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白ぎつね  作者: 野ささげ
4/6

弱り目

地震の影響で少し日が空きました。これからもどうぞよろしくお願いします。

 この洞窟で目覚めてから二十日。

 ここでの暮らしにはすぐ慣れた。なぜかってそれは、かつての(われ)の暮らしと大差ないからだよ。まったく、せっかく人になれたというのにどういうことだ。

 まず、洞窟の出口から差す光で目が覚めるだろ。そしたら、食い物を採りに行く。帰りに湖で水を飲む。たまにそこで体を洗う。帰ったら飯を食う。雨の日は、濡れるのが嫌だから外に出ずに昨日の余った分を食う。あ、湖と言えばこの前、魚を捕まえた。それを焼こうと思って初めてたき火をしたんだけど、前世での見よう見まねだから中々火が起こせなくて、やっと魚が焼きあがった頃には陽が沈んでいた。ちなみにうまかった。苦労した甲斐があったよ。あとは、この頃夜は冷え込んできたから、蓑と笠も作った。ぬくぬく~やったね。

 こんな感じ。あとは大体寝てる。はあ......暇。なんというか、もっと人と触れ合って楽しい感じな暮らしがしたい。

 ちなみに、蓑と笠はただ寒さを凌ぐためだけに作った訳ではない。こいつらは、吾の忌々しい尻尾と耳を誤魔化すのに一役買っているのだ。流石、吾は冴えてるな。修行僧なんて大体はこんな怪しい格好だったから、ちょっと姿を見られたくらいで正体がばれることは無いはずだ。多分。......大丈夫だよね?あとで湖に変装姿を見に行くか。


――お昼過ぎ――

 木の実と魚を食い腹が膨れてから、ここは一体どこなんだろう、とずっと考えている。吾が死ぬ前にいたのは都の外れだ。伊勢とか出雲とか、地名は知っている。ここがどこだか分かれば、元いたところに帰れるはずだ。そう思っていた。

 さっき食い物を探している時、兎がいたんだ。吾に気付いてさっさと逃げていったが、吾はそいつの姿に心底驚いた。その兎には、二本のつのが生えていた。驚いた。思い返せば、森の草木は吾の名前の知らないのが多かった。東国辺りの遠いところにでも来たのかと思っていたが、さすがにそこでも兎につのが生える訳あるまい。

 吾はもしかして随分と遠くに来てしまったのではないか、もしやここは日本ですらないのではないか。そうなんとなく気づいて、じわじわと恐ろしさが浮き上がる反面、心のどこかで安心もしている。過去のしがらみ、というほどでもないが、そういう嫌な思い出のあった場所からやっと逃げおおせたような気がする。これはなんと言い表せば良いのだろうか。

 あ、もう日が暮れてしまった。馬鹿なこと考えてるからだぞ。おやすみ。あ~あ、言葉話せても独り言ばかりだな。宝の持ち腐れだ。

 ちなみに、湖を覗いた吾の姿は顔が見えなくて怪しい感じになってしまっていた。まあ仕方ないだろう。あと、魚は三匹釣れた。大漁だな。


 翌朝。肌寒いなぁと思い外を覗いて、吾はびっくりした。雪が積もっていた。

 しまった。

 木の実が採れなくなってきたとは思ってたが、ああそうか、もう冬か。季節は流れるように過ぎてしまうな。そろそろ覚悟を決めないといけない。人里へ出るぞ。この洞窟におさらばする。

 とはいえ、本当に行くべきなのか?そもそもこの近くに人がいるのかすら吾は知らないんだぞ。それに、木の実が無いなら魚を食えばいいだろう。湖は寒いが。わざわざ危ない橋を渡らなくてもいいじゃないか。吾が狐だとばれたらどうするつもりなんだ?吾。でもそれは吾の望んでいた生活ではない。やはり吾は、楽しい暮らしがしたいのだ。だから吾は決心するのだ。死んでもいい。ここに引きこもるよりかは全然ましだ。どうせ一度死んだのだ。好き勝手やってやるぞ。よし、吾はやる!


 笠を被って、蓑を着こむ。昨日の魚を焼いて食って腹ごしらえする。持っているのは杖代わりの木の枝、それと残り少ない木の実だけ。


 洞窟を出て振り返る。

「じゃあな。世話になったよ」

 あても無くのろのろと、歩き始めた。


 夕方になった。また足が痛くなって、何回目かの休憩を挟もうと思った矢先......


 心臓が一発大きく跳ねた、と言えば分かるだろうか。吾はおののき、目をまんまるに見開いた。体が石のように動かない。懐かしいな~。あの時も確かこんな気持ちだったよな。腰が抜けて尻もちをついた。小刻みに震える吾の目は「そいつ」から離れない。吾、死んじゃうのかな。二度目の生はあっけないな。血の気が引いてるのが分かる。流石にまだ死にたくないな~あはは。


 吾の目の前には巨大な熊がいた。

絶体絶命!

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