった。
そこから先の記憶は無い。
――魔女ロロの手紙――
ヨヨへ
結末から伝えるが、今日、狐と人の"混じり"に遭った。まあ、いわゆる聖獣というヤツだ。本当はあたしがお前の街まで行けばいいんだが、いかんせん事情が事情だから、至急あたしのとこに来てほしい。
来たらまた詳しく話すが、とりあえず今日起こったことを記しておく。
まず、あたしは日課の散歩と薬の材料採取に森に入っていた。そしたら熊がいたんだ。冬眠し損ねたヤツで、そこそこ大きかった。気配を消す魔法でやり過ごしたんだが、そのあと、熊が人を襲っていたんだ。人間は嫌いだが、別に見殺しにする趣味はないから、攻撃魔法を撃って熊をぶちコロした。それで、襲われてたヤツを助けてやったんだが、そいつが"混じり"だったんだよ。人間の体に、狐の耳と尻尾が生えている個体だ。それで今、あたしの家で保護している。
ここまではまだいいんだ。ここまではな。
聖獣と言ったって、数年に一度新聞に載るくらいには現れるんだ。もの凄い珍しいってわけでもない。問題なのは、この狐耳は"混じり"なんだが、聖獣ではないんだ。
分かるか?まず、魔法に正の向きと負の向きがあることはお前も知っているよな。魔物を殺す攻撃魔法と、人間や動物とかを回復する治癒魔法は、本質的には一緒だ。こいつらはどっちも正の向きだからな。逆に、人間や動物が死ぬ魔法は、魔物にとっては治癒の効果がある。こういう魔法は負の向きだ。
あたしはうめき声をあげていた狐耳に治癒魔法をかけようとしたんだ。もちろんかけるのは正の向きの治癒魔法だ。聖獣なら特に効きやすい。それが正しいんだが、その時あたしは変な予感がして(こういうのを女の勘って言うのか?)、あたしは咄嗟に負の魔法をありったけかけたんだ。衰弱しきっているから、少しでもカスればとどめを刺すことになる。そのはずなのに、狐耳はみるみる回復したんだ。おかしいだろ?
こいつからは神々しさが感じられなくて、代わりに薄っすらと禍々しさが漂っていた。さっき書いた"変な予感"っていうのがこれだよ。要するに、この子は聖獣じゃなくて魔物の一種なんだ。だからお前がいる街に入れないんだ。見た目は聖獣でも、結界が弾いてしまうからな。だから、教会に見つかると厄介なんだ。
特にお前には、面倒を見てやってほしいんだ。あたしは子育てなんてできっこないからな!だから、なるべく早めに来てほしい。代わりに、あたしが作った薬で高く売れそうなのは持ってってもいいぞ。じゃあ、頼んだ。
最近寒いから、風邪ひくなよ。
ロロより
――薬屋ヨヨの手紙――
ロロちゃんへ
分かったわ。三日もあれば着くと思うから、それまではがんばって頂戴。
あと、ロロちゃんだって女の子なんだから、ぶちコロすなんて汚い言葉使っちゃいけませんよ。お姉ちゃん悲しいです(しょぼん)。なんてね。
じゃあ、着いたらまた連絡するわ。
ヨヨより
一万字超えました。やったあ!




